選手会主催・トライアウト2025(後編)

 選手会主催で再出発を果たした2025年のトライアウト。事前に発表された参加メンバーは、投手28名、野手10名の計38名だった。

一方で、元広島の田中広輔、元ロッテの荻野貴司や石川歩、元ソフトバンクの板東湧梧、DeNA三嶋一輝、元ヤクルトの西川遥輝、元オリックスの福田周平らは参加を見送った。結果として、例年よりやや少ない人数での開催となった。

 それでも注目度は高く、当日はフジテレビONEが完全生中継を実施。スタンドにはNPB12球団に加え、MLB、韓国、台湾、独立リーグ、社会人チームなど、例年より多い計114人ものスカウトが集った。

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【存在感を示した40歳・松山竜平

 彼らが見つめるなか、午前10時半、ピッチャー竹内龍臣(茨城アストロプラネッツ)、バッター鈴木蓮(横浜DeNA)の対戦でシートバッティングが始まった。例年、カウントは参加人数に応じて変更されてきたが、昨年ソフトバンクの中村亮太がわずか2球で終わってしまったこともあり、今年は「野球は0−0が基本」に立ち返り、通常の対戦となった。

 主催が変わり、仕様が変わろうとも、トライアウトに挑む選手たちの本質は変わらない。何がなんでも野球を続けたい人、「まだ自分はやれる」という力を確かめたい人、家族やファンに最後の勇姿を見せたい人、あるいは引退の場として選ぶ人。参加者の思いはさまざまだ。今年のトライアウトに参加した選手たちは、どのような思いを胸にこの舞台に立ったのだろうか。

 この日、最も大きな声援を浴びたのは地元カープの6選手であろう。

 なかでも、"アンパンマン"の愛称で親しまれ、この日も子どもたちから「まっちゃん、がんばれー!」と声援が飛び、応援歌まで聞こえてきた人気選手、40歳の松山竜平はベンチ裏で「疲れた~」と笑いながらも、8打席に立って3安打をマーク。守備もこなすなど、健在ぶりを示した。

「絶好調です。ファンのみなさんの前でいいところも見せられたし、いい一日になりました。やることはやったのであとはワクワクして待つだけ。どこに行っても、野球をしっかり続けたい」

 広島一筋18年のベテランである松山。カープでユニフォームを脱ぐという選択肢も、「正直あった」と言う。それでも今年1年、不完全燃焼で終わってしまったこと、二軍の試合で「まだまだできる」と実感できたこと、そして家族から「好きなようにやってほしい」と背中を押されたことが、トライアウト参加を決意させたという。

「しっかり動けるところを見せたかったですし、なにより地元・マツダスタジアムでの開催だったことが一番大きかったですね。トライアウトには12球団をはじめ、さまざまな球団のスカウトが来てくれていますし、ここからまた活躍の場が広がる選手も出てくるでしょう。こういう場は絶対に残したほうがいいと思います。

 とくに若い選手にとっては本当に大事な場所になります。會澤(翼)会長をはじめ、トライアウトの場をつくってくれた選手会の方々、そしてそれを支えてくださったスポンサーのみなさんが、存続のために一生懸命努力してくれたことに、本当に感謝したいですね」

【プロ野球】トライアウトに松山竜平、山足達也、又吉克樹らが込めた覚悟 選手会が守り抜こうとした「野球を続ける場」の意味
トライアウトを最後に現役引退を表明した山足達也 photo by Nishida Taisuke

【山足達也が最後の打席に込めた思い】

 挑戦を続けるベテランがいる一方で、「今日が最後と決めてきました」と異例の"引退宣言"をしたのが、同じくカープの山足達也だ。先月25日に戦力外通告を受けた時点で引退を決意し、この日のトライアウトを"最後のプレーの場"と定めて参加。家族の前で見事に安打を放った。

「やりきったという思いが強いですね。ここまで8年間、なんとか食らいついてきたことを自分では誇りに思いますし、言い方は悪いですけど、『これ以上の伸びしろは感じない』というところまで頑張れた。

 今日のトライアウトは7打席必ず立つと決まっていましたし、僕のような守備固めで、試合に出るかどうかわからない選手は、家族全員にユニフォーム姿を見せられる機会が本当に少ないんです。だからこそ、こうしてトライアウトに出られてよかったなと思います」

【プロ野球】トライアウトに松山竜平、山足達也、又吉克樹らが込めた覚悟 選手会が守り抜こうとした「野球を続ける場」の意味
ロッテのピンストライプのユニフォームを着てトライアウトに参加した西村天裕 photo by Nisida Taisuke
 同じく「トライアウトを受けることはすぐに決めました」と語ったのは、元ロッテの西村天裕だ。一昨年は中継ぎとして44試合に登板し、防御率1.25と大活躍したものの、今季の一軍登板はわずか1試合。今回の参加には、ファンへ感謝を伝えたいという思いも込められていた。

