常に前車の2~3台前の車両の走行状況まで気にかける
僕の運転免許も今年ようやく「ゴールド」となった。前回の更新時も5年以上無事故無違反でゴールド対象となるところだったが、更新のひと月前に交通違反で検挙されてしまい、残念ながらゴールドにならなかった。
それでも18歳で運転免許を取得してから40年以上、無事故で過ごせているのはレースで走るとき以上に安全運転に注意を払っているからだ。
では、レーサーというハイスピードの限界域で主に活動してきたプロドライバーが、一般道で事故を起こさないように気をつけているポイントはどこにあるのだろうか。
1)先を読む
市街地を走行しているなら他の車両も多く走っているだろう。自分の直前にいるクルマがブレーキを踏めば、追突しないように自らも減速するのが一般的なドライビングだ。しかし、プロレーサーは常に先を見越している。前車がブレーキを踏むには、その先に信号なり歩行者なり交差点なり、減速する何らかの必要性があるためだろう。その状況を前車より先取りし、前車より先にブレーキを踏めるよう心がけているのだ。
「認知・判断・操作」とよく言われるが、前車が減速したのを認知して操作し減速するのでは、前車の減速強度によっては追突してしまう可能性がある。「ブレーキテスト」と呼ばれる嫌がらせ行為(近年ではこうした行為も走行妨害として煽り運転取締対象となる可能性がある)をされることもあるが、前車の急減速を認知してからブレーキ操作をしたのでは本当の急減速なら追突してしまう。それを回避するには十分以上の車間をとって備えていなければならないわけだ。常に前車の2~3台前の車両の走行状況を気にかけ、前車より先に行動する。トラックなど先が見えない場合は車間を十分にとって急な場面に備える。
2)並ばない
複数車線の道路を通行中、順調に流れていれば隣車線の車両と並走する場面も多いはずだ。しかし、プロレーサーは多くの場合に並走することを避ける。それは歩道からの飛び出しや路面の異常、落下物の回避などいついかなる時でも車線変更できるようスペースを確保しておきたいからだ。一般的なドライバーは無神経に隣に並びかけてくる事が多いが、そんな時は自らがアクセルを弱めて後ろに下がり、お互いにいつでも車線変更できるスペースを確保しておくのだ。

故障などの際も状況に応じた適切な判断と操作が必要
3)クルマを過信しない
ブレーキをかければ減速する。ハンドルを切れば曲がる。多くの場合、それは当たり前のように行われている。しかし、クルマは機械だ。いつ故障し、壊れるかわからない。絶対に壊れないという安全が補償された乗り物ではない。
たとえばタイヤのスローパンクチャーも起こりえるし、ブレーキが利かないこともあり得る。アクセルを戻しても加速が収まらないとか、故障はいつ、どんな状況で起きても不思議ではない。それだけに、どんな故障が起きても冷静に判断し対処する心の余裕が求められる。
常に用心し、心にも操作にも余裕を持ち、異常を感じたら冷静に対処するのだ。ブレーキが利かなかったらどう対処するか。人のいない、衝突しても安全な場所を視認で探しながらシフトダウンやエンジンブレーキ、エンジンキルスイッチの操作やハンドブレーキ、パーキングブレーキ操作など状況に応じた適切な判断と操作が必要なのだ。

プロレーサーはレース中、常にこうした事態を想定し、心がけている。レースではブレーキがフェードしたりブレーキラインからオイルが漏れて減速できなかったり、さまざまなトラブルが起こりえる。僕はブレーキディスクが破裂してノーブレーキ状態になったこともあるが、減速区間を大きく取っていたので無事に状況を回避することができた。クルマの極限で競うモータースポーツでは常に何が起こるか予測不能だ。プロレーサーはそうした事態に備え、意識を集中して、可能な限りの対処を試みなければならない。
また自動車メーカーはそうした事象を分析し、トラブルを回避できるシステムを作り上げていくことができる。メーカーがモータースポーツに参加するのは単に性能を向上させるだけではなく、こうした極限でのテストを行い、トラブルを克服することで性能の安定性、故障の回避など信頼性を高めることができるのだ。だからモータースポーツに参戦していない自動車メーカーのクルマは極限での性能の追求、安全性の確保が十分とは言えない。
4)まわりを信じない
プロレーサーからみると、一般道をクルマで走るのはサーキットを極限スピードで走るよりも恐ろしい。

サーキットは絶対スピードこそ高いものの、路面もガードレールもしっかり管理され、万が一事故が起きても万全の対応ができるようシステムが構築されている。先般、ドイツで開催されたF1アイフェルGP(グランプリ)では、悪天候のためドクターヘリが飛べないことを理由に走行セッションがキャンセルされた。F1ではクラッシュから30秒以内にメディカルチームが事故現場に到着しなければならないというルールがあり、安全対策の見本となるような運営がされている。一般的なドライバーも、F1等モータースポーツをただ観戦するだけでなく、安全にかかわる多くの事を参考にし、役立ててもらいたい。