昨季、日本シリーズではソフトバンクに敗れたものの、2年ぶりにセ・リーグのペナントを奪還した阪神タイガース。セットアッパーの石井大智がアキレス腱断裂の大ケガを負ったが、全体として順調な仕上がりを見せており、球団初の連覇へ期待がかかる。
今キャンプでは、セ・リーグ屈指の投手王国といわれる阪神で、高卒2年目の若手が一軍の宜野座キャンプに抜擢され注目を集めた。
【中学時代から光っていた"投げっぷり"】
2024年ドラフト2位の今朝丸裕喜(けさまる・ゆうき)だ。
報徳学園時代には3度の甲子園に出場し、高校2年春、3年春と2年連続選抜準優勝を果たし脚光を浴びた。188センチの長身から投げ下ろすストレートは、打者の手元で微妙に動き、威力も十分。
ルーキーイヤーの昨年は、二軍で12試合に先発して5勝0敗、防御率4.24 を記録。フレッシュオールスターにも選出されるなど、及第点の成績を残した。
その今朝丸の中学時代を知るのが、阪急・オリックスで通算165勝を挙げ、その後は投手コーチとしてダルビッシュ有や田中将大を育てた名伯楽・佐藤義則だ。佐藤は関メディベースボール学院で総括投手コーチを務めており、中等部に在籍していた今朝丸を指導したことがあった。
「中学2年の頃から見ているけど、最初から素材はよかった。中学1年の時はそこまででもなかったらしいんだけど、彼の中学2年の時にコーチに就任して、『ヨシさん、こいつを何とかお願いします』と首脳陣に頼まれてね。それからは、あいつが投げる時にはいろいろ教えるようにしていた。当時から身長もあったし、とにかく投げっぷりがよかった。性格もポジティブだしね」
野球界ではよく「投げっぷりがいい」という表現が使われる。
投手と打者の勝負は技術だけではない。どちらかが気持ちで飲まれた時点で、勝負は決する。だからこそ"投げっぷり"は、投手にとって重要なファクターとなる。今朝丸は、中学の時点ですでにその"投げっぷり"を備えた投手だったと、佐藤は証言する。
【藤川監督も評価する高卒2年目の成長】
今朝丸は188センチの長身だが、まだ体の線は細く、入団後はファームで体づくりにじっくり取り組むことになった。メンタル面も含め、長いシーズンを投げ続けても壊れない体をつくることを最優先した。
投手出身だけに、ピッチャーを見る目が人一倍厳しい藤川球児監督。その指揮官が、高卒2年目の今朝丸に下している現時点での評価は悪くないどころか、大きな期待を寄せるものだった。
実際、今朝丸は宜野座の一軍キャンプに抜擢され、途中から具志川の二軍キャンプへ合流したものの、2月23日に名護で行なわれた日本ハムとのオープン戦では三番手として登板した。
その投球を、佐藤は現地で見届けた。
「最初、代わったばかりの頃は緊張していたのか、スライダーの制球が少し不安定だった。でも直球は力強く投げ込めていたし、変化球も腕が振れていた。2イニング目の先頭、昨季二冠王のレイエスには、緩いカーブで三振を奪ったでしょ」
本来は1イニングの予定だったが、わずか9球で三者凡退に抑えたため、藤川監督がもう1イニング続投させた。次の打者が昨季二冠王のレイエスだったこともあり、そこでどんなピッチングをするのか見たかったのだろう。
「初球は145キロ弱のストレートで空振り。次にスライダーでファウル、そして3球目に101キロの緩いカーブで空振り三振。こういう攻めもできるとアピールできた場面だったね。制球が乱れていたスライダーを、試合のなかで修正できたのもよかった」
【名伯楽が説く勝てる投手の絶対条件】
愛弟子の成長を目の当たりにし、佐藤もわずかに表情が緩んだ。
「これだけ投手が揃うなかで、2年目のキャンプで途中まで一軍に帯同できたのは立派。本人にとっても多くを学べたはずだ。レイエスをああいう形で3球三振に取れたことも、貴重な経験になったはず」
そのうえで、プロで活躍するための条件も付け加えた。
「一軍でやるために必要なのは、まずコントロール。この世界、制球がなくて勝てるピッチャーはいない。150キロ前後のストレートにカーブ、スライダー、フォークもある。フォークを決め球にするなら、そこまでのカウントをどうつくるかがカギになる。そのためにも制球力は不可欠だ」
