ダイヤの原石の記憶~プロ野球選手のアマチュア時代
第29回 坂本誠志郎(阪神)後編

「学習能力が高い。1つ教えると、それがすぐ2になり、4になり、8になり......倍々に理解が広がっていく。

ピッチャーも坂本と組むと持ち味を十分に引き出してもらえるから輝いていく。捕手がいいとチームの戦いは安定しますが、坂本はまさにそう感じさせるキャッチャーでした」

 これは坂本誠志郎が履正社高を卒業したあと、当時監督だった岡田龍生(現・東洋大姫路監督)が言っていた言葉だが、厚い信頼を寄せられていたことがわかる。

「捕手がいいとチームの戦いは安定する」を体現する男 坂本誠志...の画像はこちら >>

【相手のクセを読んで打つタイプ】

 当時の履正社には、坂本と同じく1年秋からレギュラーだった海部大斗、石井元ら注目の野手が揃っていた。海部は走攻守三拍子揃ったヒットメーカーで、石井は4番を担った右のスラッガー。

 一方、坂本は読みを生かした勝負強い打撃が持ち味だったが、打順は2年夏の甲子園では8番、3年春の選抜は6番、3年夏の大阪大会で7番。守備型捕手の印象が強く、いわゆる高校球界のスターや、ドラフト候補筆頭というタイプではなかった。

 のちに振り返って思い出すのは、2年夏の甲子園で3安打を放った天理(奈良)戦について語った場面だ。3安打の内容は、レフトフェンス直撃の二塁打、レフト前ヒット、そして再びレフト前ヒット。印象的だったのは、自然と配球の読みや投手のクセの話になったことだ。

 相手エースとは、前年秋の近畿大会でも対戦しており、クセは頭に入っていたという。取材メモにはこう記されている。

「打席では相手の攻めを読みますし、配球パターンも参考にします。

(二塁打の場面は)腰を引き気味に見逃すともう1球インコースに来るというデータがあって、その球をレフトに持っていきました。ベンチにいる時から、相手投手のクセがないか、常に見ています。ボールを握る時の指の開き具合や手首の角度、グラブの使い方、プレートの踏み方など......。そこからある程度球種を予測して、狙い球を絞ります」

 高校時代の坂本のバッティングについて、岡田はこう評している。

「バッティングはコースや球種を絞って打つタイプ。その読みも、しっかり根拠がありました。捕手としての頭脳が、打席でも生かされている。だから、相手バッテリーの考えるレベルが高いほど、打つ印象があります」

 最上級生となると主将を任され、2年夏につづき、3年春の選抜大会にも出場。そこでベスト4に進出するなど、全国の頂点を本気で狙うチームへと成長していった。

 そのなかで迎えた3年夏、履正社は大阪大会準決勝で大阪桐蔭に1対5で敗れた。この試合で履正社の3季連続甲子園出場を阻んだのが、当時2年生の藤浪晋太郎(現・DeNA)だった。

 坂本は一塁ゴロ、三塁線の打球を野手が弾いてのヒット、鋭いライトライナー、そして高校最後の打席はデッドボールだった。

 ちなみに、準決勝で最大のライバルである履正社を破って甲子園出場に王手をかけた大阪桐蔭だったが、翌日の決勝で東大阪大柏原にサヨナラ負けを喫した。坂本も藤浪も、高校野球の厳しさを存分に味わい、その夏を終えた。

【レベルが上がるほど持ち味を発揮】

 高校卒業後、坂本は海部、石井と共に明治大へ進学。高校野球を終えた坂本に何度か話を聞いたが、大学進学にあたってこのように語っていた。

「大学はリーグ戦になるので、これまで以上に対戦経験を生かした配球が大事になってくると思います。楽しみな気持ちもありますし、より責任は大きくなる。もちろん一人ひとりの打者を抑えることは大切ですが、場面によってはあえて打たせて、大事な場面でそれを利用するといったことも必要になってくる。

 キャッチャーとして、また違った面白さを感じられそうでワクワクしています。将来はプロの舞台で勝負したいという気持ちはありますが、そのためにも大学の4年間でどこまで成長できるかですね」

 監督の岡田も大きな期待を寄せていた。

「坂本については、大学や社会人からの誘いが絶えませんでした。社会人の監督の評価も非常に高かった。捕手としての結果だけでなく、根拠ある配球が評価されたんだと思います。

捕手は経験がモノをいうポジション。今の姿勢と高い吸収力で経験を積み、どこまで成長するのか楽しみです。

 守れるキャッチャーは、野球のレベルが上がるほど必要性が増します。リーグ戦の大学野球では、坂本の持ち味はより生きてくるはず。今回、明治大に3人進みますが、一番早く出番が回ってくるのは坂本でしょう」

 その見立てどおり、大学では1年春からリーグ戦に出場し、秋から正捕手に定着。2年時は2季連続でベストナインに選ばれ、最上級生になるとチームだけでなく、大学日本代表でも主将も務めた。

 そして2015年ドラフト2位で阪神へ入団。投手陣の力を引き出すリードは高く評価され、昨年、投手出身の藤川球児が監督に就任すると、押しも押されもせぬレギュラーに定着した。

 これまで培ってきた経験を生かし、世界の舞台でどんな働きを見せるのか。あの「履正社の坂本」がWBCで「日本の坂本」として戦う姿を、しっかり見届けたいと思う。

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