大阪桐蔭・森陽樹インタビュー(前編)
ドラフトが迫るなか、大阪桐蔭・森陽樹(はるき)の評価が気になっている。今年は大学生に人気が集まり、高校生では石垣元気(健大高崎)の名前は挙がるが、そこで「森は......?」となる。
これまで25年あまり、多くのドラフト候補を見て、話を聞いていた。高校生では、関西圏の選手を中心にさまざまな人材に触れてきたが、素材という点では、森は間違いなく最高レベルにある。その森がどのような評価を受けてドラフトを迎えるのか。ひそかに一本釣りを狙うチームがいたとしても驚かない。
【大阪桐蔭史上最高の素材】
「大阪桐蔭で日本一になって、ドラフト1位でプロに行って活躍して、将来はメジャーに行きたいです」
今から2年前の秋、字面のようにスラスラとしゃべったわけではないが、確かにこの3つの目標を口にした。
大阪桐蔭が秋の近畿大会準々決勝で報徳学園を破った試合で、「森陽樹」の名は一躍知られるようになった。
1点差の8回にリリーフ登板し、ラスト2イニングを無安打4奪三振。報徳学園の打者たちが、バットに当てるのがやっとというスイングを繰り返した。そのボールは、打者にとって球が速く見えるナイターだったことを差し引いても、圧巻だった。
試合後、宮崎の軟式野球の世界から覚悟を決め、大阪桐蔭の門をくぐってまだ半年余り。いかにも素朴な面持ちの16歳は、記者たちの熱気に乗せられるように、控えめな口調でありながらも、でっかい目標を口にした。
「日本一」「ドラフト1位」「メジャー挑戦」
この壮大な目標がすんなり耳に入ってきたのは、直前に見たボールがあまりにも強烈だったからだ。ネット裏でスカウトたちが構えたスピードガンは、コンスタントに150キロ前後を示し、最速は151キロを記録。
大阪桐蔭には辻内崇伸(元巨人)、藤浪晋太郎(DeNA)、前田悠伍(ソフトバンク)といった「怪物」も「スーパーエース」もたくさんいたが、高校1年時のインパクトとなると、森のほかにはタイプは少し違うが甲子園で147キロを記録した中田翔(元日本ハムなど)くらいしか思い浮かばない。
【未来像は達孝太と才木浩人】
森を見るたびに、いつもふたりの投手が頭に浮かんでくる。同じ関西出身で、高校時代から見ている達孝太と才木浩人だ。それぞれ天理、須磨翔風のエースとして活躍した大型右腕で、達はドラフト1位で日本ハムへ、才木は3位で阪神に入団した。
その後、3年、4年と育成の時を経て、いまに至る。このふたりにつながるライン上に、森の姿が重なって見える。
ストレートの最速は153キロ。回転数はNPBトップランクの才木に並ぶ2700回転。ただ1年秋のあまりにも鮮やかな姿を見た者からすると、その後の投球はやや物足りなく映った。
2年春の選抜2回戦(神村学園戦)で甲子園デビュー。先発して4回1失点の内容だったが、本調子ではなかったと見ている。
そして、ヒジへの負担を減らす目的でテイクバックをコンパクトに修正して挑んだ2年夏。「ひとりで投げきったし、3年間で一番よかった」と振り返った大阪大会決勝での東海大仰星戦、森は1失点完投、15奪三振の快投でチームを甲子園へと導いた。
この試合で自己最速の153キロを記録。縦回転の体の使い方から、ヒジをしっかり上げ、右腕を真上から振り下ろすようなリリース。いかにも高速回転の効いたストレートは、大型投手でありながら左右のブレが少なく、制球で苦しむことも稀だ。
ホップ成分に影響する「回転効率」は、まだ成長の余地を残すが、この先のステージでもおそらく代名詞となるのがストレートである。ボールの握りにもひと工夫ある。森が解説する。
「真っすぐは人差し指と中指の間を狭くして、親指をしっかり曲げて握る。高校に入ってこの握りにしてからスピン量が上がった感じがします」
【最後の夏は決勝で涙】
大きな期待を抱いた2年夏の甲子園だが、2回戦(小松大谷戦)で先発し7回2失点(自責点0)と実力の片鱗は見せた。だが、見る者を圧倒するようなボールではなかった。
2年秋、3年春と近畿大会に先発、救援で登板するも敗れ、最後の夏も大阪大会決勝(東大阪大柏原)で先発するも敗退。
「夏は、自分的にはあまりよくなかったんで......」
夏の大阪大会、森は4試合で16回を投げ、被安打6、四球2、奪三振20、失点2。相手チームのレベルはさまざまだったが、数字的には文句なし。ただ、失った2点は決勝で与えたものだ。
決勝の日、試合前の投球練習の段階から、アウトコースへ引っ掛ける"らしくない"球があった。目視レベルだが、足を上げて投げにいく際に上体が三塁側に傾き、ヒジの出所もやや低く感じた。後日、そのあたりを本人に向けると、こんな答えが返ってきた。
「いい時はストレートでファウルが多く取れるんですけど、あの試合は初回から芯でとらえられた内野ゴロがあったりして、調子がいい感じではなかったんです」
そしてこう続けた。
「自分のいい時は、キャッチャーに向かって自信を持って思いきり投げ込める時。そういう時は、ほんとに打たれる気がしないんです」
【1年秋以上の衝撃は残せず】
以前、チーム関係者から「森の能力に中野のメンタルがあれば最強」という声を聞いたことがあるが、確かに森はその日の調子、気持ちが結果につながりやすいタイプに見えた。たとえ調子が悪かったとしても、悪いなりに安定した力を出せるかが、今後の成長を担うポイントになるだろう。
夏の大会に関して、ひとつ加えておくと、サヨナラ勝ちした準々決勝の大阪偕星学園戦では9回をひとりで投げきり完封。森は「あの試合もあんまりよくなかったです」と言ったが、被安打3、奪三振12、四球1。ふつうに見れば、これ以上ない内容のピッチングだった。
しかし、1年秋のあのピッチングから求められるものは限りなく高い。心・技・体がまだまだ噛み合いきれず、森の高校野球は終わった。
ちなみに達は、高校3年の5月末にヒジの炎症により、最後の夏は背番号11で戦った。本人いわく「選抜の時は2400台だったストレートの回転数が、夏は2200台が多くていい状態じゃなかった」という。準決勝で高田商にサヨナラ負けを喫し高校野球を終えたが、ドラフトでは単独指名を受けた。
一方の才木は、最後の夏は2回戦で報徳学園を相手に完投するも敗戦。11安打を許し、バッテリーミスもあって5失点。試合後、「この先はスライダーやフォークのキレをもっとよくしたい」と語ってから3カ月後、阪神から3位で指名された。
当然ながら、まだ心身共に未熟な高校生はさまざまな課題を抱えている。
「フォームにしても、ボールにしても、安定感をもっとつけて、再現性を高めていきたい」
はたして、森の未来はどこへつながっていくのか。
つづく>>










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