この記事をまとめると
■アメリカでは2022年5月に「グリーン・スクールバス・プロジェクト」を公表した■アメリカの連邦政府が進める環境対策の一環としてスクールバスのEV化に着手した
■オバマ政権下での失敗やトランプ大統領の判断がこの政策の今後を左右していく
約50万台のスクールバスをEV化する一大プロジェクト
アメリカはやることが大胆だ。バイデン政権は2022年5月、「グリーン・スクールバス・プロジェクト」と称した助成金について公表している。2022~2026年までの5年間に、総額50億ドル(1ドル154円換算で7700億円)という巨額の支援である。
日本貿易振興機構(ジェトロ)によれば、アメリカでは公立学校に通う2500万人以上の生徒が約50万台のスクールバスに乗っているという。
アメリカは郊外型の住宅が多く、また場所によっては治安が悪いこともあり、スクールバスを活用する場合が少なくない。そうしたスクールバスのうち、約95%がディーゼルエンジンを搭載しているというのだ。
そのため、アメリカの連邦政府が進める環境対策の一環として、この領域の次世代車化に着手したというわけだ。建付けとしては、インフラ投資雇用法に基づく措置となる。

助成の対象には、BEV(バッテリー電気自動車)のほか、CNG(圧縮天然ガス)車やプロパン車などが挙がる。アメリカの場合、こうした連邦政府が行う施策とは別に州・群・市などが独自の政策を講じている場合もある。
たとえば、ニューヨーク州では2035年までに州内の約5万台あるスクールバスの電動化について予算が成立している。これと、政府の助成金を組み合わせる形になるのだろう。

政権交代によって政策がどうなるのかが焦点
こうした「グリーン・スクールバス・プロジェクト」の概要を見ていて、大きくふたつの視点で将来に向けた不透明さを感じる。
ひとつは、オバマ政権で実施されたグリーン・ニューディール政策における苦い体験だ。当時、DOE(連邦エネルギー省)が数兆円単位の予算を組んで、次世代バッテリー、太陽光パネル、そして次世代EVトラックなど向けに助成金をばらまいた。

そうした現場を全米各地で取材したが、いくつかの企業は事業基盤が脆弱であるにもかかわらず数十億円から数百億円規模の助成を受け取っていた。あるEVトラックのスタートアップ経営者は当時、「助成金の申請手続きは簡素で、すぐに助成金が振り込まれた」と満面の笑顔だったことを思い出す。それから数年後、その企業は跡形もなく消えてしまった……。
今回のスクールバスに対する助成も、学校だけではなく、車両メーカーや車両販売店を介しても申請可能なようだ。オバマ政権の二の舞になってほしくない。

もうひとつは、当然のことだが、トランプ政権に移行したあとの同法案に対する扱いだ。途中で打ち切りになるのか、それとも2022年以降の実績を精査した上で助成金を減額するのかなど、さまざまなケースが考えられるのではないだろうか。
いずれにしても、環境対応として既販車をBEVに置き換えるという発想において、公用車やスクールバスのような公的な役割のあるクルマから手を付けるのは、至極無難な考え方ではある。