智辯和歌山・中谷仁監督インタビュー(前編)

 2024年までに、智辯和歌山からプロ野球界へ進んだ選手は16人を数える。そのうちドラフト1位指名を受けたのは4人。

そして昨秋、同校OBとしては17人目、ドラフト1位としては5人目となる選手が誕生した。昨年の大学野球界で「世代ナンバーワン右腕」との呼び声が高かった青山学院大の中西聖輝である。

 昨秋の明治神宮大会では2連覇の立役者となり、青学大のエースとして大学通算17勝を挙げた。その数週間前に行なわれたドラフト会議では、中日からドラフト1位指名を受けた。

夏の甲子園優勝エースはなぜ大学へ進んだのか 青学大・中西聖輝...の画像はこちら >>

【プロ志望から大学進学へ】

 中西といえば、2021年夏の甲子園で智辯和歌山のエースとして21年ぶりの優勝に導いた。じつは当時、中西はプロ志望で、夏の甲子園後にプロ志望届を提出する予定だった。しかし熟考の末、大学進学の道を選ぶ決断を下した。

 それから4年後、中西はドラフト1位指名を受け、プロへの道を切り開いた。その中西について、智辯和歌山の中谷仁監督はこう語る。

「『振り返ってみたら正解やった』ではなく、正解にした中西の努力、勝負強さだと思います」

 かつての智辯和歌山は、高卒からプロに進む選手が多かった。

 2009年に中日から1位指名された岡田俊哉や10年に日本ハムから2位指名を受けた西川遥輝たちがそうだが、中谷氏が智辯和歌山の監督に就任した以降も、18年の林晃汰(広島3位)、19年の黒川史陽(楽天2位)、東妻純平(DeNA4位)、20年の細川凌平(日本ハム4位)、小林樹斗(広島4位)が高校卒業後、プロの世界に飛び込んだ。

 だが中西が在籍していた2021年以降は、高校在学中にプロ志望届を提出した選手はいない。

 これまでプロへ進んだ林以降の5人の教え子の歩みを踏まえ、中谷監督は高校からプロの世界へ進むことに対して、ある懸念を抱いていた。

高校野球くらいまでは、極端な話、練習はやらされているものなんです。自分で考えなくてもいいから、じつはすごく楽なんです。それにハマって伸びる選手もいますが、プロや大学といったカテゴリーになると、任される時間が一気に増えます。大学を経てプロに行けば、ある程度その流れを理解したうえで入れますが、高卒でプロに進むと、練習での時間の使い方がわからないんです」

【高卒1位入団に突きつけられた現実】

 中谷監督自身も1997年のドラフトで阪神から1位指名を受け、高卒でプロ入りした経験を持つ。しかし、入団直後は周囲のスピードについていけず、苦労の連続だったという。

「僕自身、入団してみると、できないことや知らないことがあまりにも多く、大学や社会人出身の選手とかなりの差を感じました。たとえば二軍でも、バントシフトやけん制などで、横文字の名称が当たり前のように飛び交う。まるで英語の授業を受けているようでした(笑)。野球なのに、これまで聞いたことのない用語だらけのなかで練習するんです。

 そもそも(高卒の)19歳と、(大卒の)23歳、(社会人の)25歳を比べれば、レベルの差が大きいのは当然です。ただ、プロの世界では、そうした事情を考慮してもらえるわけではありません。『プロで必ず成功してやる』という強い思いを持った人間だけが最後に勝ち残る世界です。よほどのスーパープレーヤーでない限り、高卒でいきなり通用するのは難しいですよね」

 それに加えて、中谷監督は阪神のドラフト1位ということで、周囲からの期待がとにかく大きかった。

甲子園で優勝という肩書もあって、1月の入寮時から常に注目の的だった。

「たしかに、あの頃はプレッシャーがものすごく大きかったですね。高卒選手に寄り添ってくれる育成コーチや先輩がいれば心強いのですが、そうした環境が整っているチームは当時、多くありませんでした。そもそも先輩選手も、自分の人生がかかっていますから、みんな自分のことで必死です。だからこそ、最後は自分で乗り越えなければならないんです」

【大学の4年間で身につくプロで生きる思考】

 その点で言えば、大学生は「任される時間」が生活の大半を占めるなかで、4年間かけて時間の使い方を身につけていく。その過程では自由な時間も多く、どうバランスを保つのか、どこまで自分に負荷をかけるのかを見極めながら成長していく。そうした選手ほど、結果を残していく傾向にある。

「練習をきちんとやる選手はやりますが、遊びたい選手は遊んでしまう。チームメイトが遊んでいるのを横目に、自分はトレーニングを続ける。その時間を4年間しっかり保てた選手は、プロでも成功しやすいと思います。

 どれだけドラフト1位で騒がれてプロに入っても、そうした思考が身についていなければ、プレッシャーだけがのしかかってくる。ドラフト上位であればあるほど、その重圧は大きくなりますし、高卒となれば、なおさら跳ね返すのは難しいんですよね」

 高校時代から注目を集め、ドラフト1位で入団した選手となれば、なおさらだ。

高卒ながら即戦力として期待される一方で、現実には早々に壁にぶつかるケースも少なくない。いわば、出口の見えないトンネルに迷い込んでしまった時、どうすれば活躍への道を切り開けるのか。

 ファームで結果を残し、ようやく光が見え始めた──そう思った矢先に故障に見舞われ、シーズンを棒に振ってしまう。そんな若い選手の姿を、これまで何度も目にしてきた。

 そうこうしているうちに、大卒で自分と同い年の選手が入団してくるという状況にもなる。近年は球団側の見極めも厳しくなり、高卒4年目で戦力外通告を受けるケースも少なくない。だからこそ、高校卒業後の進路選択は以前よりもシビアなものになっている。

「野球の基本や技術だけでなく、自分がどう取り組むのか、どう学ぶのかという姿勢は、中学や高校の部活動よりも、大学で身につく部分が多いと思います。自分の時間を自由に使える環境のなかで、自ら何かをつかみにいくくらいの気持ちをどれだけ持てるか。そこからプロへの道が続くと思っています」

つづく>>

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