横浜DeNAベイスターズ・竹田祐インタビュー(後編)
横浜DeNAベイスターズのドラフト1位ルーキー・竹田祐にプロとアマの打者の違いについて聞くと「パワーですね」と即答した。
「スイングの強さが違いますね。
そう語る竹田は、どこかうれしそうだ。「プロでプレーをする楽しさはありますか?」と尋ねると、ルーキーはうなずいた。
「もうすごいバッターばかりなので楽しいですよ。ミスをすればホームランを打たれてしまいますし、そういうことも含めて楽しいなって思っています」
【2度のドラフト指名漏れを経験】
明治大の時、竹田はプロ志望届を出したがドラフトにはかからなかった。またプロを目指し社会人野球に進んだが2年目はドラフトから漏れ、3年目にしてようやく憧れだった世界に身を投じることができた。そんな喜びが竹田の様子から見て取れる。
今季、忘れられないシーンがある。8月24日の巨人戦(東京ドーム)、4対0でDeNAリードの5回裏、二死から竹田はリチャードにソロ本塁打を食らっている。初球の甘く入ったフォークを捉えられ、レフトスタンドの上段に突き刺さる特大の一発だった。
「あのホームランのあと、球場の歓声がすごくてちょっとおかしくなるほどだったんです。本当、身体に響くほどで初めての経験でした。ただ、以前の僕であれば、あのあと炎上していたと思うのですが、結果、満塁になっても何とか粘って最少失点で抑えられたのは大きかったし、自信になりました」
マウンド上では淡々としたポーカーフェイスの竹田ではあるが、満塁のピンチで丸佳浩を打ちとった際の闘志あふれる表情は印象的だった。プロとしてひと皮むけることができた瞬間だった。
竹田の持ち球はMAX153キロのストレートに140キロ台のフォーク、さらに130キロ前後のスライダーと120キロ前後のカーブといったように速度帯がほどよく散らばり、またゾーンが広く使えコントロールがいい。竹田本人は、自分はどのようなタイプの投手だと思っているのだろうか。
「いろんな球種を使いながらバッターを抑えていく。そしてテンポを大事にしているので、そこが強みだと思います」
【自然に生まれた独特のフォーム】
竹田のピッチングについて、DeNAの小杉陽太一軍投手コーチは次のように教えてくれた。
「非常にコマンド(制球力)がいいことに加え、フォーシーム(ストレート)の成分がムービングボールというかちょっと動く特殊なボールなんです。あとは独特の軌道のスライダー。このふたつのコンビネーションが今は効いていると思います。まだまだ課題はありますがポストシーズンや来年に向けて、使っていない球種も含め、どのように組み合わせていくのか、まだまだ可能性を残したピッチャーですね」
右足にしっかりと軸を置いた、ゆったりとしたフォーム。力を爆発させるのは一点、リリースの瞬間のみだ。そして特筆すべきは、その左足の踏み出しである。左足が着地する前にグンっと1回伸びるような動作が見られる。そのせいか、ライブBPで打席に入ったDeNAのバッターに竹田について聞くと、非常にタイミングが取りにくいのだという。竹田に左足の秘密を聞くと、淡々と答えた。
「いや、なにも工夫とかしてなくて、自然とああいう形になっているだけなんです。よくモノマネされますけど」
そう言うと竹田は笑った。まさかナチュラルだとは思わなかったが、これについて前出の小杉コーチが補足する。
「竹田はテイクバックが小さいというか右足の腿に当たるんです。だからボールを握った手が背中側に出ず、見えにくいしタイミングが取りづらい。だからわざわざつくったといったというフォームではないですね」
特殊な球質と、特殊なフォーム。唯一無二のものを持ち合わせ、自分を取り戻したゆえのシーズン終盤での活躍だったのだろう。
【投げられるものなら投げたい】
調子が上がらない時期でも自分を見つめ、努力ができる人間。竹田が「師匠」と呼ぶ明大の1学年先輩であり、プロになってからも頻繁に連絡をとってきたリリーバーの入江大生は、かわいい後輩について次のように語る。
「なにごとにも真面目に取り組める人間ですし、コツコツと地道にやっていくのがとても上手な選手なので、すごく尊敬しているんです。開幕当初は苦しい思いもしたでしょうが、どんな状況であってもやることは変わらないし、僕としては問題ないと思っていました。なにかが噛み合えば結果が出ると思っていたし、後半それが実を結んで本当によかったなって。
そう言うと、入江は自分のことのようにうれしそうな表情を浮かべた。竹田のプロ初勝利を記念して、ブランド品の財布をプレゼントしたという。
さて所属するDeNAはクライマックスシリーズ(CS)へと挑むが、巨人とのファーストステージは東克樹、アンドレ・ジャクソン、アンソニー・ケイの三本柱の先発が予想されるので、竹田の出番があるとすれば勝ち抜いた先にあるファイナルステージの阪神戦の可能性が高い。
竹田は9月20日の阪神戦で、履正社高3年春の選抜決勝戦以来8年ぶりに甲子園のマウンドに立ち、7回1失点の好投で勝利投手になっている。もしCSで登板機会があればいいイメージで試合に挑めそうかと尋ねると、竹田は目に力を入れて言った。
「いや、おそらく投げることになったら、前回とはまったく違う攻め方をしてくると思うので、いいイメージというか、とにかく相手に飲まれないようにしたいです」
そして、こう付け加えた。
「投げられるものなら、投げたいですね」
マウンドに上がった途端に、それまでの極度の緊張から一気に解き放たれ、淡々と試合をつくる本番に強いルーキー。DeNAが日本一を連覇するためにキーマンとなる投手であることは間違いない。
竹田祐(たけだ・ゆう)/1999年7月5日生まれ。大阪府出身。履正社高では3年春の選抜で準優勝。