燃費で劣るロータリーエンジンは動力源としては不利だった
ロータリーエンジンは、燃焼室の形状が長方形になり、通常のレシプロエンジンの円形に比べ形が悪いので、完全燃焼させにくい。点火プラグから燃焼室の端までの距離が、長辺と短辺で異なるからだ。短辺で燃焼を終えても、長辺の燃焼が終わり切らないうちに排気行程へ進んでしまう懸念がある。
一方、あまり回転数を上げなければ燃焼効率を高める可能性はあり、また燃焼室が回転することで移動するため、燃焼温度が高くなりすぎることがなく、水素エンジンとしての可能性もレシプロエンジンに比べて高い。あるいは燃料の質にあまりこだわらないので、排出ガス浄化性能はともかくも、さまざまな燃料でエンジンを回すことができるので、災害時などの緊急用としても役立つ可能性がある。
以上のような特性を踏まえ、ロータリーエンジンを電気自動車(EV)のレンジエクステンダー(走行距離延長)用の発電エンジンとして、マツダは今秋MX-30に採用する予定だ。

省スペースなロータリーはレンジエクステンダーにもってこい
ロータリーエンジンを発電に使う着想は、NSUを系譜に持つアウディも、試作車のA3 e-tron(イートロン)に採用したことがある。そしてマツダも、デミオEVの実験車でかつて実証試験をしていた。それに試乗した経験がある。

1ローターの専用ロータリーエンジンを改めて新開発し、デミオEVに車載したレンジエクステンダーは、1ローターエンジンを水平に搭載し、もともと振動の少ないロータリーエンジンを、さらに独楽のように横へ回転させることによって振動を抑えていた。したがって、発電用エンジンが作動しても、それに気づかないほどであっただけでなく、後席に座っていてようやく排気音が聞こえる程度で、静粛性もEVらしさを阻害しないほどであることを、試作エンジンですでに実証していた。
その快適性は、アウディA3 e-tronの試作車と比べても群を抜いており、永年にわたりロータリーエンジン車を量産市販してきたマツダの知見が凝縮されていると思った。また、燃料タンクを含めた全体の構成は、小さくまとめられ、たとえば日産リーフの荷室床下にも車載できるのではないかと思えるほどであった。

リチウムイオンバッテリーの原価はなお高いとされ、小型車でのEV普及はなかなか進みにくいが、バッテリー車載量を実用の範囲で限定し、急速充電の間に合わないときにはレンジエクステンダーでその場をしのぐ発想で考えると、1ロータリーエンジンを活用するレンジエクステンダー機能は、マツダが部品供給メーカーとして他社へ展開してもいいと思えるほどの出来栄えだったのである。
当時、私はマツダの開発者たちへ「車体メーカーとして完成車を製造するのに加え、部品メーカーとしてこのレンジエクステンダーを販売する道を探ってはどうか?」と進言した。
その後、マツダはSKYACTIVでエンジンに舵を切り、EV開発を止めてしまったようだが、このレンジエクステンダーの資産は実にもったいないと思い続けてきた。そしていよいよ、それが今秋実現するのかと思うと感無量である。

ロータリーエンジンを、そのまま動力源として使ってクルマを走らせるには燃費の問題を含め時代にそぐわないだろう。しかし、得手を伸ばす手法で活かす道は残されている。いまこそ、マツダのロータリーエンジン技術が広く社会に貢献できるときではないか。