過去にもバッテリーを共有するという提案は存在した

昨年、中国の企業が電気自動車(EV)の駆動用バッテリーのサブスクリプションをすると発表があった。バッテリーを所有するのではなく、利用するという発想だ。これにより、EVの車両本体価格から、バッテリー分を差し引いた金額でクルマを購入し、以後はバッテリー交換を繰り返しながら使って、その使用料を支払う仕組みだ。



EVの車両価格は、原価が高いとされるリチウムイオンバッテリーによって高価になりがちであり、そこからバッテリー代を差し引けば、安く手に入れられるだろうとの着想である。またEVの課題とされてきたのが充電時間の長さで、急速充電でも30分は掛かるとされている。バッテリーをパックごと交換すれば、ガソリン給油と変わらない時間で済むという計算だ。



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以上のようなEV普及の足かせとなっている課題を一気に解決しようとした、EVならではの事業の創出といえる。



だが、この発想はすでに1990年代前半からあった。当時はまだ鉛酸バッテリーしかなく、その走行距離は数十kmでしかなかった。そこで、バッテリー交換を手早く済ませることで、走行距離を伸ばそうと考えたのである。米国カリフォルニア州のベンチャー企業が、この方式により24時間でどれだけ走れるかに挑戦し、1000km近く走ったのではないか。すでに記憶はあいまいだが……。



また、バッテリー代を燃料代のように位置づけ、新車販売の際に車両価格からバッテリー代を差し引き、バッテリー分をリース料のような方式で毎月支払うとの発想も、すでに存在した。日産リーフが発売される前、当時のカルロス・ゴーン社長は、そのようなEV導入の方法もあるのではないかと語っている。



しかしこれまでそうした事業が実現してこなかったのは、机上で考えるより実行が難しいからだ。



まず、バッテリー交換自体は短時間でできても、交換用バッテリーをどれくらい保有するのか、また、床下に搭載されるバッテリーを世界の自動車メーカーで共通化しなければ、バッテリーパックの種類をさまざまに用意しなければならない。複数の方式が存在したとして、あるバッテリーパックに顧客が集中すると、品切れが生じる。



膨大な量のバッテリーパックを置いておく場所は、それなりの広さが必要になる。果たして土地の価格の高い都市部でそうした土地の確保と、事業での収益の折り合いがつくのかどうか、なかなか試算しにくい。



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交換を終えたバッテリーは充電して、次のバッテリー交換に備えることになるが、大量の交換用バッテリーに充電を行うには、これも膨大な電力が必要で、交換が集中した場合には充電が間に合わなくなる懸念もある。



日本で実現するには施設側などの問題が山積みに

そのように、実行するうえでの課題は山積だ。そして、この発想が生まれる理由は、エンジン車の燃料補給と同じようにEVの充電を考えているから起こるのである。しかし、EVは、エンジン車とまったく違った発想が求められる。



クルマは、必ず駐車する。その間に、駐車場で充電するのがEVの基本だ。それは、帰宅後などの夜間に限らず、勤務中や買い物の間、あるいは食事中など、生活のさまざまな場面でクルマを駐車し、用事を済ませるということをわれわれはやっている。クルマを利用しない時間帯にこまめに充電を繰り返すのが、EVの充電の基本であり、急速充電のように用事もないのに電気がなくなったから急いで充電する行動は、緊急対応なのだ。



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したがって、充電の社会基盤の整備は、緊急対応の急速充電器を増やすのではなく、自宅はもちろん、会社や事務所、レストラン、スーパーマーケット、コンビニエンスストアなど、生活上立ち寄る施設の駐車場に200Vの普通充電コンセントを並べることなのである。その意味でも、マンションなど集合住宅への200Vコンセント設置の実現が、求められるのだ。



またEVに搭載されているリチウムイオンバッテリーは、電気を使い切ってから満充電するより、まだ電力が残っているうちにこまめに充電を繰り返し、満充電にしないで利用するのが長持ちの秘訣である。この点は、携帯電話やノート型PCの充電も同じだ。ニッケル水素や、ニッケルカドミウムなどで懸念されたメモリー効果がないのが、リチウムイオンバッテリーだ。



急速充電しながらバッテリーを次々に交換する方法は、バッテリーを劣化させやすい使い方でもある。つまりバッテリー交換は、あらゆる意味でEV利用の最適解ではないのである。

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