選抜で見つけた「隠れ逸材」たち(前編)

 第98回選抜高校野球大会は、大阪桐蔭の優勝で幕を閉じた。今大会を振り返り、あらためて思ったことは、前評判の高い逸材たちが多く出場していたことだ。

 織田翔希(横浜)、末吉良丞、新垣有絃(ともに沖縄尚学)といった昨年の春夏甲子園制覇に貢献した快腕をはじめ、菰田陽生(山梨学院)、吉岡貫介(大阪桐蔭)、杉本真滉(智辯学園)......。とくに、投手に高卒から即プロを狙えるハイレベルな選手が多かった。

 そんななか、大きく報じられるドラフト注目選手や殊勲選手だけでなく、人知れず、プレーの中に、秘めた潜在能力の一端をにじませている選手たちの存在も見逃してはならない。どのメディアも大きく取り上げてはいないが、見過ごすにはあまりにも惜しい"隠れた逸材"たちの存在を紹介したい。

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【荒木雅博の教えを体現する名門校の遊撃手】

 まずは初日の第2試合。試合開始前のシートノックから、そのフィールディングに目を奪われたショートがいた。中京大中京(愛知)の遊撃手・田中大晴(3年)だ。この選抜では、リードオフマンとしても活躍した。

 170センチ、75キロの体格ながら、まるで素足でボールを追っているかのような軽快なフットワークが光る。常に足が先に素早く動き、それに連動する形で上半身が自然に動く。上半身の動きに過剰な「意志」がないのがいい。

 ゴロに対しては、力みのない柔らかな動きで両腕が自然に伸び、グラブは地面すれすれの低い位置まで落ちる。ボールの勢いをうまく吸収し、そのまま無駄なくスローイングへと移行する。

無理に強く投げようとしないため、送球の軌道にもブレがない。併殺プレーでも、「入り」と「出」のスピード感がすばらしい。

「ボールの握り替えの速さにはもともと自信あったんです。捕球の瞬間は、グラブをタテに使うようにしています、打球が跳ねた時も反応できますから。下半身の動きとしては、左足のつま先を上げておいて、捕球しながら下ろすことで自然な体重移動が生じて、送球方向へ踏み込んでいける。グラブが下から出ているのは、捕球時に腕が脱力できているからです。脱力すると、グラブが自然と下がるんで......。すべて、荒木(雅博/元中日)さんから習いました」

 荒木さんは2023年に中日のコーチを退任後、中京大中京で臨時コーチを務めていた。教わった相手が名手だからすごいんじゃない。名手から教わった大切なことを、しっかり身につけて自分の「ワザ」にしていることが尊いのだ。

 きっと、何度も何度も繰り返し、「これでもか!」というほど自分の体に叩き込んできたに違いない。

 とはいえ、漆器にたとえるなら、まだ「塗りたて」の状態に近いのかもしれない。

その光沢にやがて落ち着きが備わって、本物の輝きを放つ日まで、さらなる錬磨に期待したい。

【高校野球】大阪桐蔭Vの裏で見つけた"隠れ逸材"たち 荒木雅博の教えを体現した遊撃手、三拍子揃う捕手、14球で流れを変えた右腕
攻守でチームを牽引した智辯学園・角谷哲人 photo by Ryuki Matsuhashi

【強靭な体躯に抜群の実戦力】

 大会2日目の第2試合で、横浜(神奈川)が神村学園(鹿児島)に敗れたあとも、3万5000人の観客は席を立たなかった。つづく第3試合の花巻東(岩手)と智辯学園(奈良)の一戦も、大会屈指の好カードだったからだ。

 この試合、智辯学園の角谷哲人(3年)は「1番・捕手」としてチームを牽引した。昨夏の奈良大会は4番、昨秋はおもに3番を任されていた。

 二の腕の太さに、まず目を奪われた。さらに、プロテクターを審判服の下に装着した球審のような分厚い胸板。「屈強」という言葉が、ピタリと当てはまるシルエットが印象的だった。

 柔軟な腕のしなりと、指のかかりが効いた時の二塁送球は、伸び、精度ともに一級品だ。一塁へのけん制のスピードにも、光るものがあった。

 ひと冬を越え、さらに筋力が増したのだろう。バネの効いた動きからの二塁送球は、力が入りすぎてシュート回転する場面もあった。パワーが増すと、その力で「仕事」をしようとするのは人の常だ。

