この記事をまとめると
トヨタはWiLLブランドにおいて3台のクルマを誕生させた



■本プロジェクトは実際のビジネス以上の成果を上げたといえる



■車種の詳細や開発した意図について解説する



3台のオリジナルカーが誕生!

かつて日本に『WiLL』という異業種合同プロジェクトがあったことを覚えているだろうか。1999年8月の発足時には、アサヒビール、花王、近畿日本ツーリスト、トヨタ自動車、松下電器産業(現:パナソニック)という各業界において日本を代表する5社が集まり、後にコクヨと江崎グリコが参画して、計7社によって進められた一大マーケティングプロジェクトである。



当時のリリース(https://global.toyota/jp/detail/12217380?_ga=2.114354823.1405340349.1643184673-445501249.1525840083)



ターゲットとなっていたのは、団塊ジュニア世代(1971~74年生まれ)を中心としたニュージェネレーション層。

従来的価値へ反発を覚えるニュージェネレーションに、伝統的ブランドが選ばれるために、どのようなアプローチが必要かということを考えた、共同プロモーションともいえる。その軸となるのが、オレンジをイメージカラーとした『WiLL』というロゴで、各社がWiLLブランドの商品をラインアップすることで、新しい消費スタイルを刺激しようというものだったと記憶している。



たとえば、アサヒビールは甘みのある「スウィートブラウンビール」、花王は「空気を洗うミスト』という消臭スプレー、近畿日本ツーリストはシドニーオリンピック観戦ツアー、江崎グリコはチョコレートやタブレット、コクヨはステショーナリーアイテム、松下電器はパソコンやポータブルMDプレーヤー、折りたたみ自転車をWiLLブランドとしてリリースした。



そしてトヨタは、結果としてWiLLブランドにおいて3台のクルマを誕生させた。



3台のクルマを出すが失敗ともいわれる異業種合同プロジェクト「...の画像はこちら >>



1作目が、かぼちゃの馬車のあだ名で呼ばれた「WiLL Vi」(2000年1月)、第二弾がステルス戦闘機のような「WiLL VS」(2001年4月)、そして最後を飾ったのがパイクカー的ルックスの「WiLL CYPHA(サイファ)」(2002年10月)だった。



未来のビジネスにトライした意味は大きい

メカニズム的には、それぞれ既存モデル(ヴィッツやカローラなど)のFFプラットフォームを利用した派生機種といえるもので、個性的な内外装以外に見るべきものはないようにも感じるが、ビジネスとして見ると、いずれも先行したチャレンジがなされたことが印象的だ。



たとえば、WiLL Viについていえば、秋冬コレクションとして新色を設定してみたり、2000年10月にはインターネット特別限定車を発売してみたりしている。いまでこそインターネットを利用した先行予約というのは当たり前のようになっているが、2000年の段階で、そうしたビジネスに挑戦したというのは、非常にはやいもので、そこでのリサーチがその後のネットビジネスにつながった部分はなきにしも非ずだろう。



3台のクルマを出すが失敗ともいわれる異業種合同プロジェクト「WiLL」!  よく考えるとトヨタの先見の明がスゴかった



WiLL VSにおいても、1.8リッターエンジン+6速MTというマニアックなパワートレインのグレードを二度にわたり、インターネット限定販売を行なっているが、こうした売り方というのは、時代を先取りしていたのは間違いない。トヨタが怖いのは、こうしたチャレンジを他社に先駆けてシレッと実施してノウハウを手に入れているところで、WiLLプロジェクトへの参画はそうした面からも有益だったことだろう。



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さらにWiLLサイファでは「走行距離課金型リース」という新しいビジネスにもチャレンジしていた。コネクティッド技術の走りといえるG-BOOK端末から送られてくる走行データを元に、走ったぶんだけリース料金がかかるというビジネスモデルは、まさにCASE時代のコネクティッドとサブスクリプションを先取りしたアイディアだ。



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さらに車両に通信モジュールを標準装備したり、トラブル時に救助を手配できる仕組みを搭載していたりと、完全にコネクティッドのひな形といえる機能を備えていた。



2002年の段階で、ここまでの仕組みをビジネス化していたことを思えば、いまのトヨタが進めるサブスクリプションサービスの背景には多くの知見が備わっていることがわかるだろう。まさにトヨタ恐るべしである。



WiLLプロジェクトが終了した段階では、無駄金を使ったという批判もあったが、WiLLプロジェクトを新しいビジネスモデルのテストケースとして理解すれば、実際のビジネス以上の成果を上げたといえるだろう。

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