この記事をまとめると
■ジムニーの5ドア版「ジムニーノマド」が正式発表となった■テストドライバーの柳本樹良さんと企画やデザインに関わった縫村利喜さんにインタビュー
■ジムニーノマド開発の苦労話やこだわりポイントを直撃した
5ドアは当初出す予定がなかった!?
ついに日本仕様が正式にデビューし、2025年4月3日の発売が決定した、スズキの小型本格オフローダー「ジムニーシエラ」の5ドア仕様「ジムニーノマド」。
現在は商品企画本部四輪B・C商品統括部のアシスタントCEで、現行4代目ジムニーシリーズや現行5代目(スズキ公式呼称では4代目)スイフトなどのテストドライバーを担当した柳本樹良(やなぎもと きよし)さんと、現行4代目ジムニーシリーズの企画立案よりデザイナーとして開発に携わった縫村利喜(ぬいむら としのぶ)さんに、「ジムニーノマド」誕生の経緯やこだわりのポイントなどを聞いた。
──3代目までのジムニーには5ドアがなく、今回4代目のジムニーで5ドアを作ろうということになった、きっかけや理由は何かあるのでしょうか?
縫村:ジムニーは1970年デビューの初代から3ドア……正確には当時は2ドアでスタートしていますが、以来5ドアを投入する話はありませんでした。
ジムニーは我々の商品群におけるコアのブランドですから、そのお客様の裾野を広げるためにも、今回5ドアを企画しました。
──現行4代目ジムニーの3ドアを企画した段階では、5ドアは考えていなかったんですか? デビュー当初から「5ドアがある」と噂されていましたが……。
縫村:考えていませんでしたね。3ドアデビュー直後の試乗会などで「5ドアを出さないんですか」とよく聞かれたんですが、その当時「出しません」といい切っていました(笑)。
──心変わりしたのはここ2~3年ですか?
縫村:そうですね。皆さんからご意見いただいたのと、ジムニーシリーズの裾野を広げられるという点が大きかったですね。

──ジムニー5ドアはインドから投入されましたが、海外では3ドアと5ドア、どちらのほうが人気なんですか?
縫村:意外とフラットな印象ですね。3ドアは遊びグルマ、セカンドカーとして購入する方が多く、意外と継続して人気があります。
──5ドアが発売されてからは半々になっているのでしょうか?
縫村:数値はなんともいえませんが、雰囲気はそんなニュアンスですね。
──そんななかでも、ジムニーシリーズのコアバリューは悪路走破性にあるので、全長やホイールベースの延長は最小限に留める……という方針で開発されたのでしょうか?
縫村:せめぎ合いはありますね。今回リヤドアを追加することで乗降性をよくする、そのためにはたくさん伸ばせば、すごくラクに実現できるんですが、そうするとランプブレークオーバーアングルをどんどん減らすことになります。

──3ドアと並べて見ると、フロントを含めてドアが全然違うことがわかるんですが、5ドアだけを見るとまったく違和感がないですね。
縫村:3ドアは助手席をオーバースライドさせてから後席に乗り込むので、フロントドアをそれなりに大きなサイズにしているんですが、5ドアは前後ドアからそれぞれが乗り込むので、フロントドアを100mmほど短くしています。
──足まわりがクルマのサイズに対して小さく見えるような気がします。中古パーツショップに行くと、新車装着のタイヤ&ホイールが売られているのをよく見るので……。
柳本:タイヤを太く大きくすると性能がスポイルされてしまいます。重量も重くなり、径が大きくなることで発進加速も重く感じられるので、そのバランスを取っていくと、細くなっていきますね。機能性を追求していますので、プロの方や生活に必要としてくれる方をしっかり見て作り込んだからこそ、この形ができています。

ですからこのノーマルの状態でも、さなげアドベンチャーフィールド(愛知県豊田市)の岩場も走れます。
やはり3ドアには3ドアの、5ドアには5ドアの、ホイールベースが伸びたことによる利点もあるので、性格の違いも見てほしいですね。
私は普段ジムニーシエラに乗っているんですが、リヤタイヤが自分のすぐ後ろにあるので、低速で楽しむスポーツカーのようなキビキビ感がありますね。
5ドアならではのこだわりポイントとは
──走りに関しては、5ドアのほうが乗り心地の面では有利なのでしょうか?
柳本:そうですね。クルマが軽くなると、ダンパーの減衰力調整がものすごく難しくなります。3ドアと比べると5ドアのほうが重くなっているので、車重がちゃんとダンパーにかかるぶん、5ドアのほうがセッティングはラクです。車重が軽くなると、ダンパーを縮めるのに押さえつける力が足りなくなるんですね。ですから重いクルマのほうがセッティングの自由度は高いです。裏を返せばスイフトは苦労しました(笑)。
今回のジムニーノマドに関しては、後席にも人が乗るので、後席の乗り心地もちゃんと出すセッティングにしています。

──撮影会場内で後席にも少しだけ乗りましたが、体感する突き上げは少なかったので、3ドアよりも乗り心地がいいように感じました。
柳本:物理的にそうですね。逆にホイールベースが短いほどピッチングが出やすくなります。長いほど入力をいなしてくれるので、人によって好き好きがありますね。

──エンジンなどの基本的なメカニズムはシエラと同じということですが、今回の5ドア化にあたって、セッティングなどを変更したカ所はありますか?
柳本:車重が重くなったぶん、制動力も変わってきますので、フロントのディスクブレーキをソリッドからベンチレーテッドにしています。また、車重があるぶん、4速AT内部のパーキングロックを補強しました。さらに、フレームもBピラー下付近を延長しています。操縦安定性をよくするために、スタビライザーの径も大きくしています。

──4速ATも5速MTもギヤ比は変更していないんですか?
柳本:どちらも変えていません。スプリングやダンパーは、車重が重くなったぶんだけ調整しています。ダンパーは上げてダメだったので縮み側を緩めたり、伸び側は緩かったので減衰力を強くして、路面にタイヤを押しつける力を強くしたりしていますね。スプリングは若干レートを上げています。
──ホイールベースが伸びたぶん、高速域での安定性では有利ですよね。
柳本:そうですね。ただラダーフレームがよじれるとロールしやすくなるので、それを極力解消するために、3ドアの時点でクロスメンバーを入れて、しっかりボディを動かして、足まわりが仕事をするようにセッティングしています。
──ADASは3ドアより進化しているように見えました。「デュアルカメラブレーキサポート」でしょうか?
柳本:そうですね。

──システムとしては現行のスイフトやスペーシアと同じものでしょうか?
柳本:電動パーキングブレーキのような、ジムニーはそぐわないようなものは入れていません。MT車は、ACCではなく車間維持制御のないクルーズコントロールになっています。AT車のACCも作動範囲が40~100km/hになっています。
──現行モデルの3ドアも発表直後から長納期化していますが、ノマドも大きな反響を得て、しかもインド生産のものを輸入するので、さらに長納期化する懸念がありますが。
縫村:フタを開けてみないとわかりませんが、フレーム車は工場をフル稼働させてもモノコックボディのクルマよりも増産がしにくいのですが、今回のノマドはモノグレードで、ある程度見込みで在庫を確保したりもするので、あまり混乱しないよう対策しています。
また、インドで生産するのは、中南米とアフリカのちょうど真ん中に位置するので、先進国に工場があるよりはいろんな場所に輸出しやすいという利点もあり、そのような生産体制にしています。

──発売後人気を得つつもほしい人が購入しやすい状況が整っていることを期待しています。ありがとうございました!