二塁ベースにポンと置けるようになれば、本物の「強肩」になれる。

 むしろ、この日は打者としてのすばらしさがひときわ輝いて見えた。3回一死二塁。フルカウントから、花巻東の好左腕・萬谷堅心(まんや・けんしん/3年)が投じた外角低めの直球に対し、バットを投げ出すようなスイングで左中間へ運んだ先制のタイムリー。日頃の練習ではまずやらない打ち方を、咄嗟の判断で繰り出し、結果につなげた"実戦力"が光った。

 また7回の4打席目では、萬谷のスライダーに体勢を崩されながらも、ライト線へ鋭いライナーを運んでみせた。右翼手のわずかなもたつきを見逃さず、三塁打にしてみせた一瞬の野球勘。

 初回の第1打席では、四球で出塁すると二盗を決めるなど、走塁能力も光った。機動力、打撃センス、そして地肩の強さ......。174センチ78キロ、三拍子揃った高校生捕手が登場した。

【高校野球】大阪桐蔭Vの裏で見つけた"隠れ逸材"たち 荒木雅博の教えを体現した遊撃手、三拍子揃う捕手、14球で流れを変えた右腕
花咲徳栄戦で1イニングを投げた東洋大姫路の大野泰聖 photo by Ryuki Matsuhashi

【理論が生んだ14球の完璧なピッチング】

 大会3日目の第3試合で、北照(北海道)を4安打完封に抑えた専修松戸(千葉)のエース右腕・門倉昂大(かどくら・こうた/3年)は、文句なしのピッチングを見せた。

 雪のない場所で繰り返し合宿を行ない、徹底的に練習を積んできた北照であっても、春先のこの時期に、目線から遠い低めのポイントへこれだけスライダーやフォークを決められては、「何もできませんでした......」という結果も無理はないだろう。

 腕の角度をオーバーハンドからスリークオーターへ下げた門倉の状態が、すごくよくなっていることは、大会前から耳にしていた。だから、これくらいのピッチングはするだろうと考えていたのであまり驚かなかったが、「ええっ!」と驚いたのは、第1試合にリリーフで登場した東洋大姫路(兵庫)の背番号10・大野泰聖(3年)だ。

 先発左腕の下山大翔(ひろと/3年)は、花咲徳栄(埼玉)を7回まで1安打無失点に抑えていたが、8回に3点を失って逆転を許し、門倉は9回から2番手として登板した。

 勢いに乗った花咲徳栄打線、しかも4番・佐伯真聡(まさと/3年)からの攻撃は、さすがに荷が重いかと思われた。だが結果は、センターフライ、見逃し三振、そしてレフトフライ──。わずか14球で、あっという間に抑えてみせた。

 じつにいいフォームで投げている。美しさすら感じるしなやかなオーバーハンド。テイクバックが背中側に入らないから、気持ちよく右手が高さをとって、時計の文字盤で12時に近い角度から、タテに右腕が振り下ろされる。

 球速は140キロ前後でも、回転軸がぶれない強烈なバックスピンのストレートに、花咲徳栄の中軸はミートポイントをつくれず、かなり詰まらされていた。

 カーブ、カットボールに加え、「最も自信がある」と胸を張るスプリットを織り交ぜ、投げ損じなしの14球とみた。

 試合後、「いいフォームで投げてたねぇ」と声をかけると、惜敗にしょんぼりしていた表情がパッと明るくなり、花が咲いたような笑顔を見せた。

「二段モーションで投げているので、リリースの瞬間に上半身と下半身のタイミングが合うよう、そこは意識しています。テイクバックをセンター方向に取ることで右手を上げる時間をつくり、リリースを合わせやすくしています。さらに、グラブを捕手方向に突き出せば、テイクバックで(右腕が)背中に入らないんです」

 日頃の「学習」が想像できる、説明力の高さだった。わからなくなった時、そこに戻っていける「理論」がある選手は強い。

「今日は、投球練習の初球が高く抜けてしまったので、力まないように修正して投げました。自信があるのは、気持ちのこもったピッチングとスプリットです。『オレがチームを背負って投げてやる!』という思いは、下山にも負けてないんで」

「それじゃ、1イニングじゃ物足りなかったね」と声をかけると、「そこまでは自分からは言えません」といった表情を浮かべながらも、「うん」と大きく頷いてみせた。

 東洋大姫路の岡田龍生監督に「背番号10、いいフォームで投げてますね」と言うと、「いやいや、まだまだ、まだまだ......」と返ってきた。

 まだまだダメです、の"まだまだ"じゃない。ちょっとうれしそうに、ニヤッとした表情からは、「まだまだ伸びる子ですよ」の"まだまだ"と見てとれた。

つづく>>

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