篠塚和典が語る今シーズンの巨人 投手編
(前編:リチャードへ、確率を上げるための打撃を指南 泉口友汰の打撃を「少し取り入れてみてもいい」>>)
篠塚和典氏に聞く巨人の投打の現状。後編ではピッチャー陣と、クライマックスシリーズ(CS)を戦う上でのポイントを聞いた。
【3本柱がいないと厳しい】
――今シーズンのピッチャー陣をどう見ていますか?
篠塚和典(以下:篠塚) 課題だらけですよ。野手もそうですが、そういうシーズンになってしまっているという感じですね。計算ができる菅野智之(ボルチモア・オリオールズ)が抜け、ある程度計算していた戸郷翔征が勝てていないこと(6勝8敗、防御率4.13/9月14日時点、以下同)。昨シーズン以上の活躍を期待していた井上温大(4勝8敗、防御率3.70)も勝ち星を伸ばせていません。
――山﨑伊織投手(10勝4敗、防御率1.74)は安定していますが、昨シーズンと比べて何がよくなりましたか?
篠塚 やっぱり昨シーズンからの経験ですよね。彼のピッチングには、"バッターに向かっていく姿勢"を感じるんです。昨シーズンと比べて投げているボールが変わったわけではなく、向かっていく姿勢がより強くなったような気がします。
あと、微妙なコースをボールと言われても、嫌な顔をしない。自分のなかに自信が芽生えている証拠ですよ。自信がない選手ほど表情に出してしまうので。
――"向かってくるピッチャー"はバッターとしても嫌ですか?
篠塚 それは嫌ですよ。割とインコースも強気に攻めていたりしていますしね。キャッチャーのリードもあるのでしょうが、構えたところにしっかり投げられています。
――ほかの投手はいかがですか?
篠塚 フォスター・グリフィンは、今年は途中まではよかったのですが、故障グセがあります。ほかにも赤星優志ら先発ピッチャーの数はいますが、いい時と悪い時の波が激しい投手ばかりです。"3本柱"とはよく言いますが、やっぱり3本はしっかりした先発ピッチャーがいないと厳しくなりますよね。繰り返しになりますが、シーズン序盤に戸郷が崩れてしまったのが痛かったです。
――大勢投手、ライデル・マルティネス投手とリリーフ陣が強力な一方、先発ピッチャー陣に誤算が多かったですね。
篠塚 中継ぎもそうですけど、先発ピッチャーがしっかりしないと後ろにつなげないわけです。そういう意味で、今シーズンは投打の両面で安定して活躍する選手が少ないというのが、波に乗り切れない要因じゃないですかね。シーズン終盤になって、やっと故障していた選手たちが戻ってきましたが、阪神に大差をつけられて優勝を許してしまいましたね。
【CSのポイントは?】
――2位の巨人から5位の中日まで6.5ゲーム差と、CS出場をかけた争いも予断を許さない状況です。
篠塚 先ほど(打者編で)お話しをしたことに通じるのですが、もう少し細かくいろいろなことをやっていくべきです。泉口友汰がバットを短く持って打率を上げ、周囲の状況を見ながらバッティングができるようになりましたが、そういった工夫をチーム全体でしていくべきでしょう。
昨シーズンはロースコアの接戦をものにした試合が多かったのですが、今シーズンは逆に、ロースコアの接戦を落としてしまうことが多い印象です。特に阪神戦で、それが顕著に出ていますよね。なので、攻撃も守備も雑にならないよう、もう少し細かい部分を徹底すべきじゃないですか。
――CS進出を決めたと仮定した場合、短期決戦でのポイントになるのは?
篠塚 選手の状態でしょうね。短期決戦は流れを先につかんだほうが有利ですから、コンディションを整えて1戦目にどう入っていけるかがポイントになると思います。逆に流れをつかめないとチームの雰囲気は重くなりますし、流れをつかむ前に終わってしまいます。
それと、やはり巨人の場合は先発ピッチャーですね。最低でも6イニングまで投げてほしいところです。そうしたら間にひとり挟んで、8回と9回は大勢とマルティネスがいるので。第1戦は戸郷に任せるのか、山﨑に任せるのか。そこは、どのチームが相手になるかにもよると思います。
――打つほうのキーマンを挙げるとすれば?
篠塚 全員です。誰がどうこうではなく、全員で戦っていくっていうような形でいかないと。特に1番から5番までですよね。岡本和真は調子がいいと歩かされてしまうので、その後ろを誰に打たせるかも重要です。
――篠塚さんが上位打線のオーダーを組むとすれば?
篠塚 泉口は右ピッチャーでも左ピッチャーでも関係なく打てますから、1番に起用してもいいのかなと。いい数字を残していることもありますし(打率.295、出塁率.357)、守備もある程度安定していますから。2番、3番は丸佳浩なのか、吉川尚輝か若林楽人か......状態のいい選手を入れて、いかに4番の岡本の前にランナーをためられるかですね。いずれにせよ、1番から5番までがどう機能するかがカギを握っていると思います。
【プロフィール】
■篠塚和典(しのづか・かずのり)
1957年7月16日生まれ、東京都出身、千葉県銚子市育ち。1975年のドラフト1位で巨人に入団し、3番などさまざまな打順で活躍。1984年、87年に首位打者を獲得するなど、主力選手としてチームの6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。1994年を最後に現役を引退して以降は、巨人で1995年~2003年、2006年~2010年と一軍打撃コーチ、一軍守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任。