全高や全幅を抑えた都市型ミニバンとして期待されたが……

クルマのスタイルやメカニズムには王道やオーソドックスといった言葉で表現されるものがある。



たとえばミニバンであれば5ナンバーサイズで両側電動スライドドアであることは必須であろうし、軽自動車のメインストリームであるスーパーハイトワゴンでもスライドドアの重要性は変わらない。



トランスミッションにもいくつかの種類があるが、燃費やスムースな乗り味を求める日本のユーザーにはCVTがベストマッチという事実は、マニア目線での評価は別として市場での売上が物語っている。



しかし、そうした王道から離れることで個性を狙うモデルもある。万人受けせずとも、熱狂的なファンを獲得して、それがある程度の規模感であればビジネスとして成立する部分もあるからだ。「あえて外す」ことで、商品性を高めようという戦略もありだ。



ここでは、そんな「はずしのモデル」を異なるカテゴリーから3モデルほどピックアップ。それぞれの狙いと実際について考察・検証してみよう。



1)ホンダ・ジェイド

3列シートのミニバンといえば、スライドドアで7人~8人乗りがマストといった市場に対して、3列シートながら乗車定員6名かつ後席をヒンジドアというパッケージングで登場したモデルがある。それがホンダ・ジェイドだ。全高も1540mmと低く、全幅も1775mmで多くの立体駐車場に対応したプロポーションは都市型ミニバンとして評価され、3代目オデッセイの後継といった位置付けで、一部のファンからは待望の一台とさえ言われていた。



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さらに2列目シートはアームレストを持つキャプテンシートで、斜め内側にV字型でスライドすることで、ホイールハウスを避けながら可能な限り後ろに動かすことができるというもの。限られたパッケージのなかで足もとを広くするというアイディアもユニークなものだ。



とはいえ3列目シートのスペースはあまりにもエマージェンシー的で、常用しようと思うと実質的な定員4名というのは、このサイズのミニバンとしては外しすぎたというか、期待はずれな部分もあった。そのため、モデル後期では2列シート化で後席を3名仕様とした乗車定員5名のバリエーションも追加されたが、販売状況を見ているかぎり、その独特のパッケージングに関する考え方が評価されたとはいいがたい。



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2)スズキ・アルト

燃費、快適性の両面において、とくにコンパクトカーなどではCVTの無段変速によるメリットは大きいが、そこに異論を挟むべくスズキが提案しているのが、同社では「AGS(オートギヤシフト)」と呼ぶAMTだ。これは5速MTをベースにしたオートマチックトランスミッションで、クラッチとシフト操作をアクチュエーターで行うという仕組み。

ドライバーとしてはDレンジに入れておけば機械が自動的にシフトチェンジをするので、AMTだからといって気張る必要はないというものだ。



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5速MTをベースにするということで、軽量化にもつながるし、CVTよりも伝達効率の面でも有利。コストも抑えることができるといわれ、こうした特徴を見ていると採用しない理由はないと思えてくる。実際、スズキもアルトにおいてAGSを採用しているが、搭載グレードはもっとも価格の安い廉価グレード(86万3500円)であり、安くいいものを欲しがるユーザーに最適なトランスミッションという風に考えていることがうかがえる。



コストと伝達効率の両面でアドバンテージのあるトランスミッションであれば、AGSはスズキのラインアップで拡大していくべきだろし、他社からも似たようなシステムの採用例が出てくるはずだが、そうはいっていない。



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スズキにしてもアルトでAGSを採用しているのは廉価グレードのみで、量販グレード、上級グレードではCVTを採用している。これはAGSに変速ショックが大きいというウィークポイントがあるからだ。シフトチェンジのタイミングに合わせてアクセルを抜くといった操作をすればスムースな変速をできるが、オートマを求めるユーザーがそうした操作を求められるというのはネガにしか感じられないはずだ。



というわけでAGS搭載車はスズキのなかでもなかなか拡大していない。ただしトランスミッションにモーターを内蔵させたハイブリッド仕様では、変速させることで小さなモーターながらEV走行の範囲を広げたほか、モーターを利用することで変速ショックを小さくすることに成功している。廉価なトランスミッションとしてはブレイクできずにいるAGSだが、リーズナブルなハイブリッドとしては有効なトランスミッションとなっている。



挑戦が功を奏した商用車も!

3)ホンダN-VAN

1BOXやトラックのような商用車というと後輪駆動がスタンダードだ。

重い荷物を積むとリヤ荷重が大きくなり、極端にいうとフロントタイヤは浮き気味になる。そうした状態において、しっかりと駆動力を伝えるには後輪駆動が向いているため、どうしてもFRが主流となっている。



それは軽商用車でも同様で、軽トラックはすべてリヤ駆動であるし、スズキ・エブリイ、ダイハツ・ハイゼットカーゴという軽1BOXバンもセミキャブオーバーのFRレイアウトとなっている。



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そうした市場に一石を投じるべく誕生したのがホンダN-VANだ。それまでホンダの軽1BOXバン「アクティバン」はMRレイアウトでやはり後輪駆動となっていたが、N-VANはその名前からもわかるようにN-BOXのメカニズムを利用したキャブオーバーバンで、基本はFFレイアウトとなっている。じつはダイハツにハイゼットキャディーというFFベースのキャブオーバーバンも存在しているがハイゼットキャディーの積載重量は駆動方式を考慮してか150kgとなっているのに対して、N-VANは350kgという軽商用車の最大積載量を可能としている。



実際、最新のFF車のトラクション性能を知っている人からすれば後輪駆動でなければ十分なトラクションが確保できないというのが昔話なのは自明。むしろ、リヤデフが不要になるため荷室の床を低くできるというメリットがFFベースの商用バンにはある。事実、荷室床面の地上高を比べると、N-VANが525mmなのに対して、エブリイは650mm、ハイゼットカーゴは635mmとなっていて、N-VANの優位性は明らかだ。



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というわけで、比較的ベテランユーザーの多い軽1BOX・軽バン市場において変革的なモデルであるN-VANは受け入れられないのでは? という声もあったが、従来モデルのアクティに比べると、販売台数は激増。スズキ、ダイハツというライバルを追い越すほどではないが、過去の実績を考えると善戦しているというのが実情だ。



ちなみに、今年の上半期(1月~6月)の販売台数(全国軽自動車協会連合会調べ)でいうと次のようになっている。



1位 ダイハツ・ハイゼットカーゴ:3万280台



2位 スズキ・エブリイ:2万5837台



3位 ホンダN-VAN:1万6636台



2020年のデータではハイゼットがリードしているが、新型コロナウイルスの影響もあって、この数字だけで判断するのは難しい。そこで2019年の同じく上半期で比べると3台の販売台数は次のようになる。



1位 エブリイ:3万7767台



2位 ハイゼットカーゴ:3万6292台



3位 N-VAN:2万7285台



いずれにしても、スズキとダイハツの二強だった市場にホンダが食い込んでいることがわかるだろう。N-VANが時代を、市場を変えたとまではいえないまでも、当初の予想以上に健闘していることはまちがいなく、変わり種を超えた存在となりつつある。

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