篠塚和典が語る今季の巨人総括 野手編

 2025年、リーグ連覇を狙った巨人は3位でシーズンを終えた。絶対的な4番の岡本和真がメジャー挑戦でチームを去ることになった場合、来季はより厳しい状況となる。

今季の戦いぶりから浮き彫りになった課題、来季へ向けて必要なものは何なのか。長らく巨人の主力として活躍し、引退後は巨人の打撃コーチを歴任した篠塚和典氏に、まずは野手陣について聞いた。

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【主力選手が抜けた穴をどう埋めるか】

――まず、野手陣から振り返っていただけますか?

篠塚和典(以下:篠塚) 近年のプロ野球はピッチャーのほうが優位なので、チーム打率.250(リーグトップ)でも悪くないのかもしれません。ただ、セ・リーグで3割を打ったのは2人だけですよね。泉口友汰はよく頑張ったと思いますが(リーグ2位の.301をマーク)、やはり個人個人が技術を上げていくべきです。

 チーム得点も少ない(リーグ3位の463)ですが、やはりレギュラーとして試合に出続けている選手があまりいないことが要因だと思います。今季は岡本和真がケガで長期離脱し、丸佳浩もケガで開幕に間に合いませんでした。主力選手が長期離脱をしてしまうと、その穴を埋められるような選手がいないので、きつくなります。

――日替わりでオーダーを変える必要も出てきますね。

篠塚 そうですね。長い期間のカバーは難しいでしょうが、主力選手が10日間(登録抹消期間)で戻ってこられるような軽めのケガの場合は、その間にカバーしてくれる選手がいるといいですよね。そういう選手を育てる、補強しておく必要があるとも言えます。ただ、一番大事なのは、やはり各ポジションに固定できる選手を作ること。

今季に限ったことではなく、ここ数年続いている課題です。

――1点を取るための工夫という観点ではいかがでしたか?

篠塚 先ほど、今の野球はピッチャーが優位という話をしましたが、だからこそ、ただ打つだけでは点は取れません。今季はチーム盗塁数が少なかった(リーグワーストの53個)ですし、何よりも「この場面では、この方向に打つ」といった、状況を考えたバッティングがあまりできていませんでした。

 そもそも、そういうバッティングが技術的にできないから頭に浮かばない選手もいるでしょう。そうであれば、練習の時から試合に通じるバッティングをイメージして、それを実行できるようになるための練習をしないといけない。秋季キャンプから、そういう意識を持って取り組んでいたのかどうか。その意識が強くなれば、必然的にバッティングを細かく考えるようになると思いますよ。

【伸び悩む若手打者たちが意識すべきこと】

――ピッチャーの力が上がっているならば、野手側にも工夫が必要ですね。

篠塚 今後は.350や.360といった打率を残す選手は、なかなかいないと思います。それだけピッチャーがよくなっていますから。以前と同じような感覚でバッティングしていたら、やられてしまいますよ。これはしつこく言いたいのですが、やっぱりバッティングはもっと細かく考えて、考え抜いていかないと。

 例えば、ひとつの打ち方ではダメだということ。

変化球を完璧にとらえられるのは、10回中1回あるかどうかです。体を泳がされながらでも打てるポイントを体で覚えるとか、完ぺきでなくとも対応できる、打ち方のバリエーションをいくつか持っておくべきです。

――泉口選手はバットを短く持っていましたね。

篠塚 バットの持ち方もそうですし、泉口は細かく考えてやっていたから結果を残せたと思うんです。自分が一番振りやすいバットの長さ、ボールをとらえやすいバットの長さなどありますが、ほとんどのバッターがバットを目いっぱい長く持っています。

 今のピッチャーの球速や、あらゆる軌道の球種に対応するためには、バットをしっかり振れなければ話にならない。泉口がバットを短く持っていたのは、確率を上げるという意味で理にかなっていたと思います。

――以前、「若手が出てきても、結局活躍が続かない」という課題を指摘されていましたが、今季はどう見ていましたか?

篠塚 どの選手も、守備に関してはある程度の自信を持ってやっていると思います。ただ、バッティングは相手がいることですから。時々カンカン打つことはあっても、それが続かない。だから首脳陣からすると使いにくくなってしまう。

 結果的に、代わる代わるいろいろな選手を使うことになります。

泉口みたいにやれればレギュラーを獲れるわけですが、そういう選手が若手のなかからもうひとり、ふたり出てこないと厳しいです。特に、上背のない浅野翔吾や浦田俊輔、門脇誠らは、2024年に打率.201だった泉口が3割打者になったことを参考にしてほしいですね。

【中山礼都は「来季が重要」】

――ここまで課題について伺ってきましたが、ポジティブなことを挙げるとすれば?

