環境性能を向上させるため排気量アップしてきた

軽自動車のエンジン排気量は、1990年1月から660ccと定められている。それまでは、1976年から550ccだった。さらに遡れば、1955年から2ストロークと4ストロークの区別なく360ccで、それ以前は2ストロークが240ccだった。



軽自動車が本格的に市販されるようになったのは1950年代半ば以降で、60年代の日産サニーやカローラといった小型大衆車の生まれる10年前のことだ。国産車にとって黎明期といえる時代であり、各社は技術を競いながら2ストロークを中心にエンジン性能を競いながら軽自動車を生み出した。そのなかで、4ストロークにこだわったのはホンダだったが、N360が誕生するのは67年である(63年にT360という軽トラックを発売している)。当時の軽自動車は、車両重量が400~500kgと軽かったので、360ccエンジンで元気に走った。



600ccや700ccじゃダメ? なぜ軽自動車の排気量は「6...の画像はこちら >>



76年に550ccへ排気量が増大されたのは、排出ガス規制対応の為だった。73年にホンダ・シビックがCVCC(複合渦流調整燃焼方式)により世界ではじめて排出ガス規制を達成したが、排気量が1500ccであっても、600kg台のシビックがようやく走行できる程度のエンジン性能であったから、軽自動車といえども360ccのままでは到底まともな走りは期待できなかった。



600ccや700ccじゃダメ? なぜ軽自動車の排気量は「660cc」と中途半端な数字なのか



そのときにあわせて、車体寸法も全長で20cm、全幅で10cm拡大された。それから14年を経て、90年にエンジン排気量が現在と同じ660ccとなる。理由は、前面衝突安全性能の向上のためだ。車体全長がさらに10cm延長されて、3.3mとなる。さらに、エンジン排気量の変更はないものの、98年に全長がもう10cm伸ばされ、このときは全幅が8mm拡大されて、今日の全長3.4m、全幅1.48mの規格となる。



98年のさらなる車体寸法拡大は、コンパティビリティといって、軽自動車より大きなクルマと衝突した際にも客室を保護する性能が求められるようになったからだ。

また、側面衝突に対する安全性も問われる時代となり、車幅が拡幅された。



600ccや700ccじゃダメ? なぜ軽自動車の排気量は「660cc」と中途半端な数字なのか



車体の重量増しに合わせた結果が660ccだった

車体寸法が拡大されるにつれ、当然のように車両重量が重くなり、エンジン排気量の拡大によって出力の確保が行われてきた。それでも、最高出力が64馬力であることに変わりはないが、排気量の増大は低速トルクの向上につながり、日常的な使い勝手が改善される。



600ccや700ccじゃダメ? なぜ軽自動車の排気量は「660cc」と中途半端な数字なのか



スズキ・アルトを例に見てみると、550cc時代の車両重量は550~600kgあたりだ。660cc時代になると、車体寸法の拡大があったことで600~700kgくらいに重くなる。重量増の比率は、16%増しくらいといえる。この比率をそのままエンジン排気量に当てはめると、550ccの1.16倍は640ccとなる。さらに、コンパティビリティと、側面衝突に対する車幅の拡幅も加わると700kg以上に車両重量が増え、800kg台の車種もあるので、660ccという排気量は、ゆとりを持たせたちょうどよい排気量といえそうだ。



600ccや700ccじゃダメ? なぜ軽自動車の排気量は「660cc」と中途半端な数字なのか



しかし現行のアルトの車両重量は、610~700kgと軽量化されている。衝突安全を満たしながら、プラットフォームや車体の設計を見直し、加えて超高張力鋼板という軽くて強靭な材料を利用することにより軽く仕上げられるようになったため、いまの軽自動車は自然吸気エンジンでも加速がよく、元気な走りを味わえる。



600ccや700ccじゃダメ? なぜ軽自動車の排気量は「660cc」と中途半端な数字なのか



今後は、軽自動車にもハイブリッド化や、電気自動車(EV)が広がっていく可能性がある。すでに三菱自のi-MiEVが2009年に発売されたように、モーターだけで走るようになると、排気量という枠組みができなくなる。

そして現行のエンジン相当の性能といわれるモーターを使っても、出足の勢いはモーターのほうが優れる。エンジンに比べ、モーターは低速トルクが大きいからだ。



600ccや700ccじゃダメ? なぜ軽自動車の排気量は「660cc」と中途半端な数字なのか



今後は、軽自動車の動力源に対する規定も、排気量ではなく最高出力や最大トルクといった指標で定められるようになっていくかもしれない。

編集部おすすめ