タイプとしては、長身から角度のある球を投げ込む本格派の才木浩人に近い。そして今朝丸の素質について、佐藤はこう続けた。
「幸い、今朝丸は中学2年の時点で体が飛び抜けて大きかったし、スピードもあった。あとは強い球をどうコントロールして、連続して投げられるかだね」
ダルビッシュや田中といったメジャーリーガーを育てた佐藤でさえ、速球を投げる能力は完全に教えられるものではないと断言する。
「成長期の子どもを指導するのは難しくないけど、クラブチームは毎日練習があるわけじゃない。中学生は土日だけだから、次に見るのは1週間後。よくなっている子もいれば、元に戻っている子もいる。だからこそ、まずは正しいフォームを身につけさせることが大事なんだ」
佐藤が言う「正しいフォーム」とは、故障しない合理的な投げ方のことだ。
「体ができていないのに、間違ったフォームで投げるから肩を痛める。正しいフォームなら、そう簡単には壊れない。今朝丸も多少の修正点はあったけど、大きな問題はなかった」
【球質と制球が生む真の速さ】
天性と言ってしまえばそれまでだが、佐藤はサイズの大きさも含め「モノが違った」と言う。投手は体が大きいほど有利だとも言われている。
「身長190センチ前後で手足の長い投手の指導は、どうしても慎重になる。バランスの問題があるからね。でも、やっぱり投手は大きいほうが有利。メジャーなんかでは190センチ以上ないと先発させないと言われるくらい、身長を重視している。バッターも大きいから、角度のあるボールのほうが速く見えるんだ」
最近では、190センチ超の投手として高橋光成(西武)、山下舜平大(オリックス)、横川凱(巨人)らが活躍している。かつては「日本人の190センチ投手は大成しない」と言われた時代もあったが、その常識を覆したのが196センチのダルビッシュ有だった。日本ハムでコーチを務めていた佐藤の指導を受け、やがてメジャーを代表する投手へと成長した。
そのダルビッシュについて、佐藤は球質が圧倒的によかったと語る。
「大事なのは回転数もあるけど、やっぱりリリースポイント。そこでしっかりスナップを使えているかどうか。スピードが出なくてもファウルを取れるボールがある。球速は出るに越したことはないけど、球質とコントロールがあれば抑えられる」
その例として挙げたのが、阪神の村上頌樹だ。
「村上みたいに150キロ出なくても勝てる投手もいる。彼もコントロールがいいし、ボールにキレがある。打者からすれば、球速表示以上に速く感じるんじゃないかな」
だからこそ、今朝丸にはこう望む。
「スピードガンの数字にこだわりすぎず、多少コースが甘くてもファウルになるような強い球を投げること。それを意識してほしいね」
次世代の阪神を担う素材であることは間違いない。若竹が天へと伸びるように、その才能を開花させるためには、キャンプで得た経験を糧にしながら、速くて強いボールを安定して投げられる投手へと成長していくことだ。
層の厚い阪神投手陣のなかで、次世代エース候補として期待される今朝丸。まずは脇目も振らずに投げ込み、制球力を磨いていく。
佐藤義則(さとう・よしのり)/1954年9月11日生まれ、北海道出身。函館有斗高から日本大へ進み、76年秋には78奪三振の東都大学リーグ新記録を樹立し、同年ドラフト1位で阪急から指名され入団。ルーキーイヤーからリーグ優勝、日本一に大きく貢献し新人王に輝く。85年は21勝で最多勝、86年には防御率2.83で最優秀防御率のタイトルを獲得した。95年8月の近鉄戦では40歳11カ月という(当時)史上最年長でのノーヒットノーランを達成。同年、オリックスブルーウェーブに改称後、初のリーグ制覇。98年、通算500試合登板を果たすも、現役を引退。引退後はオリックス、阪神、日本ハム、楽天、ソフトバンクでコーチを歴任し、ダルビッシュ有や田中将大らを育てた。2020年より関メディベースボール学院の投手コーチに就任した。










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