この記事をまとめると
■三菱はかつて高級車として「ディグニティ」というモデルを製造していた■トヨタ・センチュリーの対抗馬として登場したがセールスは不振に終わった
■2代目は日産シーマのOEMモデルとして登場した
たった59台しか造られなかった激レア高級車
ミレニアムの2000年2月に、三菱自動車から自社製造のディグニティというリムジン(初代)が発売されていたことをご存じだろうか。三菱自動車の一般ユーザー向けの最上級セダン、プラウディアをストレッチしたモノグレードのリムジン仕様であり、対象は主に法人向けだった。つまり、トヨタのセンチュリーの対抗馬である。
ボディサイズは全長5335×全幅1870×全高1485mm、ホイールベース3080mmの堂々としたもので、ボンネット先端の羽を模したマスコットや、いかにもストレッチしました……と見えるドア部分、センターピラー部分に2本のマーカー(スモールライト連動)が備わっていたのも特徴だった。
パワーユニットは8A80型のプラウディア最上級グレード同様の横置きGDI、4.5リッターV8、280馬力、42.0kg-m+INVECS-II5、5速ATの組み合わせで、駆動方式はFF。タイヤサイズは225/60R16だ。
後席を最優先したリムジンではあるものの、グレー内装の前席も豪華。ウッド&レザーのステアリング、木目パネル、インパネにはMMCSモニター&ナビ、フルオートエアコンの操作パネル、カセットデッキ(懐かしい!!)などが配され、シートはもちろんパワー付きの豪華なレザーシートであった。

後席に目を移せば、まずはリヤスイング式にして、イージークロージャ―付きのドアが高級感を醸し出す。そう、最後にスッと自動的にドアが静かに閉まるスマートさなのである。左右独立の後席は当時の本革高級ソファそのもの。ふんぞり返るに相応しいかけ心地、豪華さがあった。
コンソール内には独立温度調整(左右別!!)機能、オーディオスイッチを備え、4ゾーンのエアコン吹き出し口(ルーフとセンターコンソール後端)、モニター、ドリンクホルダーなどを完備。センターコンソールの蓋の内側にはナビやTV操作用のリモコンも用意されていた。
その走行性能はさすが、当時の三菱自動車の技術の粋を集めただけあって、静かでスムース。
センチュリー相手に苦戦
しかし、そんなディグニティは、宮内庁の公用車としても採用された実績があるものの、2000年2月の発売から約1年後の2001年3月末に、プラウディアとともに販売終了。ディグニティの販売台数はたった59台とされているのである。
短命となった理由はいくつかあり、そもそも台数をかせぐ車種ではないことと、当時のVIPセダンは5リッターV12エンジンを搭載するトヨタ・センチュリー(2代目/ウールファブリックシートが標準)の一強で、ディグニティの4.5リッターV8エンジンでは見劣りしていたことに加え、実際にそう使われていた三菱グループの社用車、重役専用車というイメージが強く、三菱グループ以外の法人にはそっぽを向かれていたからだろう。

さらに高級車にして駆動方式がFF=前輪駆動であったことも(トヨタ・センチュリーなど世界のVIPカーは後輪駆動)、ちょっとクルマに詳しいVIPに敬遠された理由ではないだろうか。そして販売開始から半年後に三菱自動車のリコール問題が表ざたになったことも、ディグニティとプラウディアの寿命を縮めた原因のひとつと言えそうだ。
ちなみに、ディグニティには2012年に登場した2代目(~2016年)が存在するが、こちらは日産シーマのOEMであり、当時、「最上級車種がOEMでいいのかっ!!」という議論を巻き起こしていた。

現在、初代ディグニティを中古車で探すことは極めて困難だが、ひとついえることは、2代目より初代のほうが、中古車価格が倍近く高く取引されているということ。つまり初代は、ネオクラシックな、国産車では数少ない自動車メーカーお手製のリムジンとして、希少価値がより高いということだ。