ビビる大木×宮本慎也

前回に続いて宮本慎也さんに現役時代のメンバーから、ショート、サード、センター、ライト、レフトを選び、最後はそのベストナインで最強打線を組んでもらった。今回惜しくもベストナインには入らなかった巨人の坂本勇人選手との裏話も公開。

宮本慎也が選ぶベストナインと巨人・坂本勇人弟子入りした舞台裏...の画像はこちら >>

【サード、ショートはこのふたり】

ビビる大木(以下、大木)じゃあ、サードいきましょう。

宮本慎也(以下、宮本)中村紀洋ですね。ホームランバッターばっかりですね(笑)。僕らは一時、ジャイアンツがホームランバッターを揃えて、みんな「(ジャイアンツは)ホームランでしか点が取れない」って言っていましたけど、「いやいや、ホームランでめっちゃ嫌なんだけど」って思っていました。 東京ドームか神宮球場でやるわけじゃないですか。札幌ドームでやらせてくれと思うぐらい。3点ぐらい勝っていても、バカンバカン打たれて終わっちゃいますからね。

大木 じゃあショートは?

宮本 二択なんですけど、坂本勇人か松井稼頭央。ショートで40発撃った人もあまりいないなかで、坂本は2人目ぐらいですかね。稼頭央はもう超万能じゃないですか。 

大木 守備だけでいくとどっちですか?

宮本 守備範囲でいうと稼頭央のほうかな。確実性でいったら、坂本のほうがいいかもしれない。

大木 いいところが違う守備なんですね。

宮本 そうですね。どちらかというと坂本って派手なように見えて意外と堅実なんですよ。 稼頭央は結構派手系なので、決まった時に「おぉ!」っていうような守備なんです。カットとか中継から投げるボールとか、あれは異常ですよね。そう考えると稼頭央かな。走れますしね。

大木 三拍子そろっていましたね。マスク(顔)もいいですしね。

宮本 そうですね。あ、ノリ入れちゃった(笑)。

【他球団の坂本勇人に教えた理由】

大木 ノリさんもいいマスクですよ。外野手にいく前に、坂本選手の話を聞いていいですか? 宮本さんに弟子入りしてきた時の坂本選手の守備はいかがでしたか?

宮本 ダメっていうか、キャッチボールがめちゃくちゃひどかったんです。

大木 そんなことあるんですか?

宮本 ほとんどそうです。

大木 プロに行く選手でもですか?

宮本 はい。キャッチボールに臨む気持ちがよくないんです。みんな肩ならしなんですよ。

大木 なんなんとなくやっちゃうんですね。

宮本 これから練習が始まるなぁぐらい。もったいないでしょうと思って、これはスローイングの練習なんです。ここでいいボール投げられないのに、ゴロを取っていいボールなんか投げられるわけがないでしょって。 僕はそういう考えでキャッチボールをちゃんとしないと、と思っていました。 

 まず投げ方からですよね。スローイングが下手な人って体を横に使っちゃうんですよ。これをできるだけ縦に使っていかないといけないんです。 だからイメージは、バレーボールのアタックとか1本背負いっていうのを伝えていました。

これができると、基本的に悪送球が上下にしかいかないんですよ。左右にいかないです。

 そうすると、自分の(ボールを)離す位置だけになるので、送球の確率がすごくよくなるんですよね。  これを横に体を回しているうちは、360度(ボールが飛んで)いく可能性があるので、一向によくならない。 この"体を縦に使う"っていうのをしつこく言いました。 ここが解消すると、ボールを取る練習はやっていればうまくなる。 

大木 それは、ヤクルトスワローズの面々から、敵に教える必要があるのか? みたいな話は出なかったんですか?

宮本 うちにも若いのがいっぱいいて、「坂本、代わりにバッティング教えろ」と交換条件ですね(笑)。

大木 それはそうか(笑)。 

宮本 そうですよ。かっこいい言い方になりますけど、僕はプロ野球のレベルが上がればいいと思って、僕の守備でみんなのレベルが上がるんだったら、誰でも教えますよというスタンスでした。あの時、特に張本勲さんには喝って言われていましたけどやりました。「ライバルチームのところに教えてもらいに行くなんかどういうことだ」って。

大木 昭和ですね。

宮本 昔はそうだったんですかね。坂本がすごいなと思ったのが、1年以上やり続けて「やっと分かりました」って言っていました。 だから、それだけ真剣にずっと毎日やり続けていたんですよね。 それができてスローイングのミスが激減したという話はしていました。

大木 坂本選手の弟子入りのきっかけは?

