松永浩美が語る加藤秀司とのエピソード 中編
(前編:松永浩美が語る、阪急の"神ドラフト"2位・加藤秀司 ファーストの守備は「送球が横にそれると捕らなかった」>>)
長らく阪急の主力として活躍した松永浩美氏に聞く、加藤秀司氏(1979年からの登録名は「英司」)とのエピソード。その中編では、加藤氏のマネをしたという打撃フォームなど、バッティング面について語ってもらった。
【松永がマネした加藤のバッティング】
――松永さんは、加藤さんの打撃フォームを参考にされたそうですね。
松永浩美(以下:松永) 左バッターがインコースのボールを打つと、たいていは引っ張ってライトへ打球が飛ぶじゃないですか。ある試合で、加藤さんがインコースの低いボールを打って、逆方向(レフト)にホームランにしたことがあったんです。それで、「インコースをレフトに打つにはどうすればいいですか?」と聞いたことがあるんですよ。
そうしたら、「ボールは丸いんやから、内側を叩けば反対に飛ぶよ」と。インコースを打つための打撃フォームやバットの出し方など、メカニズムに関する説明は何もありませんでした(笑)。
――それを聞いて理解できましたか?
松永 理解できなかったのですが、そう言う限りは「何か意味があるのだろう」と。試合が終わって寮に帰ってから、頭のなかで何度もシミュレーションしましたし、実際にバットを持って練習しました。
ボールの内側を叩くためには、バットが体の近くを通るようにしなければいけませんし、左肘が体にしっかりついていないと肘を畳めません。また、上半身の動きに伴って下半身の動きも変えなきゃいけないな......などと試行錯誤を重ねました。
最終的に、今でいう大谷翔平(ドジャース)みたいに、かかと体重(後方重心)を意識した足の動きになったんです。ただ、野球の解説者には「松永のあの打ち方はダメだよね、後ろに体重がかかるような打ち方だから」とけっこう言われましたよ。
――それでも結果的に、インコースをレフトへ打てるようになった?
松永 そうですね。
インコースは引っ張り、アウトコースは流すっていうのは単純じゃないですか。ただ、インコースを引っ張りきれない状態になってくると、ピッチャーはインコースに攻めてくるわけですね。それでも引っ張ってやろうと思ってインコースを積極的に打ちにいっても打てるわけがないんです。
一方で、ピッチャーが「今、松永は調子が悪いよね」と思ってインコースに投げてきた時に、逆方向に詰まりながらでもヒットが出れば、うかつにインコースには投げられなくなるわけです。加藤さんの言葉の意図がわかりますよね。
【加藤と落合博満の共通点】
――先ほど、かかと体重(後方重心)を意識した足の動きというお話がありましたが、軸足(左足)に体重を残すイメージですか?
松永 そうですね。加藤さんの打ち方をマネしているうちに、前足(右足)をステップして体がピッチャー側に動いていっても、体重を軸足(左足)に残せることに気づきました。体重はギリギリまで軸足に残しつつ、打つ瞬間に体重を一気に右足に移すイメージです。
同じ左バッターの角中勝也(千葉ロッテ)なんかも、どちらかといえばそういう打ち方です。おそらく角中も、打球が詰まることを気にしていないんじゃないですか。逆に、なかなか打率を残せない選手は、「どんなボールでも芯でとらえなきゃいけない」という固定概念を持っているような気がします。
――打球が詰まることは、決して悪いことではないということですね。
松永 ピッチャーはタイミングを外してバッターの軸を崩しにかかってきますし、常に芯で打つことは難しい。それに、ずっとバッティングが好調なんてことはあり得ません。健康にたとえると、「1年間365日、調子悪い日が一日もないよ」と言っているようなもんです。打球が詰まることも当然ですし、詰まった時にどう対応するかを考えるべきですね。昔も今も、伸び悩んでいる選手は芯で打とうと思いすぎています。
――落合博満さんも、加藤さんの打撃フォームを参考にしていたと聞きます。
松永 参考にしていたのは知っていますが、どの部分を参考にしていたのかは知りません。でも、おふたりの共通点としてわかるのは、テイクバックしたあとに、すぐにはバットが前に出てこないということ。もしかしたら、そういった部分を見ていたのかもしれません。
やはり、いかに軸足に体重を乗せておけるかが大事。あと、加藤さんのバッティングを後ろから観察して、太ももやふくらはぎの動きをよく見ていましたが、軸足のほうの筋肉をよく使っていましたね。
――落合さんが中日でGМを務められていた時、加藤さんを一軍チーフ打撃兼野手総合コーチとして招聘したことがありましたね。
松永 加藤さんはその頃、大阪ガスで臨時コーチを務めるなど、アマチュアで指導していたんです。その部分も落合さんは重視していたと思いますよ。プロに教えるよりも、アマチュアに教えるほうが難しいですから。
【大事なのは「打てるか、打てないか」】
――軸足に体重を乗せることでの一番のメリットは?
