この記事をまとめると
■かつて「アスカリ」というスポーツカーメーカーが存在した■BMWのエンジンを搭載した軽量ミッドシップスポーツカーを販売
■残念ながら2010年を最後にすべてのモデルの製造を終えている
サーキットに名を残す幻のメーカー「アスカリ」
冬でも比較的温暖な気候にある南スペインは、自動車メーカーが新型車の試乗会をよく開催する場と知られている。そのプログラムのなかで使用される機会が多いのが、ロンダの近郊にあるプライベートサーキットのアスカリ・レースリゾート。全長で5.425kmのコースに26のターンをもつテクニカルなこのサーキットは、新型車のテストにはまさに絶好の舞台。
今回はそのネーミングの冒頭に掲げられるアスカリについて紹介することにしよう。じつはこのアスカリ。かつてはスーパースポーツカーを生産する小規模ではあるが、確かな自動車メーカーであったのだ。その初作となったのは1995年のブリティッシュ・モーターショーで発表されたミッドシップスポーツのコンセプトカー、「FGT」。

このマシンに大きな興味を示したオランダ人のレーシングドライバー、クラウス・ズワートがその製造権とともに会社全体を買い取り、FGTをベースとするレーシングモデルを製作。デビューシーズンとなった1995年にはシルバーストーンで開催されたレースで優勝を飾るなど、FGTの実力を広く世界に知らしめたのである。
そして、そのFGTによる活躍は1996年、1997年も続き、最終的にズワートはFGTのロードバージョンを製作することを決断。それには「エコッセ」のネーミングが与えられた。

エコッセは1999年のアールズコート・モーターショーでアスカリから発表された。FGTとの最大の違いはその搭載エンジンで、FGTがシボレー製V型8気筒ユニットを搭載していたのに対して、エコッセにはBMWから供給された4.4リッターのV型8気筒をベースに、BMWチューナーのハルトゲがチューニングした4.4リッター仕様と、後に5リッター仕様が搭載された。
ちなみに、最高出力は420馬力、最大トルクは520Nmとされた5リッター仕様のエコッセは、最終型の3台しか存在せず、最後の一台にはシーケンシャルミッションも組み合わされ、現在でもアスカリに保管されている。

ファイバーグラスをボディ素材に使用するなど、軽量化にも徹底した取り組みを見せたエコッセの車重はわずかに1250kg。0-97km/h加速の4.1秒や、322km/hに達した最高速は、そのエンジニアリングの優秀さを証明する。総生産台数はすべての仕様をトータルしても19台。じつに貴重なモデルである。
参考までのエコッセのデザイナーでありエンジニアの役を果たしたのは、自らの名を掲げた自動車メーカーももつあのリー・ノーブル。FGTにはノーブルのもつ多くのノウハウが確実に受け継がれていたのだ。

最後のスーパースポーツカー「KZ1」
そして2003年になると、アスカリからは「KZ1」と呼ばれるニューモデルが誕生する。KZ1というネーミングは、FGTとともにアスカリ社を手中に収めていたクラウス・ズワートのイニシャルと、彼自身の企画による第1号車を意味するもの。
その生産は2005年にスタートし、そのためにイングランドのバンバリーには4000平方メートルを超える新工場も完成。ここでほとんどハンドビルドによってKZ1はアッセンブリーされていったのだ。
当初から50台の限定車として企画されていたKZ1は、たしかに魅力的なスーパースポーツカーだった。ミッドには最高出力で507馬力、最大トルクでは500Nmを誇るBMW製S62型4.9リッターV型8気筒エンジンがドライサンプ化して搭載され、これにはCIMA製の6速MTが組み合わされた。

アスカリ伝統の軽量性も受け継がれ、結果0-97km/h加速は3.7秒、0-161km/h加速も8秒という非常に魅力的なパフォーマンスが実現された。注目の最高速は323km/hとエコッセのそれとさほど変わらないが、それでもオーバー300km/hの世界を確実に手にすることができるマシンとしてKZ1は当時大きな話題となった。

KZ1にはレーシングバージョンも存在する。「KZ1-R」と呼ばれるモデルがそれで、FIAのGT3ヨーロピアンチャンピオンシップや、アメリカのユナイテッド・スポーツカー・チャンピオンシップなどにGT3車両としてエントリーした記録が残る。
大型の固定式リヤウイングやコンパクトなフロントスポイラー、それに前後のオーバーフェンダーなどで外観を武装し、さらにBMW製のS62型エンジンも520馬力にまでチューニングしたKZ1-R。これもまたアスカリの歴史を語るには必要にして不可欠なマシンの一台といえるだろう。

残念ながらアスカリは、2010年以降、自動車の生産を行っていないが、その活動が復活すればイギリスを代表するスポーツカーブランドとして、再び脚光を浴びる存在となることは間違いない。