高木豊インタビュー 前編

 セ・リーグの首位を独走し、リーグ優勝が秒読み段階に入った阪神。その先のCSにも死角はないのか。

かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に、チームの現状やCSに勝ち上がってきてほしくなさそうなチームを語ってもらった。

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【CSに向けて課題を挙げるとしたら?】

――阪神の状態をどう見ていますか?

高木豊(以下:高木) もちろん阪神は力があるチームなのですが、他球団の粗さが目立っているため、阪神に少し粗さがあっても目立たないんです。藤川球児監督がそれを消しているという側面もあると思います。

――藤川監督が粗さを消している?

高木 例えば、小幡竜平の状態の悪さが長続きしそうと見るや、サッと熊谷敬宥をショートで使ってみたり、選手をけっこう休ませながら使っていますし、隙を作らないんです。熊谷は走ることが専門という感じでしたが、スタメンで使えるようになってきましたし、高卒5年目の髙寺望夢にも経験を積ませています。

あと、これだけゲーム差が離れていると、いろいろなことを試せますね。20歳の井坪陽生、21歳の中川勇斗を試したりして経験を積ませ、戦力を拡大していっているんです。

――あえて課題を挙げるとすれば?

高木 実力と経験を備えた脂の乗ったレギュラーが多いという意味で、控えとの力の差は少し感じます。ただ、ここまで投打どちらの割合で勝ってきたかといえば、ピッチャーで勝った試合のほうが多いんです。1対0、2対0といったロースコアの接戦は高い確率でモノにしてきている強みがあります。決して打線の破壊力で勝ってきたチームではありません。
 
もし、リードオフマンの近本光司や大黒柱の佐藤輝明がケガして離脱したとしても1、2点は取れるはず。そう考えると、レギュラーと控えとの力の差も死角にはなりません。

さらに、バッターもピッチャーもタイトル争いをしている選手が多いので、油断することもないと思うんです。

――モチベーションを維持し続けることができますね。

高木 ただ、クライマックスシリーズ(CS)は別物です。余裕をもってゴールを切ると思いますし、タイトル争いも決着するでしょう。そうなれば、ある程度ホッとしますよね。クリーンナップの森下翔太、佐藤、大山悠輔は"ゲーム感"というか、リズムがものすごく大切なバッターたちなので、休養を与えたあとのパフォーマンスはあまりよくない傾向がある。課題を挙げるとしたらそこじゃないですかね。

 森下はノリでできる側面もあるので、ほかのふたりとはタイプが違うような気がしますが、気になるのは佐藤と大山です。短期決戦のスタートの切り方は非常に難しいと思いますよ。優勝すれば、試合(CSファイナルステージ)まで期間が空きますしね。

【CSで戦いやすそう、戦いにくそうなチームは?】

――阪神にとって、CSで戦うことになったら嫌なチームは?

高木 DeNAじゃないですかね。東克樹、アンドレ・ジャクソン、アンソニー・ケイらが先発登板してくるようだと嫌だと思います。

彼らの状態がよければそう簡単に打てませんし、長打も出にくいですから。打線も、技術の高いバッターが揃っていて爆発力がありますしね。

ほかのチームだと、まず巨人に関しては、今年の阪神戦の戦い方がまったく思惑通りにいっていません。苦手意識もあるでしょうし、特に「甲子園で勝てない」という負のイメージもあるはずです。

広島は状態次第ですね。その時の選手たちの状態にすごく左右されるチームですし、いい状態で来られたら阪神も手を焼くでしょう。大瀬良大地や床田寛樹、森下暢仁らは対戦も多いので、攻略法をわかっていると思いますが、森翔平や髙太一といったピッチャーをぶつけてくる可能性もあります。

中日とは、ここまでの対戦成績がよくないですね(8勝9敗)。中日もピッチャー主体のチームですから、打線が点を取れずに勝ちきれないことも多いイメージです。短期決戦はまた違うかもしれませんが、中日が対戦相手でも嫌でしょうね。

――阪神は機動力を使えるかどうかもポイントになりそうです。

高木 特に広島が上がってきた時はそうですね。

広島の弱点は、坂倉将吾がマスクをかぶった時に走られてしまうということ。得点圏に行かれてしまうと、阪神はクリーンナップの誰かが返すんです。なので、走られないキャッチャーを使うかどうかが短期決戦では特にポイントになります。藤川監督は、広島が走られるのを嫌うチームであることをしっかり頭に入れてやっているので、CSでも徹底するはずです。

――阪神は、短期決戦でもシーズン通りの戦い方をすべき?

高木 それで十分ですよ。先発ピッチャーも充実していますから、先発の一角を崩してもいい。三振を取れるジョン・デュプランティエを中継ぎに入れても面白いですね。藤川監督は目立ちはしないのですが、着実にやってきたと思いますよ。先ほど挙げた熊谷や島田海吏らは、以前は走ることが専門みたいな感じでしたが、打つことも含めてちゃんと戦力にしてきているんです。
 
 危機管理ですよね。例えば、CSの相手が巨人になった場合はフォスター・グリフィンや井上温大、DeNAの場合は東やケイといった左の先発ピッチャーが出てくる可能性が高い。広島も先発は床田、森、髙、中継ぎもテイラー・ハーンや森浦大輔ら左ピッチャーが多い。

そういった時の"左対策"としても熊谷らを備えていると思うんです。シーズン中からある程度打席に立たせ、打てれば自信になるし、打たなくても走り専門でいけばいいんです。

 短期決戦はレギュラーシーズンとは別物ですが、藤川監督が隙を見せるとは思えない。先ほど話したように、佐藤と大山のCSの入りに少し不安があるくらいです。まだリーグ優勝も決まっていないので気は早いですが、CSでどんな選手起用・采配を見せるのか注目しています。

(後編:高木豊はセ・リーグDH制に違和感「なぜ国際基準に合わせなければいけないのか」 リプレーセンター導入は賛成>>)

【プロフィール】

高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。

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