高木豊インタビュー 前編

 阪神が2位のチームに大差をつけてリーグ優勝したことで、再燃したクライマックスシリーズ(CS)のシステム問題。アドバンテージや、新たな実施の形などについて、かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に見解を聞いた。



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【現行のCSのシステム問題】

――現行のシステムでは、優勝チームに対してCSファイナルステージでの1勝とホームゲームのアドバンテージがあります。これについて、どうお考えですか?

高木豊(以下:高木) アドバンテージうんぬんの問題もありますが、極論を言えばCSは必要ないです。日本シリーズは優勝したチーム同士が戦い、かわりに2位と3位のチームを対象としたカップ戦などを別に作ればいいんです。

 そもそもCSは、興行のためだけでしかありません。興行であるのならば、選手や裏方に還元しているのか、という話ですよ。選手たちは厳しい日程で戦い、多くの試合をこなさなければなりません。ケガを押して出ている選手もいるはずです。そう考えると、収益のすべてを選手や裏方に還元すべきだと思うんです。

 阪神が優勝を決めた時、当時2位の巨人とは17ゲーム差もあって、2位以下はすべて借金を背負っていた。「そんなチームとは戦えない」と言えるのが、優勝したチームの権利だと思います。CSはゲーム差が大きければ大きいほど、リーグ優勝したチームに大きなプレッシャーがかかります。阪神の藤川球児監督が「リーグ優勝とCSは別のステージだ」という発言をしていましたが、そう考えなければやってられませんよ。

――2位と3位のチームを対象としたカップ戦とは?

高木 僕が考えたのは、セ・リーグパ・リーグの2位と3位の計4チームが総当たりで対戦するカップ戦です。

CSがなくなると消化試合が多くなり、興行面でマイナスになるという話になりますが、カップ戦を作れば興行的な価値を見出せますし、リーグ優勝したチームの尊厳を守ることもできる。正真正銘の崇高な日本シリーズが行なわれるわけです。

――あらためて、ファイナルステージのアドバンテージについてはいかがですか?

高木 アドバンテージを1勝ではなく2勝にする、といった意見が出たりしますが、逆にそこまでしてやるのであれば、もうやめたほうがいいですよ。仮にリーグ優勝したチームのアドバンテージが3勝だったら、(4勝で勝ち抜けの)ファイナルステージは1勝したら終わり。アドバンテージが2勝だとしても、優勝チームには勝てないと思います。

 ただ、CSは今後も継続されるでしょうから、やはりアドバンテージは再考しなければいけません。2位に10ゲーム差以上つけて優勝したら、そのシーズンのCSは実施しないとか、ファーストステージもリーグ優勝したチームの本拠地で開催して、収益を優勝チームに還元するとか。例えば今年のセ・リーグでいえば、すべて甲子園で開催して収益を阪神に還元するとか。そのくらいのものを優勝チームに与えないと割に合いません。

【両リーグ、全12チームの順位を決めるシステム案も】

――リーグ優勝とCSは別のステージと考えたとしても、リーグ優勝したあとにCSで負けてしまうと後味は悪くなりますね。

高木 リーグ優勝の名誉は消えませんが、精神的に嫌ですよ。本来は勝って終わっているはずなのに負けて終わるんですから。

優勝旅行をするにしても、おそらく「本当にいいのか?」みたいな感覚になりますよね。心のなかでは「我々が優勝したんだ」という気持ちを作り上げるでしょうけど、負けて終わってしまうと、なんとなくしっくりこないですよね。

 日本シリーズは、優勝チーム同士がガチンコで戦うから価値がある。3位のチームが日本シリーズに出て、勝って日本一を名乗れるというのは......今のシステムがそうなので仕方ないですが、どうしても違和感があります。昨年、3位から日本一になったDeNAはパレードをしていますが、一方でリーグ優勝した巨人も銀座でパレードをしている。おかしくないですか? 勝つチームはひとつでいいんです。

 確かにCSがあれば消化試合が少なくなって、最後までファンの興味を引っ張れて興行面ではいいでしょう。でも、先ほども言ったように何か別の大会を作れないのかなと思います。

――先ほどのカップ戦の案がそれに当たる?

高木 そうですね。日本シリーズ後だとファンの興味も薄れてしまうと思うので、やはり日本シリーズの前に開催するのがいいんじゃないかなと。日程などクリアしなければいけないハードルはいろいろあると思いますが、日本シリーズをかつてのような格調高い戦いに戻し、かつ興行面を考慮した新たな大会を作る。言葉で言うのは簡単、という話かもしれませんけど、そういったアイディアっていろいろあると思うんです。

 話が飛躍しますが、セ・リーグとパ・リーグのBクラスの合計6チームが戦う大会もあっていいと思います。その場合は、両リーグの4位のチームをシードとして、抽選で対戦相手を決めるトーナメント方式で争うとか。1回戦を同じリーグのチームで戦う場合もありますし、違うリーグで対戦する場合もある。そこで負けたチーム同士も戦って、6チームの順位を決めるのがいいんじゃないかと。

――優勝チーム同士の日本シリーズ、両リーグの2~3位チームが総当たりで対戦するカップ戦、両リーグのBクラスのチームが対戦するトーナメント。最大で3つの大会を同時に行なうということですね。

高木 そうです。それだと、12球団トータルの順位(1~12位)も決まるじゃないですか。それで、11位、12位になったらドラフトで1巡目の指名ができないというルールにするとか。そうなれば、各チームはシーズンが終わるまで勝つために必死になりますし、ファンもドキドキする。それくらいの危機感があったほうがいいと思います。

(後編を読む:高木豊が3リーグ制を提案 地域分け、毎年のシャッフルなど理想の形は?>>)

【プロフィール】

高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。

1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。

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