MLBのサムライたち~大谷翔平につながる道
連載19:城島健司
届かぬ世界と思われていたメジャーリーグに飛び込み、既成概念を打ち破ってきたサムライたち。果敢なチャレンジの軌跡は今もなお、脈々と受け継がれている。
MLBの歴史に確かな足跡を残した日本人メジャーリーガーを綴る今連載。第19回は、捕手として初めてメジャーのグラウンドに立った城島健司を紹介する。
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【メジャーの洗礼を体で跳ね除ける】
城島健司の「男気」をこの目で目撃したのは、2006年5月19日、シアトルでのことだった。
シアトル・マリナーズ対サンディエゴ・パドレスのインターリーグの一戦は、3対2とマリナーズがリードして5回表を迎える。先発のジャロッド・ウォッシュバーンが一死満塁のピンチを迎える。ここで、パドレスのブライアン・ジャイルスがライトへフライを打つ。待ち構えるのはイチローである。
バックネット裏上方にあるプレスボックス(記者室)から見ていると、イチローから矢のような送球が城島に送られた。この時、慄然としてしまったのは、タッチアップしたジョシュ・バーフィールドがアメリカンフットボールの選手のように、体ごと激しくぶつかってきたのだ。タイミングはアウトだ。だが、しかし、城島は転倒。あ、ひょっとして落球したか......と不安になったが、城島は白球をしっかりと捕球していた。
アウト、ダブルプレーの完成。
ウォッシュバーンが城島の背中を興奮ぎみに叩く。モニターに映った城島の顔は、まさに鬼の形相だった。
2005年のオフ、FAの権利を獲得した城島は、マリナーズと3年総額1650万ドル(約24億7500万円)の契約を結んだ。長らくホームプレートを守ってきたダン・ウィルソンが引退し(現在は古巣の監督で活躍中)、正捕手を探していたチームは城島に白羽の矢を立てた。
城島は開幕からマスクをかぶり、私はたまたま取材で訪れていたシアトルで、城島の鬼の形相を目撃したわけだが、このシーズンの城島はよく打った。投手有利の本拠地で打撃面でのチームに対する貢献は大きく、打率.291、18本塁打、打点76。四球が少なく、出塁率は.332と低かったが、長打率は.451、OPS(出塁率+長打率).783という数字は捕手としては文句のない数字だった。
振り返ってみると、このシーズンが城島にとってベストシーズンで、マリナーズの捕手としては、2022年にカル・ローリーが登場するまで――2025年に60本塁打を放って本塁打王に――城島は、マリナーズの捕手としてはベストのパフォーマンスを見せたと思う。
【日米で異なるバッテリー間の思考の違い】
打者としては及第点だったものの、捕手としては評価を得られずに苦しんだ。
日本では「捕手が投手をリードする」という感覚が染み込んでいるが、「こっちでは感覚が違うこともあります」と、城島は話をしていた。
アメリカの投手は「個人商店」の感覚が強いと取材で聞いたことがある。もしも、捕手のサインに従って打たれたとしたら、悔やんでも悔やみきれない。
また、バッテリーというコミュニケーションが重要なユニットにおいて、言葉の壁を超えるのも容易ではなかった。
そして城島自身が、アメリカ野球の感覚に違和感を覚えていたことが当時のインタビューに残されている。
「日本っていうのは1点を守っていく感覚ですよね。メジャーリーグは相手を最小点に抑えつつ、それ以上に点を取るっていう感覚なので、あれには最初、戸惑いましたね」
失点をしたら、それ以上得点を取る。これがアメリカの考え方だった。そうなると、細部のプレーにも影響が出てくる。
「ランナー一・三塁の場面で、一塁ランナーがスタートしたとします。でも、キャッチャーがセカンドにはなかなか放らせてもらえないんですよ。自分はスローイングに自信があるので、みすみす二・三塁にするっていうのは、どうなのかなと思いましたし、それは監督にも話しましたよ」
なかなか信頼を得ることができず、2006年は144試合に出場したが、2007年は135試合、そして2008年には112試合と減少していく。城島のストロングポイントである本塁打数も18本から14本、7本へと減っていった。
【3年契約を新規更新も積み重なったものが......】
2009年の出場はなんと71試合にとどまった。そのシーズンの城島の年俸は760万ドルを超えていた。高給である。これだけの年俸の選手を起用しないというのは、どうにも不可解だった。イチローが「ジョー(城島)の悔し涙を見たこともありました」とコメントしていたほどだ。
そしてこのシーズンが終わり、城島は契約が2年残っているにもかかわらず、日本球界に帰ることを決断した。その決断の背景を当時のテレビのインタビューでこう語っている。
「いろいろなことの積み重ねでしょうね。たとえば、家族が1カ月シアトルに来ている間に、ゲームに出られないとか。何かが違うという思いはありました」
城島の2010年の年俸は800万ドルだったが、これを受け取らなかった。マリナーズが解雇した場合はバイアウト(保証金)を払う必要があったが、城島から契約を破棄できる条項があり、この権利を行使し、日本の阪神タイガースに移籍したのである。
野茂英雄のドジャース移籍から30年、いまだ捕手でメジャーリーグの公式戦に出場したのは城島健司、ただひとりである。思ったような結果は得られなかったかもしれないが、走者に体当たりされてなお、ボールを離さなかった城島の表情が忘れられない。
【Profile】じょうじま・けんじ/1976年6月8日生まれ、長崎県出身。別府大附高(大分)。1994年NPBドラフト1位(福岡ダイエー)。2005年11月にフリーエージェントでシアトル・マリナーズと契約。
●NPB所属歴(14年):福岡ダイエー(1995~2004)・福岡ソフトバンク(2005)―阪神(2010~12)
●NPB通算成績:1323試合出場/打率.296/1406安打/244本塁打/808打点/72盗塁/出塁率.355/長打率.508
●MLB所属歴(4年):シアトル・マリナーズ(2006~09/アメリカン・リーグ)
●MLB通算成績:レギュラーシーズン=462試合出場/打率.268/431安打/48本塁打/198打点/7盗塁/出塁率.310/長打率.411
●日本代表歴:2004年アテネ五輪(3位)、2009年WBC(優勝)










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