昌平高校 岩崎優一監督インタビュー 後編
(前編:昌平の監督が選手に伝える情報の正しい受け取り方 2年連続で甲子園初出場まであと1勝>>)
昨年、今年と夏の甲子園初出場まであと1勝まで迫った昌平高校。それを率いる岩﨑優一監督はどんな選手を育て、どんなチーム作りを目指しているのか。
【チームは敗戦から学びながら成長】
――夏の埼玉県大会では4回戦で、「敗れた試合映像を何度も見返した」という花咲徳栄高校を相手にタイブレークの末、諏江武尊選手(3年)のサヨナラ塁本塁打で勝利(5対1)しました。前年の決勝でタイブレークで敗れた相手に、雪辱を果たした形になります。
「スタンドには、昨年に"負けさせてしまった"選手もOBとして駆けつけてくれて、『負けたら格好がつかない』という思いはありました。勝利した瞬間は本当にうれしかったですし、たくさん悔しい思いをしてきた諏江が決めてくれたことも物語のようでした。選手たちと、失敗に真剣に向き合ってきた時間が、ちょっとだけ報われたような気がしましたね。2年連続のタイブレークは予想外でしたけど、前年の試合での反省点はわかっており、準備していたので冷静に試合に臨めたように思います」
――しかし新チームとして臨んだ秋の大会は、花咲徳栄高校に逆転負け。現在の課題や、今後のリベンジに向けた想いを聞かせてください。
「勝負の世界ですから、負けたことに対して楽観はしていませんが、大きな財産となる敗戦となりました。組織のフェーズとしても前進しています。これまでの花咲徳栄さんとの試合は、たとえるならば"見上げて"戦い、死力を尽くすような戦い方しかできていなかった。試合が終わり、スコアブックを見返さないと試合の経過をあまり覚えていない選手が多いのが現実でした。
しかし今回は、大切な一戦で自分たちがやらなくてはいけないことにフォーカスすることができ、あの場で『何ができて、何ができなかったのか』ということを選手たちが事細かに実感できたことが大きいです。これから長い冬がきますが、指導者があれこれと言い過ぎなくても選手たちの頭や心が育ってきていますから、課題に対して必要な取り組みをしてくれると信じています。
――今夏の県大会、チームとしては通算3度目の決勝戦では、同じく初出場を目指していた叡明高校と対戦。2対5で惜しくも敗れました。
「高校生が、自分をコントロールして試合に臨むことの難しさを改めて感じましたね。叡明高校の中村(要)監督が、日頃どのような指導をされているのかわかりませんが、グラウンドで叡明の選手たちと対峙した時に、自分のやるべきことが明確で、そこにアプローチする彼らと、僕たちの間には熟達度の差があると思いました。そのようなチーム作りをしてしまった僕の責任も感じましたね。2年前に決勝で花咲徳栄さんに敗れた時は悔しさばかりでしたが、今夏の敗戦は、現状の問題点とかなり深く向き合うきっかけになりました」
【選手たちに身につけてもらいたいのは、社会で生きていく力】
――指導者としての目標は?
「今はまだ笑われてしまうかもしれませんが、この仕事をしている以上は、日本一を目指したいと思っています。現役時代、ありがたいことに三菱重工名古屋という日本一になったチームに在籍させていただきましたし、必ず実現できると信じています。まずは目の前の課題と向き合いながら、地道に必要なことを積み重ねていきたいと思っています」
――今年のドラフト会議では、櫻井選手が有力候補に挙げられています。指名があれば、岩崎監督体制のチームでは初のプロ野球選手誕生となりますが、現状の思いをお聞かせください。
「櫻井は入学してきた時から秀でたポテンシャルを持っていましたし、何しろ人間がよく可愛がられる性格ですから、どんな環境でもドラフト候補になるような選手になったと思います。それが、たまたま昌平高校であって、たまたま監督が私だったという感じ。
知識がないうちは当然ですが、入学当初は能力まかせで穴が多い打者でした。ただ、確率が残りやすいスイングワーク、状況を判断したうえでのボールの待ち方、どんな球にスイングを仕掛けていくかなど、僕に嫌なことをたくさん言われた時期もありましたがすべてクリアしてきました。
また、彼にとって1番大きかったのは、主将として過ごした最高学年であったと思います。自分の『見られ方』『魅せ方』という視点を高校生で手に入れ、打者としてもひと回り成長しましたし、今後も武器になると思います。ドラフト会議での吉報を待ちます」
――岩崎監督が高校生を指導するうえで、最も大切にしていることは?
「野球で勝利をつかむことももちろんですが、卒業生が世に羽ばたき、社会に貢献していくことが最も大切だと思っています。人目を気にしすぎるのはよくありませんが、自分の価値をアピールして提供することができ、人から評価してもらい力強く社会で生きていくことができる力を、昌平高校野球部で身につけてもらいたい。
一見、人間教育と野球の上達は別の目標に見えて、一直線上にあるものだと私は思っていて。たとえば、相手投手の細かな変化や捕手の気配を感じ取り、それをプレーにつなげていくこと。グラウンドでの日々のそういった積み重ねが、のちの人生でも生きてくるんじゃないかと思っていて、選手たちにもその大切さを伝えています。三菱重工名古屋時代からお世話になっている方に『勝利求めぬ教育なし、教育なくして勝利なし』という言葉をいただき大切にしています。
野球で活躍してくれたらすばらしいですけど、『人生100年時代』と言われる時代を生きる彼らは、これから社会に出て、何らかの形で40年、50年と働くことになる。
――「昌平高校に入学したい」という中学生も多くいらっしゃると思います。
「本校は文武両道ですから、大変な生活が待っています。『絶対に野球を3年間続けるんだ』『大変で当たり前』という気持ちがなければ、乗り越えられないこともあると思います。それでも甲子園を目指し、高校を出た先のことを見据えて頑張りたい人には、これ以上ない環境です。『我こそは!』という中学生のみなさんは、ぜひチャレンジしてもらえたらうれしいです。生徒との人としての本当のお付き合いは、卒業してからであると常々思っています。お預かりした生徒とは"出口"まで責任をもって寄り添おうと思います」
(高校通算49本のスラッガー・櫻井ユウヤが振り返る昌平での日々 プロ野球への思いも語った>>)
【プロフィール】
岩﨑優一(いわさき・ゆういち)
1992年生まれ。昌平高校から獨協大に進み、社会人野球の三菱重工名古屋(2020年限りで統合)でプレー。2018年の日本選手権で優勝を経験した。引退後、母校のコーチを務めたのち、2023年秋に監督に就任した。
<取材協力/秋山高志>










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