この記事をまとめると
■イギリスのパンサー社が量販ミッドシップスポーツカーとして「ソロ」を開発■トヨタMR2の発売によりパンサー・ソロはソロ2として設計変更されることになった
■ソロ2は直4ターボをミッドシップに搭載した4WDの2+2スポーツカーとなるも鳴かず飛ばず
量販ミッドシップカーとしてMR2よりも早くに開発開始
イギリスのパンサーといえば、アストンマーティンやロータスと並び称されるスポーツカーの名門。日本では1930年代テイストのJ72やリマなんてマシンが有名ですが、じつはMR2よりも前に手ごろな市販ミッドシップスポーツカーを開発するなど、モダンな一面ももっていたのです。
しかしながら、ブランドが買収されるなどの逆風にさらされた結果、このプロジェクトは難産したうえに、生産台数も20台余りと失敗のレッテルを貼られてしまいました。
1972年、成功したファッションデザイナーのロバート・ジャンケルが興したパンサーでしたが、早くも1980年には韓国の実業家、キム・ヨンチョルによって買収されました。もっとも、ヨンチョル氏はそれまでのラインアップを変えようとはせず、新たにモダンスポーツの開発を命じたのです。ちなみに、この決定によって同社のヒット作、J72やリマ、デ・ビルなどは継続生産され、屋台骨を支えたとされています。
モダンスポーツの開発は1980年にスタートし、1984年のロンドン、バーミンガムショーで「パンサー・ソロ」プロトタイプが発表されています。フォード製1.6リッター4気筒エンジンを搭載し、FRP製2シーターボディを架装、ところどころフォードのパーツが流用されてはいたものの、観衆からは大歓迎されたとのこと。

ですが、1984年といえば、トヨタが初代MR2を発売したタイミングであり、同じようなコンセプトで、しかも庶民的な価格を実現したことご承知のとおり。イギリスの大衆は自国のパンサーに対し「敢闘賞」としての拍手は送ったものの、本命はトヨタと目していたこと間違いないでしょう。
そこで、パンサーはめげることなくソロからソロ2へと思い切った設計変更に踏み切りました。まずはエンジンをより強力にしようと、有名なエンジンビルダー「コスワース」の2リッター4気筒ターボをチョイスすることに。なにを隠そう、フォード・シエラRSコスワースに搭載された204馬力ユニットそのものです。

パワーアップに伴って、ソロ2のシャシーは鋼管フレームからアルミのセミモノコックへと変更され、強度が大幅に向上。
商業的には大失敗の幻のスーパーカー
さらに、パンサーは商品力を上げる目的だったのか、ホイールベースを101mm延長して4人乗り、いわゆる2+2化まで行うという大改造。たしかにMR-2と路線は異なるものの、これらの改造はロータス・エスプリという強力なライバルと真っ向勝負を余儀なくするわけで、この時点で失敗フラグが立ちまくりな気もします(笑)。

実際、ソロ2の0-60mph加速は7秒、最高速228km/hと公表されていますが、エスプリ・ターボは5.5秒、241km/hで、4WDシステムの重量差がなければ……と、悔やむ声もチラホラ。
とはいえ、回転式ヘッドライトをはじめ空力を意識したスタイリングは市場でも高評価を受け、また当時の自動車雑誌によれば「ほぼ完璧な重量配分、シンプルでありながら見事にセットアップされたサスペンションシステムのおかげで、もっともハンドリングのいいスポーツカー」などと褒めちぎられたことも確か。このまま順調に市販されていれば、エスプリと等しく歴史に残ったことは間違いなかったはず。

ですが、パンサー・ソロ2の受難はMR2の登場だけではありませんでした。開発途中の1987年、ヨンチョルは資金難から会社の80%を東亜汽車に売却することになり、新しい所有者はソロ2の組み立てを古いブルックランズの施設から約65マイル(105km)離れた場所にあるはるかに小さな工場に移転してしまったのです。これで従業員の大半が辞めてしまい、ソロ2の生産は遅れに遅れたとされています。
フランクフルトショーで1987年に発表されてから、顧客のもとに届いたのはなんと3年後の1990年になっていました。さらに悪いことに、発表時の価格よりも3割ほど値上がりしており、またソロ2のパッケージも古臭くなってしまったのでした。当然、その後の注文も鳴かず飛ばずというわけで、翌年1991年には生産中止という憂き目に。

それでも、近年ではパンサーのブランド力なのか、幻のスポーツカーとして注目を浴び、希少価値を求めるマニアも現れている模様。パンサーというバッジだけでなく、手ごろなミッドシップスポーツというコンセプトまではよかったのに、ソロとソロ2はまさに不運としかいいようがありません。
デキの悪いMR2みたいなスタイルだって、いまとなってはエモいとさえ呼べるもの。もっと活躍してほしかったクルマの筆頭格といったらいい過ぎでしょうか。