この記事をまとめると
■タコメーターには「レッドゾーン」というのが存在する■その領域まではエンジンをまわしても壊れないと保証されている領域だ
■オーバーレブなどで許容回転以上をまわすとエンジンが壊れる可能性が高い
レッドゾーンってなんのためにある?
深夜の工場地帯を流していると見通しの良い直線が続く道に出た。すると反対車線を高回転の勇ましい音がすれ違う。気付いてからすれ違うまでにさほど時間がかからなかったので、相当な速度が出ているだろう。
回転数も軽く8000はまわしている。にわかにみぞおちの下方にぞわりとした感触が宿るのを自覚する。すると、不意にすれ違ったはずの音が再び近付いてくる気配があった。心拍数がハッキリと分かるくらいに上がってくる。少しペースを落とし、先の信号で捕まるように調整する。間もなくヤツが来て横に並んだ。黒のS15だ。SR20のメカチューンとは、かなり気合いが入っている。
音から感じる速さはこちらのDC5のK20改と同等か、それ以上か……。歩行者信号の点滅を確認。双方ほぼ同時に回転を上げる。本気スタートの証だ。
シグナルグリーンと同時にS15のリヤが沈む。こちらは前輪の空転を最小に抑えるため、ヤツより少し回転低めでクラッチをミートする。うまくいった……。が、スタートはFRが少し有利か。しかしレスポンスはこちらが上。遅れを挽回すべく、2速~3速はレッドゾーンまで突っ込む。
インテグラタイプRのメーター「!!!」
3速に入れた瞬間にエンジン音がハネ上がり、一瞬タコメーターの針が赤い域に飛び込んだ。シフト抜け……。咄嗟にクラッチを踏み抜く。しかし、1秒に満たない間だが、サージングの感触があった。続行は不不可能だろう。エンジン音が消えたDC5の室内に俺の歯ぎしりだけが響いていた……。
と、物語り調の長い前フリにお付き合いいただきましたが、こうしてエンジンの回転を上げすぎると、稼働しているエンジン内の部品のどこかに負担がかかり、破損を招いてしまいます。最悪の場合はエンジンブローで1発オシャカもあり得ます。
ここでは、クルマのエンジンのレッドゾーンが何のためにあるのか、その域を超えてまわし続けるとどうなるのかを掘り下げてみようと思います。
レッドゾーンとは、エンジンの設計上の上限の回転数
スポーツ系の車種の多くはタコメーター(回転計)を備えています。そのタコメーターをよく見ると、右上のほうに赤い帯が記されているのに気付くと思います。それがレッドゾーンです。
ちなみに昔の車種にはそのレッドの手前にイエローゾーンと呼ばれる黄色い目盛りが記されたものもありました。レッドもイエローも、「そのエンジンはその回転域まではまわして良いですよ」という目安です。逆に言うと「それ以上まわすと壊れない補償はできません」ということです。

国産のスポーツ系車種のエンジンの場合、とくに冒頭に登場いただいたホンダの「K20型」のような高回転まで気持ちよくまわせることがウリのエンジンであれば、多少のオーバーレブ(レッドゾーン以上にまわしてしまうこと)であれば壊れることがないように多めの安全マージンを盛り込んだ設計になっていると思いますが、そのマージンをアテにしてしょっちゅうオーバーレブさせてしまうと、さすがにダメージが蓄積してブローを招くこともあるので注意しましょう。
エンジンは過酷な環境に晒されている
オーバーレブするとなぜ壊れるの?
クルマのエンジンには、クランクシャフト、コンロッド、ピストンというシリンダーブロックに収まる腰下パーツと、カムシャフト、ロッカーアーム、バルブなどのシリンダーヘッドに収まる腰上パーツが組み合わさって忙しなく動いています。
物質には質量があって、動くとその速度に比例して慣性力が発生します。たとえばピストンは、シリンダーのなかを1秒間に数千回往復しています。

エンジン腰下で回転の負荷がもっともかかるのがコンロッドと言われています。ピストンは常に燃焼の温度と圧力に晒されているのでもっとも過酷だというイメージを持っている人も少なくないと思いますが、じつはピストン本体よりも、高回転で増大するピストンの慣性力を保持するコンロッドの大端部が、もっともオーバーレブの負荷がかかる部分であるようです。
ピストンによるすさまじい慣性力で振りまわされ、限界を超えて破断すると、シリンダー内で暴れて周囲を破壊、最悪の場合はシリンダー壁を突き破って露出するケースも実際にあるそうです。

一方、腰上ではバルブがもっともオーバーレブでダメージを負う部分です。ひとつずつのサイズは小さいので重量自体はピストンより少ないのと、吸排気の各バルブは2回転で1往復するため往復頻度はピストンの半分ということで、慣性の負荷の値はピストンより小さいのですが、バルブはカムの力で押し出され、スプリングの張力で戻る仕組みのため、高回転での追従性はそのバルブスプリングに依存します。
回転が上がりバネがバルブを引き戻し切れなくなってバルブの動きが遅れてしまうと、バルブの傘が燃焼室内に飛び出たままとなり、ピストンと衝突してしまうのです。当然、どちらもダメージを受けますし、破損した破片で燃焼室にも被害が及んでしまいます。

すごく簡単に言ってしまうと、スプリングを強くすれば高回転での追従性に対応させることができます。しかし、その強力なスプリングを押し縮める力はエンジン自身で発生させる力なので、発生パワーが少ない低回転では抵抗になってしまいます。スプリングの張力を受け止める部分の強度も必要になるので、パーツの重量も増すでしょう。
ちなみにエンジンは高回転高出力になるほどギリギリのクリアランスで設計されていて、ギリギリのタイミングで動いているので、バルブの少しの遅れでもピストンと当たってしまいます。

逆に言うと、低回転の設計のエンジンの場合は余裕のある設計のため、多少の遅れではピストンとバルブが当たらないようにできていますが、弱めのバルブスプリングが装着されていることで、高回転になるとカム(ロッカーアーム)にバルブが叩かれて浮いてしまう“サージング”という現象が発生します。ピストンと当たってしまう心配はさほど大きくありませんが、バルブが浮いて燃焼室の圧力を逃がしてしまうので、それ以上回転が上げられません。

このように、オーバーレブをさせてしまうと、その程度によってはエンジンの修理費用が膨大になってしまうような深刻なダメージを負う可能性があるので、サーキット走行の際などには十分に注意してドライビングしていただきたいと思います。
また、“オーバーレブ”というのは構造上マニュアルミッション車と一部のスポーツモードAT車でないと起こらないので、標準的なATミッションのクルマでは、いくらアクセルを踏み続けてもオーバーレブの心配はないでしょう。

それに加えていまのECU制御のエンジンであれば、設定以上の回転にならないようにリミッターと呼ばれる回転制限プログラムが組み込んでありますので、まわそうと思ってもまわせないようになっています。
高回転までまわす気持ちよさは他に代え難いものがありますが、やり過ぎるとその被害はかなり大きいので、自制心は常にONにしておきましょう。