この記事をまとめると
■2021年、三菱のワークスブランド「ラリーアート」の復活が発表された



■三菱は2005年にWRCやパリ・ダカールラリーからの撤退を表明している



■この記事ではラリーアート消滅の理由と復活の舞台裏を解説する



益子社長就任から5年目にラリーアートを実質休止

2021年5月、三菱自動車が同社のワークスブランドである「ラリーアート」を本格始動させるという発表をしたことは三菱ファンに歓喜の声で迎えられた。



その後、タイでアクセサリー装着車としてのラリーアート仕様を発表。さらに、東京オートサロンではアウトランダーPHEVをベースにした「ビジョン・ラリーアート・コンセプト」というショーカーを出展するなど、ラリーアート復活は加速している。



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そんなラリーアートが、一部のアパレルグッズを除いて、ワークスブランドとしての活動を休止するようになったのは2010年3月のことだった。当時の益子 修 社長の判断により、三菱自動車はモータースポーツ活動全般から撤退することになった。



同時に、ラリーや耐久レースで活躍していたランサーエボリューション、パリダカに代表されるラリーレイドでいくども勝利してきたパジェロが生産終了に向かうという決定もなされた。



社長が「レース嫌い」だから消滅の噂は本当か? 単なるブランド戦略に留まらない「ラリーアート」復活の舞台裏



2005年に三菱自動車の社長に就任した益子氏は、個人としてモータースポーツが好きではなく、そのせいでラリーアートは消えたというのが定説だ。益子氏は三菱自動車を退社した直後の2020年8月に亡くなっているため、その真意を確認することはできないが、はたして自動車メーカーの社長が、個人の好き嫌いでモータースポーツ活動を中止させるというのは考えづらい。



たしかに益子氏は三菱商事出身で、リコール隠しに揺れる三菱自動車を甦らせるために社長に就任した人物であるが、商事時代には自動車畑で、転籍前には自動車事業本部長を務めていたことからもわかるように、自動車業界の動向には明るい人物。



そうであれば、仮にモータースポーツによるブランディングが2010年代の三菱自動車に欠かせないとなれば、個人として嫌いであっても継続するという判断をしたことだろう。単純に、モータースポーツのブランディングが費用対効果としてマイナスになっているから休止したと考えるべきだろう。



モータースポーツは不可欠ではなかった?

もちろん、カーガイであれば「無理をしてでもモータースポーツ活動を続ける」という判断をするかもしれないが、他社の動向をみても、リーマンショック時にはモータースポーツ活動から撤退していた。ファンには申し訳ないが、2000年代の三菱自動車のモータースポーツ活動がブランド価値につながるほどの結果を残していたかといえば疑問も残る。益子氏が休止を判断したWRCにしても、WRカー規格になってからは、グループA時代ほどの輝きを見せていなかったのは事実だ。



つまり、2010年の段階では、三菱自動車のブランディングにおいてモータースポーツは必要不可欠なものではなくなっていた。

誰が社長であってもラリーアートの活動休止というのは妥当な判断だったといえるかもしれない。逆にいえば、モータースポーツ部門がブランディングにつながる結果を示せなかったのであれば、撤退というのは当然の経営判断だったといえる。



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そんな風に、いったんはブランドにとって必要ではないとされたワークスブランド「ラリーアート」が復活する背景には、何があり得るだろうか。



ひとつ考えられるのはアライアンスでのリソース活用ということだ。



ご存じのように、三菱自動車は、ルノー日産三菱自動車アライアンスの一員だ。この3社アライアンスでは開発リソースを共有することが既定路線になっている。たとえばフルモデルチェンジしたばかりのアウトランダーPHEVにしても、プラットフォームは日産がリーダーとして開発したものであり、そこに三菱自動車が開発したプラグインハイブリッドシステムを載せている。そして、そのプラグインハイブリッドシステムはアライアンス各社に提供する可能性もあるという関係だ。



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ところで、ルノーにはルノースポール、日産にはNISMO(ニスモ)というワークスブランドがある。アライアンスでスポーツモデルを開発する場合には、ルノースポールとニスモで基本メカニズムなどを共有することが前提となるだろう。そうなると、三菱自動車にもルノースポールやニスモに相当するワークスブランドを用意しておく必要がある。



であれば、WRCやパリダカなどのヘリテージがあり、ブランディングに有効活用できる可能性を持つ「ラリーアート」を復活させるというのはアライアンスビジネスとして自然な流れといえる。



このあたりのストーリーは関係者が言外に示した内容を、筆者の妄想で補完したものだが、アライアンスの関係からすると、三菱自動車単独でラリーアートの復活を決定できるとは考えづらい。アライアンスがワークスブランド復活を認めたのだとすれば、アライアンスのリソースを活かした、世界選手権レベルのモータースポーツ活動に復帰することも期待したい。

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