この記事をまとめると
■日産サクラ&三菱eKクロスEVが日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞



■しかし日本は電動車の普及で大きな遅れをとっている



■中国・韓国系のメーカーの勢いには劣っているようにも見える



日本は電動車の普及において大きな遅れをとっている

日産サクラ及び三菱eKクロスEVが2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー及びK CAR オブ・ザ・イヤーを受賞した。軽自動車がイヤーモデルに選ばれるのは初めてのことになる。確かに軽自動車規格のBEV(バッテリー電気自動車)ということで、日系BEVのラインアップだけでなく、インフラや政府のロードマップなど、あらゆる面で世界からHEVを除く電動車普及で大きな遅れをとっている日本において、風穴を開けるような存在となったのは否定できない。

ただ軽自動車規格というのが先行して、実態以上に手ごろ感が消費者に伝わってしまった点は気になるところである。



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今回受賞した2台の航続距離は180kmとされている。販売現場では「遠乗りは控えてくださいね」などと説明するセールスマンもいる。一方で海外ブランドのBEVでは航続距離を少しでも長くしようと日々努力している。しかし受賞理由のなかには“買い得感が高いのに、実質的な航続距離120km~150kmを実現している“というものもある。10年ほど前のアメリカで現地在住の知人から「BEVってゴルフカートのことでしょ?」と聞かれたことがある。日本でのBEVの認知は、所詮はゴルフカートに毛が生えた程度の認識なのかと、少々斜めに受賞分析をしてしまった。



これに先立ち、中国のBEV大手となる比亜迪(以下BYD)は2022年12月5日に2023年より日本市場導入予定の3台のBEVのうち、ATTO3(アット3)の日本価格と国内販売体制について記者会見を行った。クロスオーバーSUVスタイルを採用するATTO3の全国メーカー小売価格は440万円と発表された。一部報道では政府補助金交付の対象となれば実質的には355万円ほどになるのではないかとしていた。そしてBYDは2025年末までに国内に100店舗以上の販売ネットワークを構築することも発表。



EV時代に日本車の牙城が崩される! 日本そしてアジアでも中国&韓国の勢いが止まらない



事情通は「BYDは東京など大都市より地方部での店舗展開に重きを置いているように見えます。

もちろんガソリンスタンドの減少傾向は東京などより著しいことなどもあるでしょう。戸建てで自己所有の住宅に若い人が多く住んでいることもあるのではないでしょうか(充電施設を設置しやすい)。一部フランス系ブランドなども地方も重視しているとも聞きます。ドイツ車ほどの販売ボリュームが期待できないなか、東京などよりクルマが身近な存在である地方で、しかもクルマに関するオピニオンリーダーから情報発信してもらい、そのオピニオンリーダーに集まる人に買ってもらおうというものです。“口コミでものがよく売れる”とされる中国の企業らしい発想のようにも思えます」と話してくれた。



中国系メーカーが日本車をけん制!?

2022年12月1日から12月12日、タイの首都バンコク郊外においてタイ国際モーターエキスポ 2022が開催された。タイはASEAN諸国のなかでも日本車天国とされている。2021暦年締め年間販売台数でみると、日系ブランドのシェアは85%以上となっている。しかしそのタイで、とくにバンコク首都圏など大都市では異変が起きている。それは中国系ブランドの存在感が急速に高まっているのである。筆者は今回のモーターエキスポ会場には訪れていないのだが、2022年春に開催されたバンコクモーターショーの会場を訪れている。コロナ禍前より上海汽車系のMGブランドがBEVをラインアップしていたのだが、バンコクモーターショーではGWM(長城汽車)がタイ市場にコロナ禍となってから進出し、広いブースを構えていた。

そしてバンコクの街なかにはMGやGWMのBEVを結構な頻度で見かけることができた。



EV時代に日本車の牙城が崩される! 日本そしてアジアでも中国&韓国の勢いが止まらない



そして2022年冬のモーターエキスポでは、さらにBYDがブースを構えていた。BYDは2022年8月にタイ市場への参入を発表し、同年9月にタイに工場建設を発表、2024年より年間15万台の乗用車生産を始めることも発表した。タイではモーターショー会場ベースでは、MG、GWM、BYDそしてNETA(ナタ)ブランドを展開する合衆汽車がタイ市場に、いずれもBEVをラインアップして参入している。そして合衆汽車は正式発表していないが、残り3ブランドはすでにタイでの現地生産を発表している(合衆汽車も現地生産へ向け調整中)。



タイ政府としては、自国内でのZEV(ゼロエミッション車)普及だけでなく、いまのICE(内燃エンジン)車での車両生産拠点としての立ち位置をZEVの生産でも維持すべく積極的に完成車だけなく関連企業の生産拠点誘致を進めている。もちろん、タイ国内で生産されたBEVはタイ国内だけでなく、周辺国や欧州などへも輸出されることになるだろう。日本メーカーがマゴマゴしている間に、日本車最後の楽園といってもいいASEANでも、紹介した中国系メーカーだけでなく、韓国ヒョンデグループも加わり、日本車城の堀は確実に埋められようとしているのである。



EV時代に日本車の牙城が崩される! 日本そしてアジアでも中国&韓国の勢いが止まらない



タイ在住の事情通は「BYDのタイ市場参入で確実に潮目が変わりました。中国や韓国系ブランドは新しい、逆に日本車はすべて従来どおり、すなわち古いという構図が鮮明となってきました」と話してくれた。MGやGWMでは、BEV以外にもHEV(ハイブリッド車)やICE搭載車もタイにて販売しているが、BEVをラインアップしていることもあり、日本車よりも先進性をタイの消費者は感じているようである。日本車もトヨタなどはタイでもHEVを積極的にリリースしている。

しかし中国系メーカーもHEVを積極的にラインアップしており、この動きは筆者からすれば日本車をけん制しているように見えてならない。



ちなみに、ヒョンデはすでにインドネシアで発表している、ASEANでの大ヒットモデル“三菱エクスパンダー”キラーとなる、スターゲイザー(ICE[内燃エンジン]搭載車)をモーターエキスポ開催のタイミングでタイ市場にてデビューさせ、会場で披露している。



EV時代に日本車の牙城が崩される! 日本そしてアジアでも中国&韓国の勢いが止まらない



85%以上ものシェアがあるので、いますぐ中国・韓国系と日系メーカーの立場が逆転することはないだろう。しかし、タイ政府はZEVの普及だけでなく、現地生産にも前のめりになっている。しかし、日系メーカーはいずれも今すぐ対応するのは難しい。



モーターエキスポ会場における各ブランドブースの面積をみると、日系最大はトヨタで1720平方メートルなのに対し、GWMは1806、BYDは1849平方メートルとなっている。個々のブランドの事情もあるので、展示面積がそのまま勢いを表すわけではないが、かつては日系ブランドブースばかりが目立っていた会場とは風景がかなり変わっているのは間違いない。



バンコクモーターショー会場では、中国・韓国系ブースではバンコク首都圏在住の感度の良い人たちや、女性も含めて若い人を多く見かける一方、日系ブランドブースでは年配の夫婦などが目立ち、従来からの日本車ユーザーといった感じの人が多く、ある意味客層の違いというものを感じた。つまり、いますぐは何もないとしても、しばらくあとには、日本車の楽園の崩壊というのも十分ありえそうな状況であり、仮にタイでそのようなことが起こった時、日本市場でもまったく対岸の火事とは思えない事情になっている可能性は否定できない。

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