アルファードより圧倒的に少ないが販売目標はクリアしている
2021年1~3月の販売統計を見ると、トヨタ・アルファードが各月ともに1万台以上を登録した。2020年にトヨタの全店が全車を扱う体制に移行して、姉妹車となるヴェルファイアは10%程度まで激減したが、アルファードの販売は絶好調だ。売れ筋価格帯が400~550万円の高価格車なのに、販売ランキングの上位に喰い込む。
そこであらためて目を向けたいミニバンが、Lサイズのトヨタ・グランエースだ。全長は5300mm、全幅は1970mm、全高は1990mmと大柄で、車内はアルファードよりも広い。3列シートで6人乗りのプレミアムでは、2/3列目の両方に、座り心地が快適なエグゼクティブパワーシートを装着した。
アルファードの上級グレードもエグゼクティブパワーシートを備えるが、2列目のみだ。3列目は左右に跳ね上げて格納するシートが全車に装着され、座り心地は良くない。床と座面の間隔も足りず、足を前方へ投げ出す座り方になる。

従ってアルファードで快適なシートは、特等席の2列目と1列目だけだ。3列目まで含めて、すべてのシートが快適なミニバンは、日本車ではグランエースプレミアムのみになる。

グランエースは全員が快適に乗車できる貴重なミニバンだが、売れ行きは伸び悩む。2019年12月に発売され(発表は11月)、2020年の登録台数は1カ月平均で約60台だ。アルファードが1万台前後に達するのに比べると圧倒的に少ない。それでもグランエースの場合、発売時点で公表された販売目標も1年間に600台(1か月平均なら50台)であった。
コスパを考えればハイエースのほうがメリットあり
グランエースの売れ行きを販売店に問い合わせると、以下のように返答した。「販売台数は、発売当初から少なかった(もっとも多く登録された2020年3月が230台)。しかも最近はコロナ禍の影響で伸び悩んでいる。それでも2021年6月28日に改良を行う予定で、4月16日には受注を一時的に停止した」。

グランエースは、法人向けのミニバンとして開発され、4列シートの8人乗りも選べる。6人乗りのプレミアムは法人におけるVIPの移動用、8人乗りのGは旅館やホテルの送迎用を狙って開発された。そして過去の登録台数を振り返ると、本格的な販売を開始した2020年1月から6月までは、1カ月当たり100台以上だった。この段階でグランエースを必要としている法人には行き渡ったと考えられる。その後はコロナ禍の影響を受けて、旅館やホテルの業績は大幅に悪化した。車両の入れ替えが予定されていても、延期されただろう。プレミアムを選ぶ企業も同様だ。

またトヨタにはハイエースワゴンもある。GLは全長が4840mm、全幅は1880mm、全高は2105mmで、グランエースに比べるとボディがコンパクトで運転しやすい。しかもボンネットのないワンボックスワゴンだから車内は広い。室内長は3715mmでグランエースGの3365mmを上まわる。乗車定員も10名と多い。

価格はハイエースワゴンGLは311万6000円だ。グランエースGの620万円、プレミアムの650万円に比べると約半額だから、コスト意識の強いビジネス用途であればハイエースワゴンが選ばれる。そこでハイエースワゴン(バンを除く)の登録台数を見ると、1カ月平均で700台を超える。グランエースは約60台だから、ハイエースワゴンの売れ行きは10倍以上だ。
このように法人ユーザーは、グランエースを検討したときに、割安で販売実績のあるハイエースワゴンと比べて判断する。そうなるとハイエースが選ばれやすい。
仮にクルマ好きの一般ユーザーがグランエースを求めれば、高価格でも購入する余地が生じるが、大柄なのに外観やインパネは地味だ。エンジンは2.8リッターのクリーンディーゼルターボのみで、アルファードのようなハイブリッドは用意されない。一般ユーザーも魅力を感じにくいため、結果的に売れ行きが低迷した。結局一般ユーザーはアルファード、法人はハイエースワゴンを選んでいる。
