この記事をまとめると
■トヨタのEV「bZ4X」には、ワンモーショングリップという機能が採用されている■ステアリングシステムのギヤ比や操舵力を無段階で変化させることが可能
■仕組みやメリット、今後の可能性について詳しく解説する
ステアリングの最大舵角を±150度に設定可能!
トヨタが披露した電気自動車のbZ4Xには「ワンモーショングリップ」という機能が採用されている。ワンモーショングリップ装着車のステアリングホイールは、航空機に装着される操縦桿のような横長の形状だ。ドライバーは9時15分の位置を保持して、操舵中の持ち替えはしない。
そしてワンモーショングリップが採用されるのは、ステアリングホイールの動きを電気信号に変換してステアリングシステムに伝えるステア・バイ・ワイヤ装着車だ。
この方式ではステアリングホイールは一種のスイッチだから、ステアリングシステムのギヤ比や操舵力は、無段階で自由に変化させられる。少し回しただけで、進行方向が大きく変わる設定にすることも可能だ。
そこでワンモーショングリップ装着車では、ステアリングの最大舵角を±150度に設定したから、Uターンを行う時でもステアリングホイールを持ち替える必要がない。
ステアリングホイールと前輪のステアリングシステムが直接繋がっていないから、bZ4Xでは、タイヤからの不快な振動は遮断してドライバーに伝えない。その一方で路上のデコボコを乗り越えた時などは、情報伝達に必要な振動として伝える。bZ4Xは2022年の半ばに発売されるが、ワンモーショングリップシステムは、まず中国向けに設定される。その後に順次拡大する予定だ。
ちなみにステア・バイ・ワイヤは、日本車では現行スカイラインがダイレクトアダプティブステアリングの名称で採用している。発売当初は峠道などで操舵感が過敏になったり、ゴムを捩るようなウネウネとした感触が気になったが、その後に改善された。
自動運転に向けたメカニズムといえる
ダイレクトアダプティブステアリングのメリットを実感できるのは、スカイラインハイブリッドに標準装着される運転支援機能のプロパイロット2.0を作動させている時だ。ステアリングホイールと前輪が直接繋がっていないため、前輪が細かな進路調節を行っても、ステアリングホイールにその動きを反映させない。
ただし現時点では、その程度の効果しかない。通常のパワーステアリングでも、上級車種にはステアリングのギヤ比がバリアブルに変わるタイプも多い。車庫入れなどのために低速域で操舵角が大きくなった時は、ギヤ比が次第にクイックになって操舵量を小さく抑える。
この時にはステアリングホイールを右端から左端まで回した時のロック・トゥ・ロックが約2回転の車種もあり、峠道などを走っても持ち替える機会は少ない。9時15分の位置で保持していれば良い。従って操縦桿のような形状のステアリングホイールを装着しても、目新しさ以外の実質的なメリットは乏しい。
ステア・バイ・ワイヤの本当の価値は、もっと別の機能にある。たとえばこれから安全装備が大幅に進化すると、ドライバーよりも車両制御のほうが危険回避を的確に行える。この時にはステア・バイ・ワイヤが効果的だ。ドライバーがパニックに陥ってステアリングホイールにしがみついた時でも、前輪は車両側の制御によって的確に操舵され、危険を避けられる。
さらにその先には自動運転があり、ワンモーショングリップのメカニズムも、そこに向けた技術ステップのひとつに位置付けられる。つまりユーザーにとって、現時点での実用的なメリットは乏しくても、商品化には意味があるのだ。

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