ソフトバンク打線が長くて、深かった眠りから目を覚ました。
地元福岡での連敗は許されないなか、1回表にいきなり先制点を奪われる不穏なスタート。
【阪神投手陣から10得点の猛攻】
柳田悠岐、周東佑京の1、2番コンビが連打で出塁。その後、二死となったが、5番・栗原陵矢がナックルカーブを打ち返して右前適時打として同点に。つづく6番・山川穂高は151キロ直球を右中間フェンス直撃の二塁打を放ち、二者が生還して勝ち越しに成功したのだった。
ソフトバンクのこんな攻撃を見たのは、じつに"95イニングぶり"だった。
そもそもポストシーズンに突入して以降、ずっと湿りっぱなしだった。日本ハムと戦ったクライマックス・シリーズ(CS)ファイナルの6試合、そして日本シリーズ第1戦までのチーム得点は「2、3、0、3、1、2、1」と寂しい数字が並んだ。
さらに紐解くと、1イニング複数得点を挙げたのは、CSファイナル第2戦の8回裏に飛びだした柳田悠岐の3ランの一度のみだった。ほかのイニングは「0」か「1」。これではチームが勢いづくはずがない。
もっと細かいことを言えば、打線がつながってタイムリーヒットが絡んだイニング複数得点はポストシーズンに入って一度もなかったのである。
ではレギュラーシーズンはどうだったか。
最終戦の10月5日のロッテ戦(ZOZOマリン)は5対1と快勝したが、7回表の4得点は山川の満塁弾だった。
遡ってようやく見つかったのが、リーグ優勝を決めた翌日の9月28日の西武戦(ベルーナドーム)だったことが判明した。3回表に緒方理貢(りく)と川瀬晃(ひかる)のタイムリーで2点を挙げていた。それ以降、じつに「94イニング」もタイムリーが絡んだ複数得点イニングがなかったというわけだ。
サッカーで「ケチャップドバドバ」と表現されるのと同じで、目覚めたソフトバンク打線は初回の3得点につづき、2回裏には大量6点を追加。周東がタイムリー三塁打、近藤健介にもタイムリー二塁打が飛び出し、仕上げは山川の左中間特大3ランだ。
なお、周東はこの日5打数5安打をマークし、1試合5安打の日本シリーズ新記録を樹立した。終わってみれば10対1の圧勝だ。1勝1敗のタイに戻して、第3戦からは甲子園球場に舞台を移す。
【あわや反撃ムード消滅の大ピンチ】
ソフトバンクは一体なぜ、目を覚ましたのか。
起点をつくったのは柳町ではなかろうか。
大失態を挽回した。初回無死一、二塁で初球バントの構えからストライクゾーンの球だったにもかかわらずバットを引いたため、二塁走者の柳田が飛び出してアウトになった。その間に周東は進塁して一死二塁。その後、柳町が簡単にアウトになっていれば、反撃ムードは完全消滅してしまうところだった。
ここで柳町は持ち前の粘り強さを発揮する。フルカウントまでもっていき、勝負の6球目。外角低めのナックルカーブを見極めてフォアボールを選んで出塁したのだ。
「ストライクだったので、ちゃんとやらないといけない。正直『やってしまった』と思いました。ただ、まだ1アウト二塁だった。とにかく僕がアウトになってはいけない。
ところで、最後の1球は本当に際どいコースだった。あれを自信満々に見極めたのは本当に見事だと水を向けると、柳町は苦笑いを浮かべた。
「いや、正直自信はなかったです。手が出なかったというか、カーブがあそこに決まったら仕方ないという割り切りもありました。それよりもストレートを空振りするのが嫌だったので」
柳町は、これまで運に恵まれてこなかったことが多い。レギュラーをつかみかけたと思うと、翌年には強力なライバルがチームに加わるなどしてポジション争いから弾き出されてきた。今季も開幕は二軍スタートだった。
だけど、柳町は言う。
「正直、きついと思いました。でも、心を折られながらも乗り越えられた。自分のなかに立ち上がる能力がついたのかわからないけど、自信にはつながっていると思います」
今季は自身初めて規定打席をクリアし、小久保裕紀監督からも「チームに欠かせないピース」と認められるようになった。そしてパ・リーグで最も多くの四球を選び、最高出塁率(.384)のタイトルにも輝いた。
あの運命の1球は、野球の神様が味方したのかもしれない──ふと、そんなふうに思うのだ。










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