宮本 昭和の若大将(原辰徳)がですね、オールスターの時に「宮本、坂本を自主練習の時に連れて行って教えてくれないか」と。

大木 直接、宮本さんに来るんですね。断れないですね。

宮本 「ああ...はい...いいですよ」って(笑)。

大木 そうなりますよね。

宮本 原さんが「じゃあ、そういうことだ。勇人」ってその場で決まりました。

【名選手をそろえた外野手3人】

大木 それですごい結果が生まれているんだから、素敵な話です。 さあ、外野3人にいきましょうか。 

宮本 最初に出てくるのはセンターの松井秀喜。最後(アメリカに)行く前はもう早く行ってよって思っていました(笑)。

大木 最後は打っていましたよね。50号もスワローズからでしたし。

宮本 松井秀喜は僕らの時の大谷翔平みたいなものでした。松井はジャイアンツで、長嶋茂雄さんと二人三脚で順調に伸びていった選手でしたよね。

大木 2人目の外野手は?

宮本 左は金本知憲さん。試合に出続ける鉄人でしたね。ホームランも打てるし、チームバッティングもすごくするんですよ。 あとは休まない、責任を持ってプレーしているという、敵でしたけどすごく好きな選手でした。金本さんはやっぱり外せないですね。

大木 じゃあ3人目は?

宮本 これはもう絶対に選ばないといけない人がいるじゃないですか。イチローです。ここを外したらとんでもないことになる(笑)。

大木 それで苦情が来ることはないと思いますけどね(笑)。

宮本 第1回のWBCで一緒にプレーをしましたけど、守る、走るすべてにおいて、いくつそろっているの?って選手なんですけど、僕が一番感心したのは、ウォーミングアップから全部全力でやります。

 当然、早く行って入念に体をほぐしています。 ダッシュも8割とかじゃなく、ちゃんとダッシュします。走塁練習もだいたいは感覚でしかやらないんですけど、イチローはちゃんと走ります。守備練習もしっかりやります。当然バッティング練習もします。

 非の打ちどころがないんです。僕はその姿勢がすごいなって、僕もやっているって思っていたけど、ここが足りんぞと。 もうちょっと若いときに(その姿を)見せてくれたら、もうちょっと俺も稼げたなって(笑)。 

 やっぱり上には上がいるって、自分ではこれ以上できないんじゃないかと思うぐらいやっているつもりでしたけど、イチローを見たときに、やっぱりすごいって思いました。技術はもちろんそうなんですけど、技術以上に野球に取り組む姿勢っていうのが、こんな全力でできるんだなって思うぐらいでした。 

大木 WBC期間中はイチローさんとどんな話したんですか?

宮本 イチローが年下だけど気を遣うわけです。

大木 野球談義みたいにならないんですか?

宮本 彼も本気で第1回WBCに来ていたし、合宿に入る前に一緒に食事をしたんですよ。イチローには、できるだけ降りてきてほしいっていう話をしたんですよ。今、「俺、イチローと飯食ってる!」と思っていると伝えて(笑)。

 若い選手はないかもしれないけど、できるだけこう(近づいて)っていうふうに言ったら、「僕はもう普段どおりやります」と。「僕は学級委員とか、そういうのをやるタイプじゃなくて、副なんですよ。だから宮本さんがやってください」と言うので、「無理」と断ったんです。じゃあ、「一生懸命普段どおりやってくれ」ということで、「何かあったら、俺がサポートするから。気がついたことがあれば話をするね」っていう話をしたんです。

 イチローが内野手だったら、いろんな話できたかもしれないですけど、外野の名手じゃないですか。 だから、内野守備は言ってもわかんないだろうなって、心の中で(笑)。 

【どこからでも打てる強打線】

大木 ベストナインが出ましたね。じゃあ、4番を任せたいとなると、松中さんですか?

宮本 打順で言うとね、4番が重要じゃないです 。2、3番なんですよね。 そこに回数多く回ってきてほしいんですよ。イチローは1番なんですよね。 2番金本さん。 3番松井。 左ばっかりになりますけどね。 そうなると4番がノリ、5番松中。 

大木 これはご提案ですけど、松井が4番というのは?

宮本 僕は信用しているから早い3番に入れたんです。

大木 そういうことですね。でもこのメンバーで4番だったら......。

宮本 じゃあ、1番イチロー、4番松井、2番稼頭央で、3番金本さん。5番ノリ、6番松中、7番井口、8番古田さん。

大木 下位打線がないですもんね。どこからでも打てる。

宮本 そうですね。

Profile
宮本慎也(みやもと・しんや)/1970年11月5日、大阪府出身。1992年にドラフト2位でヤクルトスワローズに入団。2004年のアテネオリンピック、2008年の北京オリンピックではキャプテンを務め、2012年に2000本安打を達成。2013年に現役を引退。現在は野球解説者として活動している。

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