圧縮空気を送り込んで高出力を絞り出すターボチャージャー
現在では、選択肢のひとつとしてごく当たり前に存在するターボチャージャーだが、市販車で使われ始めたのは1970年代初頭だった。BMW2002ターボとポルシェ911ターボ(930)がその口火を切ったかたちで、一般乗用車への装着は意外にも日本車が早く、1979年のセドリック/グロリアターボ(430系)が先鞭をつけていた。
さて、そのターボチャージャーだが、自然吸気エンジンと比べ、なぜ高出力が可能なのか、その原理をおさらいしてみることにしよう。
ところで、シリンダー内での燃料(ガソリン)の燃焼だが、電子制御で細かな燃料量の噴射が可能な現行のエンジンマネージメントメントシステムは、シリンダー内に送り込まれた空気量に対して、それに見合った量の燃料が供給できるシステムとなっている。ちなみに空気量とガソリンの比率は、理想空燃比という数値があり、一般的には14.7対1(重量比)が最適だと考えられている。

これを自然吸気システムのエンジンで考えると、1シリンダーあたりの空気量(たとえば2リッター4気筒なら1気筒あたりの排気量は500cc)に応じた燃料量が噴射され、完全燃焼に近い燃焼作業が行われて出力を発生することになるが、ターボチャージャーで吸入気を加圧する方式だと、たとえば0.5気圧の過給をかけた場合、シリンダー内に送り込まれる空気量は、自然吸気(大気圧)の1にターボで過給された0.5気圧が加わることで自然吸気の1.5倍となり、この空気量に見合った燃料量として自然吸気の1.5倍が供給可能となる。単純計算になるが、2リッターエンジンにターボチャージャーを装着して0.5気圧加圧した吸入気をシリンダー内に送り込めるのであれば、自然吸気の3リッターエンジンと同等の性能を見なすことができる(熱損失、機械損失など一切考慮しないで)。
ダウンサイジング戦略の切り札となったターボチャージャー
ターボチャージャーは、環境保全や省燃費性を推し進める上で自動車メーカーが採った「ダウンサイジング」戦略には欠かせないアイテムとなり、基本は小排気量エンジン、必要なパワーはターボチャージャーの過給効果によって得る車両作りが広く浸透した。

また、ターボチャージャーによる出力向上の効果は、1980年代のターボF1がその典型例と言ってよいだろう。今から35年も前の話だが、過給圧制限のない時代に、当時全盛を誇ったホンダのV6ターボが、わずか1.5リッターの排気量から1500馬力を発生した途方もない例が存在している。予選スペシャル、特殊ガソリンという条件はつくが、自然吸気エンジンがリッター100馬力で高性能と評価される性能水準にあることに対し、ターボチャージャーはその10倍、リッター1000馬力を実証したわけである。逆の言い方をすれば、現在の市販車に求められる出力値は、ターボチャージャーを装着すれば任意で設定できる時代になっていると言ってもよいだろう。

現代の過給技術は、排気流を使ってタービンを駆動する基本的な方式に起因するウイークポイント、ターボラグの解消に重点を置いたもので、さらに燃焼状態の解析を進めることで、省燃費かつ高出力、そしてターボラグのないリニアなスロットルレスポンスを獲得したことが大きな特徴となっている。あえてウイークポイントを探すなら、小排気量エンジン車でエンジン回転が上がりきらない状態、言い換えればアイドリングからすぐ上、まだターボ過給が始まらない運転領域で、トルクの細さを感じることぐらいだろう。
一方、対する自然吸気エンジンをどう見るかだが、過給の制御技術がここまで進化してしまうと、排気量あたりの出力、さらに絶対出力でターボチャージャーシステムを凌駕することは無理な相談だ。自然吸気エンジンのメリットは、人間の感性に合ったリニアリティに優れるスロットルレスポンス、ギヤを選びながら高回転域まで使う走りの楽しさといった点にあり、ハンドリングも含め、素直な反応を望む走り好きの人、自動車を趣味と捉えることができる人に向く方式と言ってよいだろう。