西武・滝澤夏央インタビュー(後編)

前編:身長164センチの滝澤夏央はいかにしてレギュラーの座をつかんだのか>>

 球界で最も低い身長164センチながら、卓越した守備力とスピードで今季台頭しているのが西武・滝澤夏央だ。

「小学生の頃からスピードと守備は、負けていない自信がありました。

まさか自分がプロ野球選手になるとは思っていなかったですけど(笑)」

 NPBには身長190センチを超える選手も少なくないなか、圧倒的に小さい滝澤はなぜプロ野球選手になれたのだろうか。いま振り返ると、恵まれていたのは生まれ育った環境だった。

身長164センチのプロ野球選手、西武・滝澤夏生の矜持 「低く...の画像はこちら >>

【地元の高校から甲子園に行きたい】

 6歳上の長男・拓人、2歳上の次男・有亮(ゆうすけ)とふたりの兄を持ち、滝澤家の三男として生まれた。父親と兄たちの影響で、物心ついた頃から自然と野球を始めていた。

「運動能力は遊んでいるなかで磨かれたと思います。僕、兄貴たちを目標にずっとやっていたので。やっぱり兄貴にはかなわないと思ってやっていました。もともとの才能ではないと思うんですね」

 スポーツの世界では、兄弟で三男が最も大成したという話は少なからずある。兄の背中を追いかけて早くから同じ競技を始めることと、格好の練習相手になることなどが考えられる。

 滝澤のふたりの兄は、ともに身長170センチに満たない。それでも、子どもの頃から新潟県上越市内で知られる存在だった。

 長男の拓人は地元の関根学園に進学し、高校2年生で迎えた2014年夏、ショートとして新潟県大会決勝に進出する。初めての甲子園出場をかけて日本文理と戦ったが、サヨナラ負けを喫した。

 ハードオフ・エコスタジアム新潟に応援で駆けつけた当時小学5年生の滝澤は試合後、母親に付き添われて関根学園の安川斉監督(現在は顧問)へあいさつに訪れた。5年後、入学の意思を伝えるためだ。

「覚えていないですけど、僕はその試合を見て、関根学園で甲子園に行きたいという夢を持ちました」

 中学卒業が近づき、強豪校からも声をかけられたが、滝澤は初志貫徹。理由のひとつは、兄の無念を晴らしたかったことだ。

「それもありますし、ほかの県外や市外の強豪校で甲子園に行くよりも、関根学園は自分の地元そのものなんです。だからこそ、『地元の高校から甲子園に行きたい』という気持ちが強かったと思います」

【野球を始めた時から夢はプロ野球選手】

 滝澤は新潟県上越市出身で、関根学園は日本スキー発祥の地と言われる金谷山の麓にある。学校の授業でスキーやスノーボードもやったというが、腕前は「人並み」だったという。

 一方、野球の実力はすでに県内に知れ渡っていた。ショートが本職ながら、高校3年夏の県大会では背番号1をつけてマウンドに登った。

 卒業後の進路を具体的に考え始めた頃は、まだ大学進学を視野に入れていた。ある強豪大学の練習会に参加すると、監督に惚れ込まれた。だが滝澤には、もうひとつの思いがあった。野球を始めた頃からずっと、目指してきたのは最高峰の舞台だった。

「プロ野球選手っていう目標は、野球を始めた保育園の頃から一回もブレていません。『将来の夢』を書く機会がいろいろあるじゃないですか。恥ずかしくて正直言いたくなかったけど、僕は絶対プロ野球選手になりたいという気持ちのほうが強かったので、恥ずかしがらず、『プロ野球選手になる』と言っていました」

 恥ずかしくても人前で夢を言い続けたのは、口にすることで目標達成への推進力に変えるためだった。

「言うからには、それなりの成績を残さないといけないという気持ちでやってきました。高校に入った時、1年生と3年生では体も違いますし、やっぱり無理かなと思いましたけど。でも高校2年の秋に見に来てくれたスカウトの方がいて、そこまで自分が来たんだったら、最後まで目指そうって。そこで自信が出たというか。スカウトが見に来るまでは、そんな自信は全然なかったですね」

 迎えた2021年のドラフト会議。西武から育成2位で吉報が届いた。考え方次第では大学経由で4年後、支配下での指名を目指す道もあったが、滝澤は目の前の機会に飛びついた。

「大学に行って4年後、プロに行ける保証もないなかで、ここにチャンスがあるんだったら行きたいなと思いました」

【周囲と違う特徴は自分にとっての強み】

 それから西武入団4年目の今季。前年までセカンドのレギュラーだった外崎修汰がサードにコンバートされたチーム事情もあってチャンスをつかみ、源田壮亮をベンチに追いやってショートで先発出場する機会も増えている。

 すべて、自分の意志と実力でつかみ取ったものだ。

 そうして立っているプロ野球のフィールドで、身長164センチ、体重65キロの滝澤は、大男たちのなかで見るからに小さい。いろんな意味で、これまでも「小さいのに」という目を向けられてきただろう。本人には気になるものだろうか。

「ぶっちゃけ、気にはなりますね。というより、『見てろよ』みたいな気持ちのほうが強いですけど」

 原動力は負けず嫌いと、野球が大好きという気持ちだ。周囲と明らかに違う特徴は、自分の強みと捉えている。

「プロ野球選手のなかで一番小さいというのは、アピールポイントだと思っています。大きい選手には、僕のようなプレーはできないと思いますし。この体でプロ野球選手になった以上、『身長が低くてもやれる』という姿を見せることが、自分の使命のように感じています。

 プロ野球選手になったからには、ひとつの目標があります。それは憧れの存在になることです。

身長で悩んでいる人に、自分が活躍する姿を見てもらって、『小さくてもできるんだ』っていうところを見てもらいたいなという気持ちですかね」

 レギュラー奪取を目指した今季。数字的にはまだ十分とは言えないが、ある程度のところまできた感覚はある。

「自分のなかで、毎年キャリアハイを残すのは当たり前のことだと思っています。今季ここまでこれだけ試合に出られているということで、最低限のことはできているんじゃないかと、自信にもつながっています。だからこそ、さらに上を目指して、決して満足せずに挑戦し続けようという気持ちになれるのだと思います」

 守っては二遊間のどちらかで起用されているが、ショートへのこだわりはあるのだろうか。

「あまりないですね。でも、ひとつのポジションにこだわりたいのはあります。セカンド、ショートを交互というより、1つのポジションを誰にも渡さないようにしたいです。でも、それでも試合に出させてもらっているので、今は今で頑張りたいと思います」

 滝澤にとって大きな転機となったプロ4年目。オールスターにも監督推薦で選ばれ、その先も期待される。たとえば、いつか日の丸を背負って晴れ舞台に滝澤が立てば、大きな歓声が送られるに違いない。

「正直なところ、自分は日本を背負って戦うとかは、ちょっと僕にはできない。

まだまだそんなレベルじゃないですね」

 今はまず、西武で足場を固める段階だ。

「そうですね。もっと頑張らないと......ですね」

 シーズン前半に比べ、打撃成績が落ちてきている事実は滝澤自身が最も受け止めている。今季大きく感じられ始めた自らの可能性を最大限に膨らませるために、まだまだ挑戦を続けていく。

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