阪神・及川雅貴インタビュー(前編)
「勝ってるところは......とくにないですね」
首を傾げながら、申し訳なさそうに答える及川雅貴の顔が頼りなく映った。2019年3月。
── 及川投手の同学年にはすばらしい投手が何人もいますが、自分が誰にも負けないと思っているところはどこですか?
【「高校BIG4」と称された逸材】
名門・横浜のエース左腕である及川は、「高校BIG4」と称される世代トップランナーのひとりに数えられていた。ほかの3人は、大船渡・佐々木朗希(現・ドジャース)、星稜・奥川恭伸(現・ヤクルト)、創志学園・西純矢(現・阪神)。のちに日本を代表する左腕に進化する興南・宮城大弥(現・オリックス)を差し置いて、高校2年にして最速153キロを計測した及川が錚々たるメンバーに加わっていた。
だが、及川は強烈な同期のライバルに敵愾心を示すことはなかった。当時の及川にとっては、それどころではなかったのかもしれない。7年後のいま、当時の心境を尋ねると、及川はこんな本音を漏らした。
「自分のことは自分が一番わかっていますから。『BIG4』と言ってもらえることはうれしかったですけど、自分が彼らと比べものにならないと思っていたのも事実です。日本の高校生でトップの4人に入るレベルじゃないなと。そもそも、思ったフォームで投げられない状態でしたから」
そして、及川は「強いて言えば、(勝っているのは)フィールディングくらいかな」と自嘲気味に笑った。
高校時代の及川は絶えず「フォーム探しの旅」に出ていた。「勝ってるところはない」と弱気な発言をした春の選抜にしても、不安定な制球を露呈。
及川にとって、強烈な体験があった。選抜直後に実施された、高校日本代表候補の強化合宿。代表候補同士による紅白戦で、佐々木が信じられないような剛速球を投げ込んだ。バックネット裏でスカウトが構えたスピードガンには、「163キロ」という異次元の数字が表示されていた。
「ベンチで見ていても、『こんなにボールの音が聞こえるんだ!』と驚きました。ボールが風を切る音まで聞こえてくるんです。その時の捕手の藤田(健斗)はいま阪神でチームメイトなんですけど、フォークが捕れなくて股を抜かれたのを覚えています。ちょっと話しただけでも、自分の知識にはないような言葉が出てくる。自分の勉強不足を感じましたし、もう別格だなと思いました」
同年秋のドラフト会議で、及川は阪神に3位指名された。今だから言えることだが、私は「こんな繊細な選手が阪神のような人気球団に入って大丈夫だろうか?」と思わずにはいられなかった。
【中学時代の及川雅貴と真剣勝負】
私が初めて及川と出会ったのは、2016年の秋だった。当時、及川は匝瑳(そうさ)リトルシニア(千葉)のエースであり、侍ジャパンU−15代表の中心投手でもあった。
私は西東京大会ベスト32という、ごく平凡な球歴の中年男である。エリート街道をひた走る及川は、「なんで自分が、こんなおっさんと対戦しなければいけないんだ?」と困惑したに違いない。
1打席目の初球、及川が投じたストレートがど真ん中に入ってきた。おそらく小手調べのつもりだったのだろう。左打者の私が引っ張り込むと、打球は右翼線へと抜けていった。まさかの三塁打。出会い頭の「ラッキーパンチ」だった。
だが、私は寝た子を起こしてしまった。及川は一気に本気モードになり、比べものにならない剛速球を対角線へと投げ込んできた。縦・横・斜めと切れ込んでくる3種類のスライダーに、こちらを嘲笑うかのようなスローカーブも交えてくる。私は残りの3打席で3三振と、まさに手も足も出ない結果に終わった。
対戦後、及川は初々しい笑顔でこんな感想を語ってくれた。
「打たれてからは気持ちを入れ直して、そこから大会モードで投げることができました」
【投球フォームに苦しんだ高校時代】
それ以降、私はことあるごとに及川の試合を見にいくようになった。だが、高校進学後の及川は、類まれな潜在能力を発揮したとは言い難かった。前述のとおり、投球フォームに悩んでいたのだ。
ヒップファーストで体重移動する及川は、軸足(左足)でしっかりと立つことを重視していた。だが、2年夏にフィットしていたフォームが審判から「2段フォーム」と指摘され、試行錯誤を余儀なくされた。
さらに右足を上げる際に、「右肩がセカンド側に入りすぎる」という悪癖にも悩まされた。上半身の反動が大きくなる分、再現性が低くなる。不調時のストレートは、ほとんど制御不能に陥っていた。
当時の状態について聞くと、及川は遠い目をしてこう振り返った。
「あの時の自分には、何の知識もありませんでした。横浜高校はファンの方も多いですし、なかなか成績を出せなかった自分に対して、いろんな声があったことも知っていました。
苦境から6年後の2025年。及川は開花の時を迎えた。66試合に登板し、6勝3敗1セーブ46ホールド、防御率0.87。18試合連続ホールドのNPB新記録を樹立した。ブルペン仲間の石井大智が50試合連続無失点という大記録を成し遂げたこともあり、及川のインパクトが薄れた感はある。それでも、リーグ優勝に大きく貢献したのは確かだ。
もう、あの頼りない顔をすることもなくなった。プロ入り後の及川に一体、何があったのか。7年ぶりに対面した及川は、その内幕を語ってくれた。
つづく>>
及川雅貴(およかわ・まさき)/2001年4月18日生まれ。千葉県出身。横浜高校では1年春からベンチ入りし、最速153キロの速球とスライダーを武器に世代屈指の左腕として注目を集め、「高校BIG4」のひとりに数えられた。










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