大阪桐蔭初の春夏連覇「藤浪世代」のそれから~平尾奎太(全4回/2回目)
それでも平尾奎太が復帰への強い思いを伝え続けると、数値を細かく見ながら状態が安定していれば......とグラウンド復帰の道を求める方向で、9月頭から1週間の検査入院。背中から針を刺し腎臓の一部組織を採取する腎生検を行ない、10月頭からさらに1カ月、12月にも再度入院し、投薬と食事療法を徹底した。
【高校野球をやりきって甲子園に出たい】
復帰への道がうっすらと見えて来るなか、チームは秋の大阪を制覇、近畿大会もベスト8で選抜出場をほぼ内定。今度は仲間から取り残されて行く焦りを強く感じ始めていると、そこへ医師から新たにひとつの注文が出た。
「来年の夏まで高校野球をできたとして、3年の夏が終わったところからは1年、野球はもちろん、運動をストップするように」
医師の言葉は、高校で野球人生が終わる可能性を含んでいた。平尾も、「大学で野球ができなくてもいい。高校野球をやりきって甲子園に出たい」という思いのみだった。
地道な療養生活を重ね、年が明けてからようやく練習に参加できるようになった。とはいえ、ウォーキングやストレッチ、球拾い程度で、短時間で切り上げて寮に戻る。戻るとすぐに入浴、夕食、洗濯を済ませ、ほかの選手が帰ってくる頃には自室にいた。
藤浪晋太郎、澤田圭佑と3人で過ごしていた部屋から、少し離れたひとり部屋へ移動。練習に復帰したとはいえ、選抜を目標に厳しい冬の練習に励む仲間たちとの間には、どこか距離を感じる日々だった
漠然とした不安も抱えながら、平尾のなかには日に日にある思いが抑えられなくなっていた。
「これじゃ、なんのために戻ってきたかわからん。大学で野球ができなくてもいい。再発してもいいから、思いきり高校野球をやりたい」
両親、医師にも思いを伝え、練習の強度と量を少しずつ上げていくよう再考。
念願の甲子園出場を果たしたが、チームが5試合を戦い春の頂点に立ったその大会で、平尾の登板機会はなかった。つづく春の大阪大会、近畿大会でも大阪桐蔭は負けなしの快進撃。だが、平尾の状態はなかなか上がってこなかった。
「6月に高知での招待試合で、ストレートの球速が128キロの時があって。藤浪は楽々140キロ台半ばを出しているのに。見ていた後輩も『これでメンバー?』って思っていたでしょうね。まだどこかでセーブしながらやっている感じが抜けていないと思って、『病気のことは完全に忘れよう』と気持ちを入れ直したんです。そこから真っすぐだけで200球の投げ込みをしたり......。この夏で野球人生が終わってもいいくらいの気持ちでした」
【甲子園のマウンドに立つことは叶わず】
一方、チームでは夏の大会が迫るなか、藤浪の調子が上がってこなかった。股関節を痛め、6月の近畿大会で戦列復帰をするも、その後の練習試合、紅白戦でも打ち込まれた。
「チームが『藤浪、大丈夫か?』っていう空気になっていたのは覚えています。
その藤浪が、夏の大会に入ると一変。特に甲子園では4試合で完投し、36イニングを投げて自責点2。藤浪の活躍もあって、チームが史上7校目の春夏連覇を達成した。
「大阪大会もほとんど藤浪と澤ちゃんで投げて、甲子園では完全にふたり。特に藤浪は、甲子園準々決勝の天理戦から準決勝の明徳義塾、決勝の光星学院とほんとに打たれなかった。『あの紅白戦はなんやったんかな』と思うくらいすごくて。チームとしても苦しんだのは大阪大会決勝の履正社くらいで、ほんと強かったですね」
平尾は春に続き、夏も甲子園のマウンドに立つことはなかった。夏の登板は、大阪大会2回戦でのリリーフ2イニングと、5回戦の生野工業戦での先発5イニングのみ。振り返れば、その生野工戦が夏のラスト登板となった。平尾は「あれが3年間のベストピッチ......ですかね」と笑みを浮かべた。5回コールド勝ちとなった試合で、平尾は2安打、5奪三振の好投を見せた。
「もちろん、甲子園で一度は投げたかったっていう気持ちはあります。
ひとつ思ったのは、平尾はチームの偉業を心の底から喜べたのだろうかということだった。すると平尾は、少し強い口調で返してきた。
「登板はなくても、自分が戦いに参加していないとは思っていませんでした。あの夏のいつだったか、144キロが出たことがあって、スピードという点では、病気前の自己最速138キロを超えたんです。状態も上がっていたのに、出番はなくてチームは勝った。ということは、単純に自分の力不足だったということです。
自分なりにやれることはすべてやったという思いはありますし、出番はなかったですが、ベンチに座っていただけという気持ちではなかった。いつ声がかかってもいいように、毎試合しっかり準備はしていました。だから勝った時は、心からみんなと喜び合えたんだと思います」
春夏連覇の歓喜が少し落ち着いた10月、岐阜で国体が行なわれたが、平尾は向かわずに医師との約束どおり野球から離れた生活をスタート。来るべき勝負の時に備えた。
文中敬称略
つづく>>










![Yuzuru Hanyu ICE STORY 2023 “GIFT” at Tokyo Dome [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/41Bs8QS7x7L._SL500_.jpg)
![熱闘甲子園2024 ~第106回大会 48試合完全収録~ [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/31qkTQrSuML._SL500_.jpg)