「現役を続けたいというのはもちろんありますが、今年は一軍のピンストライプのユニフォームを着ることができなかったので、それを着てファンの人に見てもらうということが一番はじめに頭に浮かびました。やっぱり、いつも応援してもらっていましたからね。それだけが心残りだったので、しっかり腕を振って投げる姿を見せられたのはよかったと思います」

【久保拓真と又吉克樹の終わらない挑戦】

 また、今季も"異色の挑戦"を続ける選手がトライアウトに参加していた。「ここ数年、人とは違う野球人生を歩んできましたが、自分で納得して決断してきたことですし、後悔なく挑戦してきました」と語るのは、打撃投手から現役復帰を果たした久保拓真だ。

 久保は2023年にヤクルトから戦力外通告を受け、トライアウトにも臨んだが獲得には至らなかった。その後、オリックスで1年間打撃投手を務め、長年の課題だった制球難を克服。今季は関西独立リーグの堺で現役に復帰し、最多勝、最多奪三振、MVPを獲得するなど結果を残したうえで、2度目のトライアウトに挑んだのである。

「自分は、左打者のインコースに投げられないと生きる道はありません。(コントロールは)打撃投手時代に、バッターに気持ちよく打ってもらうにはどう投げるかを考えて投げ続けていたら、自然と身についたという感じです。

 トライアウトは(NPBの規定で)2回受けられますし、受けるチャンスがあるなら今年だと思いました。正直、声がかからない可能性のほうが高いとは思っていますが、お世話になった方々にユニフォーム姿を見せるという恩返しの意味でも意義のある場だと思います」

【プロ野球】トライアウトに松山竜平、山足達也、又吉克樹らが込めた覚悟 選手会が守り抜こうとした「野球を続ける場」の意味
休むのは引退してからでいいと語る又吉克樹 photo by Nishida Taisuke
 独立リーグの香川から中日に入団し、侍ジャパンにも選出。さらに2022年にはFAでソフトバンクへ移籍するなど、さまざまなキャリアを積んできた35歳の又吉克樹。その又吉は、503試合登板という実績やプライドにこだわることなく、トライアウトの舞台に立った。

「プライドなんて、低いほうがいい。今朝ここに来たら、たまたま大学時代の同級生が来ていてね。そういう意味でも、参加してよかった。(トライアウトが存続したことは)本当に大きいと思います。僕みたいなタイプは、ブルペンで投げるのと試合で投げるのとでは全然違うし、今日みたいな結果(3人を無安打)を見てもらえることもある。そういう意味でも、トライアウトを続けてくれたことには感謝したいです。

 休むのは、引退してからでいい。海外も含めて、野球をやらせてもらえる場所があるなら、どこへでも行ってみようと思っています。今回の戦力外が、野球人生の終わりではなく"通過点だった"と言えるように、ここからまた何かが起きると信じて、しっかり準備していきたいですね」

 さまざまな選手たちの思いを乗せ、午後14時10分。すべての対戦が終わり、選手たちがグラウンド中央に一列に並んで一礼すると、スタンドからは大きな拍手が湧き起こった。

【トライアウトは継続していく】

 すべての選手への取材が終わったあと、選手会の森事務局長が、再出発となった今回のトライアウトについてその所感を語ってくれた。

「昨年12月の選手総会で『トライアウトを続けていこう』と全会一致で決めてから今日まで、初めての選手会主催ということもあり、準備は本当に大変でした。今はすべて終わって、ようやくホッとしているところです。参加選手の数は当初あまり多くありませんでしたが、出場した選手からは『今年はもうないと思っていたので、開催してくれてありがとうございました』という声をいただきましたし、広島の選手には多くの応援があり、開催してよかったと思っています。

 トライアウトをやる意義はこれまでと変わらず、選手に少しでもチャンスを与えたいということです。12球団の編成担当は『トライアウトだけで選手を決めることはない』と言いますが、今シーズンはケガなどで力を発揮できなかった選手もいますから、その最終確認の場にはなると思っています。

 また、ある選手からは『ひとつの区切りになりました。ありがとうございます』という言葉もいただき、やってよかったと感じました。

来年以降も、選手から『もうやらなくていいのでは』と言われない限り、トライアウトは継続していく予定です。来年に向けて、また準備を進めていきたいと思います」

 もはや日本野球特有の文化となったトライアウトは、来年以降も選手会主催で続いていくことになる。ひとりでも多くの選手が新たな機会をつかみ、納得のいく野球人生を歩めることを願わずにはいられない。

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