篠塚 ソフトバンクから捕手の甲斐拓也が加入し、シーズン当初は岸田行倫の出番はなかなかないのかなと見ていましたが、甲斐が離脱して以降はいい働きを見せてくれました。特にバッティングに関しては対応力を感じます。甲斐は全力で振るので、真っすぐでカウントを稼がれ、追い込まれてからボールを落とされるとダメになる。

 最初は相手のバッテリーも甲斐の特性をあまりわかっておらず、ストレートをスっと投げたりすると、ちょうど甲斐が振ったところにボールがいってしまう、ということがありました。逆に言えば、甲斐には「狙ってあそこへ打った」という感覚はなかったような気がします。

 一方で岸田の場合は、意図的に逆方向へ打ったりしていますし、泉口同様にバットを短く持っています。それがいい結果につながっていると思います。守備もある程度よくなっていますし、来季は開幕から岸田をスタメンでいってもいいんじゃないですか。

――103試合に出場した、中山礼都選手はどう見ていましたか?

篠塚 シーズン中盤から後半にかけて、よくなっていきましたね。今までと同じ打ち方ではなく、少しバットを寝かしてみるなど工夫が見られました。ちょっと気づくのが遅かったような気もしますけど、確率高くボールをとらえるにはどういう打ち方をすればいいのか、自分なりに考えたんでしょう。

来季が重要です。

 構えて、動いて、グリップが止まって、それから打つという選手が意外と多いのですが、野球は"動から動"なんです。そういった野球の基本を教える人がいないのかもしれない。調子が悪くなった選手を見ていると、バッティングが変わっていないんです。バットを短く持ったり、寝かせてみたり、タイミングのとり方を変えてみたり、いろいろと試しながら追求していくべきです。

――中山選手の場合は、工夫が功を奏したということですね。

篠塚 自分のなかで"これだ!"というものをつかんだのであれば、さらにその上を狙わなければいけません。いい状態をキープしたままシーズンを終えても、その後が肝心です。どういう意識で秋のキャンプに取り組んだのかが大事ですし、ちょっと打ったからといって安心してはいけません。

【岡本がメジャーに行った場合、4番はどうする?】

――岡本選手がメジャー挑戦で抜けた場合、どう対応していくべきでしょうか?

篠塚 松井秀喜が若い頃は、落合博満さんというよいお手本が4番を打っていたり、チーム内に4番を継いでいくいい流れができていました。本来は岡本がいるうちに、次の4番候補が出てきていることが理想でしたが、今はそういう選手がいないじゃないですか。

 そういった状態で来季から「じゃあこの選手を4番」というのは、ちょっと厳しいです。

ただ、チームは勝たなくてはいけない。今のメンバーを見る限り、外国人選手でカバーしながら、2、3年かけて次の4番を育てていくのが現実的だと思います。岡本もあれだけのバッターになるまで時間がかかったわけですしね。

 ただ、使い続けていこうと思える人材がいるかどうかですね。岸田や中山も打ちましたが、リチャードや荒巻悠らが成長しない限りは厳しい。外国人選手でもいいのですが、"4番目の打者"としての起用しか目処がたっていません。

――外国人選手に頼らざるをえないという点で、トレイ・キャベッジ選手はいかがですか?

篠塚 及第点の活躍は見せてくれましたが、まだ物足りなさを感じます。丸も年齢を重ねていますし、これからどうなるか。吉川尚輝は途中で離脱してしまうことも多いですが、レギュラーと言えるのはショートの泉口とセカンドの吉川くらい。来季、野手陣は厳しい状況だと思いますが、多くの選手にチャンスがあるとも言えますし、誰が台頭してくるのか楽しみにしています。

(投手編>>)

【プロフィール】

■篠塚和典(しのづか・かずのり)

1957年7月16日生まれ、東京都出身、千葉県銚子市育ち。1975年のドラフト1位で巨人に入団し、3番などさまざまな打順で活躍。

1984年、87年に首位打者を獲得するなど、主力選手としてチームの6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。1994年を最後に現役を引退して以降は、巨人で1995年~2003年、2006年~2010年と1軍打撃コーチ、1軍守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任。2009年WBCでは打撃コーチとして、日本代表の2連覇に貢献した。

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