この記事をまとめると
■デ・トマソ・パンテーラを世紀末的にカスタムした「ピエンテーラ」■マッドマックス的スタイルのポイントは大径ホイールとオフロード用タイヤ
■スペアタイヤを背負ったスタイリングやパイプのオーバーフェンダーなど見どころ満載
極モノ「ピエンテーラ」誕生までのインサイドストリー
愛知県名古屋市を拠点にカスタム車両の製作をおこなっている「アートレーシング」には、代表の村手さんの手腕を頼って全国から多くの製作依頼がひっきりなしに舞い込みますが、そんな多くの依頼のなかでもひときわ個性を放つカスタム車両がありました。
その車両はただでさえインパクトのある「デ・トマソ・パンテーラ」をベースに、2次元のイラストやデザインを手がけるクリエイターであるオーナーの、奇天烈ともいえるリクエストを村手さんが叶え、仕上げられたものでした。
ここでは、そのクリエイター同士のアイディアの共演で生まれた、一度目にしたら忘れ難い印象を受ける強烈なインパクトをもった個性的すぎるカスタム車両を紹介していきましょう。
■この車両が製作された経緯
まるで映画「マッド・マックス」から飛び出してきたような終末的でスパルタンな雰囲気を持つこの「パンテーラ」は、オーナーの加藤さんの命名で「ピエンテーラ」と呼ばれているそうです。
加藤さんは2次元のイラストやグラフィックデザインなどを手がけるクリエイターユニット「雷雷公社」の主催を務める人で、大好きな「デ・トマソ・パンテーラ」を自分の好みのスタイルに変身させたいという願望を叶えたいと思っていたところ、愛知のカスタムショップ「アートレーシング」代表の村手さんの評判を聞きつけ、直接依頼にやって来たとのこと。その際、自分の思い描く理想の姿をしたためたイメージスケッチを持参してその想いを伝えたんだとか。
そのスケッチをもとにして実際のカスタムの手法なども踏まえつつ、村手さんのアイディアを加えて製作の摺り合わせをおこない、カスタムワークに取りかかったそうです。

■デ・トマソ・パンテーラというクルマ
カンタンに「デ・トマソ・パンテーラ」というクルマについて紹介しておきましょう。
パンテーラは、イタリアの「デ・トマソ」社が製造・販売したスポーツカーで、いわゆる“スーパーカー”のカテゴリーに含まれる一台です。

「デ・トマソ」社が誕生する背景にはアメリカの「フォード」社が大きく関係していて、レースカーとして製作された「GT40」のスポーツカー版を作りたいと考えた「フォード」が、関係のあったイタリアのレースカーメーカーの「デ・トマソ」社にその企画をもちかけ、共同でスポーツカーを製作する計画が生まれました。
企画の第一弾は「マングスタ」という車種で、第二弾として企画されたのがこの「パンテーラ」です。アメリカ市場での販売を考えた「手ごろな価格のスーパーカー」というコンセプトのもと、エンジンはフォード製のV8ユニットが搭載され、シャシーや足まわりにもフォードによる低コスト化の工夫が盛り込まれています。

そのフォード主導の独特なパッケージにより、当時の他のイタリア製スーパーカーとはキャラクターを異にしていたため、正統なスーパーカーのファンには一線を引かれていましたが、逆に独自のファンを獲得し、いまでも根強い支持者に愛され続けています。
オーナーによるアイディアが満載された世紀末カスタム
■独特な世界観でまとめられたカスタムのポイント
まず、このマッドマックス的なスタイルを作り出す最大のポイントは、大径ホイールとオフロード用タイヤの組み合わせを採用したことでしょう。
ホイールは「Fuel Off Road」社の「D101 ZEPHYR BEADLOCK」でサイズは17インチ。組み合わせるタイヤは「MICKEY THOMPSON」社の「 BAJA LEGEND EXP」でサイズは265/65-17。このバカでかいセットを4輪に装着したうえで、リヤのエンジンルームの上部空間にスペアを2セット搭載するという大胆な構成です。

取材時点では後述のマフラーを製作していたためにスペアの2本は未搭載でしたが、38.1φの鋼管で製作された専用のラックとともに装備されるとのこと。

その大径タイヤの装着に合わせてサスペンションもカスタム。特注のダンパー&コイルスプリングを装着して純正のサスアームの限界まで車高を上げています。
そして、そのスパルタンな雰囲気のタイヤに合わせて、かつて見たことがない、パイプを活用したオーバーフェンダーが装着され、同じパイプを使ったバンパーと共に存在感を際立たせています。これは村手さんの発案だそうで、装着に用いる厚板をカットして大量のカラー付きのボルトで構成されるステー部分も見どころです。
リヤホイールにはワンオフ製作によるターボファン風のカバーが装着されていて、全体の雰囲気にメカニカルな印象を加えています。

搭載されているV8エンジンはノーマルですが、マフラーは「アートレーシング」の金属加工専門の職人によるワンオフ品が装着されています。

これは音量の切り替えがおこなえるバルブを備えたもので、76.3φのステンレスパイプを細かくカットしてから、弧を描くようにそのピースをひとつひとつ繋ぎ合わせていく、通称“エビ管”という、とても手の込んだ方法で製作されたものです。

熟練の職人の仕事によって、近くで見てもしっかり鑑賞に堪えられる見事な仕上がりとなっています。

外観ではもうひとつ、ルーフに装着された大径のライトのようなユニットが目を引きます。これはオーナーの加藤さんのアイディアで、愛称にある「ぴえん(悲しい様を表現する擬態語)」の絵文字があしらわれています。
ちなみにこの黄色いカバーは調理用の鍋のフタだそうで、たまたまちょうどいいサイズが見つかったので採用したとのことです。

内装はほぼノーマル状態ですが、覗き込んでまず目に飛び込んでくるヒョウ柄のシートがまた、全体の雰囲気に強めのスパイスを添えてくれます。これもオーナーの狙いだとか。

また細かいところでは、給油口の“アストンキャップ”がクオーターウインドウの後部に左右共に装着されていますが、右側はダミーで、キャップを開けると愛猫の写真が現れるというオーナーの遊び心が現れます。

この車輌は「雷雷公社」が主催した個展の賑やかしとして展示されたりと、PR用車両としても活躍しているようですので、またほかのイベントなどでお目見えできるかもしれません。
●取材協力:アートレーシング