ゴールレスドローに終わったメキシコ戦から中2日。W杯本番を見据えた準備を進める日本が、アメリカと対戦して0-2で敗戦を喫した。

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 試合間隔は同じ中2日でも、今回の試合がアメリカのホームで行なわれたことや、アメリカが3日前の韓国戦を同じ東エリアで戦っていた点を考えれば、西から東への大移動と3時間の時差を強いられる日本にハンデがあったのは間違いなく、戦前から敗戦の可能性は十分にあると予想できた試合でもあった。

 ただ、W杯に向けた準備試合ゆえ、結果が伴わなくても試合内容がよければ大した問題にはならないが、この試合の日本は、残念ながら試合内容でも厳しい現実を突きつけられた。むしろ、今回の9月シリーズ2試合であぶり出されたのは、W杯アジア予選の戦いのなかで覆い隠されていた、前回W杯以降のチーム強化にかかわる本質的な問題点だった。

 その意味では、森保一監督がこの試合の前半を3-4-2-1で、後半には4-2-3-1の布陣をチョイスしたことが、皮肉にもその問題を可視化してくれたとも言える。

 果たして、それぞれの布陣はどのような課題を抱えているのか、あらためて振り返ってみる。

【アメリカが個で日本を上回った】

 まず前半の日本は、アジア予選で威力を発揮したことによって森保監督が現在の基本布陣とする3-4-2-1を採用した。ただし、中2日という日程も考慮して、メキシコ戦からスタメンを総入れ替え。左ウイングバック(WB)は前田大然が務めたが、右WBに望月ヘンリー海輝を起用し、両WBに純粋なアタッカーを配置するパターンではなかった。

 今回の招集メンバーでは伊東純也を右WBで起用すると、メキシコ戦のスタメン以外でシャドー起用に対応できそうな駒は見当たらない。おそらく、森保監督が事前にターンオーバーを公言していたことからすると、当初からこの起用を想定していたと思われる。そこは、個人のテストという意味合いが強かったのかもしれない。

 対するアメリカのマウリシオ・ポチェッティーノ監督は、基本布陣の4バックシステムではなく、この試合では3-4-2-1を採用。つまり日本に対しては、同じ布陣によるミラーゲームでの勝負を選択したことになる。

WBを務めたのは、本職が右サイドバック(SB)の16番(アレックス・フリーマン)、左には本職がウイングの18番(マクシミリアン・アーフステン)で、片方のサイドのみにアタッカー系を起用するという点では、日本と同じだった。

 ミラーゲームになった試合は、開始から各ポジションの選手がそれぞれマッチアップするオールコートマンツーマンの構図になった。当然、このような状況では、1対1で相手を剥がしたり、相手のマークを外す動きでズレを生じさせたりするプレーが優位性を手にするポイントになる。より各選手の個人能力が試される。

 どちらのチームも前から圧力をかけやすいこともあり、序盤はお互いが相手のビルドアップを自由にさせない展開だった。その一進一退の攻防のなか、違いを作り出したのがアメリカの左シャドーを務めたクリスチャン・プリシッチ(10番)だ。

 マッチアップする関根大輝を試すかのように、ボランチの位置まで下りて数的優位を生み出すと、彼を起点にアメリカが日本のプレスを回避。ボールの出口となって、アメリカのスムースな前進が顕著になった。日本も鈴木唯人が同じ役割を担おうとしたシーンもあったが、質、両ともにプリシッチが上回っていたことは否めない。

【WBのアタッカー配置がデメリットに】

 結局、ミラーゲームを制したのはアメリカで、特に攻撃が活性化した左サイドではWBの18番も望月との1対1で優勢となり、先制点も18番の突破からのクロスから生まれている。前半の途中から、日本が自陣で5バック(5-4-1)になって守る時間帯が長くなっていただけに、アメリカのゴールは必然だったと受け止めるべきだろう。

 もちろん、日本がメキシコ戦のスタメンで戦っていたら個の質と量も変化するので、違った試合展開になっていた可能性はある。しかし、来年のW杯では実力的に日本が上回るような相手との対戦も確実にあることを考えると、日本がその試合をローテーションで臨めばカタールW杯のコスタリカ戦の再現となるケースも十分に考えられる。

