この記事をまとめると
■CVTやDCTに押されていたトルコン式ATが見直されている■ロックアップ機構を採用して的確な駆動力伝達や燃費の向上が実現した
■バイ・ワイヤー技術の適用で走行状況に応じたきめ細かい変則が可能になった
MTに代わって変速機の主流となったトルコン式AT
トルクコンバーターを使う自動変速機は米国で生まれた。以来、自動変速の主軸として普及した。のちに、ベルト式無段変速機(CVT)が小型車を中心に採用が広がり、続いて既存の手動式変速機を活用しながらふたつのクラッチを持つことで自動変速を成り立たせたデュアル・クラッチ式変速機(DCT)の採用が欧州ではじまり、素早く的確な変速によって注目を集めた。
しかし、近年になって再び従来型のトルクコンバーター付き自動変速機が見直されてきた。
トルクコンバーター付き自動変速機に比べ、CVTやDCTが人気を集めた背景にあったのは、トルクコンバーターが流体継手といわれる機構で、液体の流れを利用して動力を伝えることにより、クラッチ操作を省いてアクセルとブレーキの2ペダルで運転できるラクさを実現したが、変速に遅れが出やすかったことにあった。端的にいえば、変速がもたつきやすいのだ。
また、流体を使う部分があるだけに、エンジンの動力をすべてタイヤへ伝達できず、燃費の悪さも生じた。そうしたトルクコンバーター付き自動変速の弱点を、CVTとDCTもが補うことを期待されたのだ。
クルマの電子化が古くからあるトルコン式ATをさらに高性能にした
CVTも、停車中のアイドリングを実現するためトルクコンバーターを使ったが、無段変速によって変速のもたつきや燃費の悪化を回避できた。

そこでトルクコンバーター付き自動変速機も、ロックアップ機構と呼ばれるクラッチ機構を設けることで、変速を終えたあとはロックアップ(クラッチをつなぐ)することにより、無駄になっていた動力伝達を改善し、的確な駆動力伝達や燃費の向上ができるようになってきた。
さらに、近年のクルマはバイ・ワイヤー(配線を使った信号)技術の適用により、運転者の操作をそのまま機器の作動につなげるのではなく、走行状況に応じてコンピュータ制御によってクルマをより適切に作動させる仕組みになった。これを活用し、ロックアップの作動を走行状況に応じてよりきめ細かく機能させることにより、流体の滑りという無駄を大きく改善することができ、運転感覚の不快さを解消し、壮快な操作を実感できるようになった。

それでいてトルクコンバーターを持つことにより、停車からの発進ではDCTに比べて滑らかに行うことができ、歯車による変速であるためにCVTに比べてエンジン回転数の上昇と加速の仕方に違和感が生じにくい。
クルマの電子化が、古くからあるトルクコンバーター付き自動変速の弱点を補い、運転感覚も燃費も、ほかの変速方式とかわらない高性能を実現できるようになったのである。