10月18日、海の向こうから衝撃的なニュースが飛び込んできた。

 大谷翔平ドジャース)がブルワーズとのリーグ優勝決定シリーズで、打っては3本塁打、投げては6回10奪三振の大暴れ。

チームをワールドシリーズ出場へと導いた。

 大谷がどんな快挙を成し遂げようと、今さら驚かない。そんな耐性がついた野球ファンであっても、大谷のケタ外れのパフォーマンスにはもはや笑うしかないだろう。

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【スケール感抜群の1年生】

 そんななか、奈良県橿原市のさとやくスタジアムでは、秋季近畿大会1回戦が開かれていた。次代の野球界を担う高校球児たちが、翌春の選抜出場をかけて熾烈な戦いを繰り広げていた。

 智辯学園(奈良)対近大付(大阪)の試合前のシートノック。筆者は智辯学園の右翼手に釘づけになった。

 ライトを守る姿が、いかにも大きく見える。打球に追いつき、握り換えて右腕を振るアクションがダイナミック。放たれたボールはぐんぐん伸びて、ホームベース上で構えた捕手のミットにめり込んだ。

 溌剌とプレーする背番号9の名前を大会パンフレットで確認すると、「太田蓮」とある。なんと1年生だという。

「野球は楽しくやらないといけないと思っています。

肩には自信があるので、『みんなに見てほしい』と思いながらプレーしていました」

 太田はのちに、そう語っている。体のサイズは身長183センチ、体重79キロとのことだが、間近で見ると数字以上に大きく見える。太田は「最近は身長を測っていないので、もっとでかくなっている気がします」と語った。

 この日、智辯学園は序盤に最大5点差をつけられながら、8対6と逆転勝利を挙げた。5番・右翼手で出場した太田は、2打席目で1点差に迫る追撃の適時二塁打を放った。太田は「近大付に点差をつけられて焦るなかで点を取れたので、自分としてもチームとしてもよかった」とホッとした表情を見せた。

【中学時代に世界一を達成】

 コアな野球ファンのなかには、太田のことを投手として認識する人もいるかもしれない。太田は京都シニアに在籍した中学3年時、侍ジャパンU−15代表に選出され、U−15ワールドカップに出場。おもに投手としてプレーし、チーム最多の3勝をマーク。日本の初優勝に大きく貢献している。

 現在は投手をしていないのか。太田に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「目指しているのは二刀流です。

野手も投手も自信があるので、上では両方やりたいんです。高校に入学した時に腰とヒジをちょっと痛めていたので、いったんは野手に専念していました。今はケガも治ったので、ピッチングも再開しています」

 中学時点で球速は140キロに達しており、高校では139キロが最速だという。太田は当然のように、尊敬する人物として大谷翔平の名前を挙げた。

「大谷さんは人間性がすごいと思います。自分も道にゴミが落ちていたら拾ったり、あいさつを大事にしたりしています」

 この日、大谷が3本塁打と10奪三振をマークしたことを伝えると、意外にも太田は表情を変えることなく、こう答えた。

「やっぱりすごいですけど、大谷さんを超える選手を目指してやっていきたいです」

 憧れるのをやめましょう。そう言ったのは、2年前の大谷だった。太田もその言葉に突き動かされているのかもしれない。

【ライバルは横浜高の川上慧】

 太田は中学3年時に侍ジャパンのユニホームに袖を通し、日本から遠く離れたコロンビアで9試合を戦った。慣れない異国での生活に、体重は3キロも減ったという。

 この経験は今も生きているのではないか。

そう聞くと、太田は深くうなずいた。

「ほかの選手とコミュニケーションを取れて、技術を見て、自分ももっと頑張ろうと思えました。得るものはすごく大きかったです」

 U−15代表のチームメイトのなかで、ライバル視している存在を聞くと、太田は川上慧(横浜)の名前を挙げた。

「バッティングの技術が高くて、ミート力がすごいと感じました。でも、彼を一段、二段と超える選手になりたいです」

 奇しくもこの日、川上は山梨の地で秋季関東大会・高崎商大付戦に臨み、サヨナラ弾を含む1試合2本塁打の大爆発を見せていた。

 とはいえ、太田はフィクションの世界を超越するような人間を超えようとしているのだ。太田は「負ける気はしません」と断言した。

「練習では自分が一番下手と思ってやっていますが、試合では自分が一番すごいと思ってプレーしています。まだまだ力が足りないですけど、もっとレベルを上げていきたいです」

 その後、智辯学園は近畿大会準々決勝(東洋大姫路戦)を勝利し、来春のセンバツ出場をほぼ確実なものとした。一方、大谷はワールドシリーズ第3戦で4打数4安打2本塁打5四球という超人的な活躍で、日本中を驚かせている。

 次代の大谷翔平を目指して。高校野球界に撒かれた種は、2年後にどんな花を咲かせるだろうか。

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