この記事をまとめると
■カーボンファイバー製パーツが高価なのは製造工程の複雑さが原因だ



■産業用途における需要拡大もカーボンファイバー製パーツの価格に影響を与えている



■一部ではブランドイメージのために意図的にカーボンファイバーの高価格が維持されている



「軽い・強い・でも高価!」がカーボンファイバー製パーツ

カーボンファイバーを用いた自動車パーツが一般に普及し始めてから、すでに30年以上が経過している。通常、製品は時間の経過とともに生産技術の向上や量産効果によって価格が下がっていくものだが、カーボンファイバーのパーツは依然として高価格帯に位置し続けている。それはなぜなのだろうか? その理由を製造工程や市場特性から紐解いてみよう。



<職人技が必要な製造工程>

カーボンファイバー強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)のパーツ製造において、もっとも大きな課題となっているのが製造工程の複雑さである。「プリカーサー」と呼ばれる原料の準備から、酸化・炭化工程、表面処理、「プリプレグ」化と呼ばれるカーボン繊維を樹脂で固める作業などは自動化されているものの、成形工程の繊維積層作業では、方向や重なり具合によって強度が大きく変わるため、機械による完全自動化が難しく、現在でも熟練工の手作業に大きく依存している。



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また、オートクレーブと呼ばれる大型の加圧炉での硬化工程も必要不可欠だ。この設備自体が高額なうえ、一度に処理できる量も限られている。さらに、成形後の仕上げ工程でも、表面の光沢を出すための磨き作業など、手作業による丁寧な仕上げが求められる。



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カーボンを成形するオートクレーブ



カーボンファイバー製パーツはクルマ好きにとって特別なもの

<原材料費の高止まり>

カーボンファイバーの原料のひとつであるポリアクリロニトリル(PAN)の製造コストも、価格高止まりの要因となっている。PANの製造には高度な技術と特殊な設備が必要で、世界的に見ても製造できるメーカーが限られている。さらに、近年の環境規制の強化により、製造過程での環境負荷低減のための設備投資も必要となり、製造コストの上昇圧力となっている。



加えて、航空宇宙産業や風力発電などの産業用途での需要拡大も原材料の価格高止まりに影響を与えている。これらの産業では、軽量化や強度の観点から、高品質なカーボン繊維への需要が高く、結果として自動車用途向けの原材料価格にも影響を及ぼしている。



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ランボルギーニのカーボンパーツを製造する工場のライン



<市場特性による価格維持>

興味深いことに、カーボンパーツの高価格は、一部では意図的に維持されている側面もある。カーボンパーツは、高級車やスポーツカーのカスタマイズにおいてステータスシンボルとしての価値をもっている。一部製造コスト低減の余地があっても、ブランドイメージや希少価値を維持するために、あえて価格を下げない戦略を取るメーカーも存在しているようだ。



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ランボルギーニの工場内の様子



また、カーボンパーツの市場は比較的小規模で、大量生産による価格低減効果が働きにくい構造となっている。

各車種ごとに形状が異なるため、金型や製品デザインの開発コストを広く分散させることが難しく、結果として一個あたりの製造コストが高止まりする要因となっている。



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カーボン製リヤウイング



現在、自動車メーカーは量産車への採用拡大を目指し、製造工程の自動化や新しい成形技術の開発を進めている。しかし、品質や強度を維持しながらコストを下げることは容易ではなく、カーボンパーツの価格が劇的に下がる可能性は、当面は低いだろう。



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成形されたカーボンパーツ



逆にいえば、カーボンパーツのもつプレミアム性や希少価値は、今後も維持される可能性が高い。愛車のカスタマイズやチューニングを楽しむユーザーにとって、カーボンパーツは引き続き特別な価値を持つアイテムであり、価格相当の価値をもち続けるのではないだろうか。

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