松永 軸が崩れにくく、タイミングもはずされにくい。私は、真っすぐを待ちながら変化球に対応できることが最も理想的なバッティングだと思っています。
軸足に体重が乗る時間が短く、ピッチャー側への体重移動が早くなると、変化球を待ちきれなくなります。一方で軸足に体重が乗っていれば、真っすぐに合わせて早く始動したあとに変化球が来ても微調整ができます。加藤さんは軸足にしっかりと体重が乗っているので、前足がジワジワと出ていくんです。その足の出方は、落合さんも同じです。
――加藤さんは首位打者を2度、打点王を3度獲得されていますが、通算本塁打も347本と長打力も兼ね備えていました。三冠王に近づいたシーズンもありましたね。
松永 1979年ですね。打率.364で首位打者、104打点で打点王を獲りましたが、本塁打がわずかに及ばなかった( 加藤氏は35本、本塁打王の・近鉄チャーリー・マニエル氏が37本塁打)。ただ、加藤さんの通算の長打率は5割を超えています。私が入団した頃はちょうどバリバリの頃で、「すごいな」と思って見ていました。
そんな加藤さんに、褒めていただいたことがあるんです。お互いに引退したあとだったんですが、「マツ(松永氏の愛称)はヒットを何本打ったんだ? 1500~1600本くらいか?」と聞かれた時があって、「1904本です」と答えたら、「お前、そんなに打っていたんだ。(2000本安打まで)惜しかったなぁ」と言われたんです。
続けて「でも、僕の場合は試合数が少ないですから(1816試合出場)」と言ったら、「試合数よりも安打数が多いのか。そら立派やな」と褒めていただいたんですよ。加藤さんも、試合数よりも安打数が多い(2028試合出場、2055安打)。私のなかでいいバッターというのは、試合数よりも安打数が多いバッターだと思っていますし、加藤さんにそう言っていただいた時はうれしかったですね。
――加藤さんのバッティングを見て学んだ松永さんとしては、喜びもひとしおだったのでは?
松永 そうですね。
普通は、ストライクを振ってボールを見送るじゃないですか。加藤さんはストライクを打つのではなく、ストライクゾーンを外れていても「打てるボール」がきたら打つ。「なぜ、あんなにインコースのボールを打つんだろう」と思うこともしましたが、「打てるんやから、打っていいんだよ」と。たとえボールでも、自分が打てるボールは打っていいんだと気づかされました。
アウトコースにボール1個分くらい外れていても、打てると思ったら打つ。そうすると、ヒットが出るもんなんです。当然、ストライクとボールの見極めは大事ですが、それよりも「打てるか、打てないか」が大事。ストライクかボールかを見極めたところで、ヒットが打てなければ意味がありません。
――ボール球でも打っていいという考えは、あまり聞きませんね。
松永 ただ、ひとつ気をつけなければいけないことがあります。
なぜなら、バッターの心理として、今度はもっと高く外れたボールを振りにいってしまうから。それがきっかけで、徐々にバッティングを崩していってしまうんです。「打てると思ったら打つ」という意識を持ちつつ、前の打席でボール球を打った時はそれを忘れて新たな気持ちで打席に入る。そのバランス感覚も大事です。
(後編:加藤秀司に頭を叩かれた、若き日の松永浩美 山田久志からの2000本安打達成には「やっぱりすごいな」>>)
【プロフィール】
松永浩美(まつなが・ひろみ)
1960年9月27日生まれ、福岡県出身。高校2年時に中退し、1978年に練習生として阪急に入団。1981年に1軍初出場を果たすと、俊足のスイッチヒッターとして活躍した。その後、FA制度の導入を提案し、阪神時代の1993年に自ら日本球界初のFA移籍第1号となってダイエーに移籍。1997年に退団するまで、現役生活で盗塁王1回、ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞4回などさまざまなタイトルを手にした。メジャーリーグへの挑戦を経て1998年に現役引退。引退後は、小中学生を中心とした野球塾を設立し、BCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスでもコーチを務めた。2019年にはYouTubeチャンネルも開設するなど活躍の場を広げている。
◆松永浩美さんのYouTubeチャンネル「松永浩美チャンネル」










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