 スタメン編成から見えた課題とは別に、布陣そのものの矛盾も見え隠れした。

 この試合の前半、両WBにアタッカーを配置しなかった日本は、計9本のクロスボールを記録した(右サイドが4本で、左が5本)。堂安律、三笘薫を配置したメキシコ戦の前半はクロスがゼロだった点を考えると、決してアタッカーを配置すればサイド攻撃が機能するわけではないことが証明され、実際に両サイドから相手ゴールを脅かしたシーンはメキシコ戦よりも多かった。

 守備面も然り。メキシコ戦も同様だったが、対戦相手の力量や対策次第では、日本が自陣で5バックになって守る時間が長くなる。そうなると、WBにアタッカーを配置する効果は半減するどころか、大事な局面で致命的なミスが発生する確率も高まる。日本の1失点目は、その顕著な例と言っていいだろう。

 つまり、9月シリーズの2試合で明確になったのは、攻守両面で両WBにアタッカーを配置する3-4-2-1のメリットがデメリットになり、布陣の強みとその運用方法に矛盾が生じていることだった。それは、アメリカ戦とは異なるスタメン編成で戦ったメキシコ戦にも共通して言える。

 アジア予選では、日本が敵陣でボールを保持しながら攻め続ける時間が長かったので、そこは大きな問題にはならなかったが、予想どおりと言うべきか、いずれ顕在化すると思われた現状の3-4-2-1の構造的問題が、いよいよリアルに現われた格好だ。

【4バックは以前の問題を放置したまま】

 一方、後半に採用した4-2-3-1(守備時は4-4-2)は、さらに大きな問題を抱えている。この布陣は、森保監督が就任した当初から長く愛用されてきたものだが、昨年3月21日の北朝鮮戦(W杯アジア2次予選)を最後に、ぱったりと採用されなくなった。

 なぜかと言えば、その直前のアジアカップで破綻したままその布陣で戦ったその試合で、北朝鮮に押し込まれるほど機能性を失ってしまったからだ。その次のミャンマー戦(2024年6月6日)からアタッカーを両WBに配置する3-4-2-1を採用したその経緯を振り返れば、急に採用しても機能するはずがない。

 おそらく森保監督は、1点のビハインドを挽回するために、前線の人数を増やそうと4-2-3-1を採用したのだろうが、結果的にそれは逆効果だった。日本が4-2-3-1を採用する時の課題は、3バックの相手に前からハメられないと劣勢を強いられ、ロングボールを多用されると守備の安定性も失われてしまうことにあった。特にこの試合の後半の劣勢は、4-2-3-1における前者の問題を先送りにしてきた代償と言っていい。

 結局、日本の後半のクロスは8本と前半とほぼ変わらなかったが、ゴールチャンスにつながるようなサイド攻撃はひとつも作れなかった。3バックで2度の好機(21分の望月のヘディングシュートと、45分の佐野海舟のミドル)を作った前半と比べても、ウイングを前線に配置する4-2-3-1の攻撃面の強みを出すこともできなかった。

 それも含めて、4-2-3-1の問題に対する明確な解決策を見つけられていない状態が現在も続いていることが、あらためてこのアメリカ戦で浮き彫りになったと言える。

 そもそも、日本がアジア地域以外の代表チームと対戦したのは、2023年10月にホームで行なわれた親善試合が最後。国内親善試合として対戦したカナダ戦とチュニジア戦だが、アウェーの地での対戦となると、同年9月のドイツ戦とトルコ戦にまで遡る。

 敵地でドイツに勝利したことで日本サッカー史の金字塔とまで言われたあの親善試合から約2年もの間、日本はアジアの戦いだけに終始した。もちろん、その間はアジアカップとW杯予選でスケジュールが埋まってしまうので仕方のない部分はあるが、そのなかで現実を見失ってしまった代償が小さくないことは、いまあらためて考える必要があるだろう。

 3バックも4バックも不安要素が山積する現状、果たしてW杯本番までに戦術の再構築はできるのか。立ち返る場所が失われつつある日本にとって、残された時間は多くない。

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