この記事をまとめると
■レクサスからクルーザーが登場した■価格は4億円以上でエンジンはボルボ製を採用、世界にまだ4艇しかない
■内部は一流ホテル並みの仕立てでロングクルージングにも対応する
レクサスが手掛ける極上のクルーザーに乗った!
LEXUS LC500からLY650へ。
2017年1月、北米マイアミでのデビューの後、5月26日にジャパンプレミアされたLEXUS Sport Yacht Conceptをプロローグとすれば本編の始まりは2年半を待つことになる。2019年9月、フロリダ・フォートローダデールの北、ボラカトン。
ラグジュアリーライフスタイルブランドを目指すLEXUSのシンボルとなるLEXUS LY650のワールドプレミアだ。2019年10月30日、販売開始。ジャパンプレミアは翌年2020年3月の予定だった。残念ながらコロナ禍の影響でそのスケジュールは未定のままである。現在世界に4艇のみのLY650、建造再開が待たれる中、日本国内のLY650が特別にお披露目され、初めてシートライアル(海上試乗)の機会を与えられた。

横浜ベイサイドマリーナのメガヨットバースに舫われたLY650。ハルのメタリックシルバー、前方ガンネルのカッパゴールド、フライブリッジのカーボンブラック、空の青、アズーロエマローネ、秘蔵された磁器のように晩秋の陽光を浴びて煌めいている。

その煌めきはこのフネのカタチに依拠している。バウ(船体前部)からスターン(船体後部)まで流れる曲線、フラッシュサーフェスなフロントウインドウからの流麗なクーペフォルムが主張する美学。

デザインコンシャスと言うにはあまりにたやすい。LEXUSのデザインフィロソフィであるL-finesseを具現化したデザイナーの想いが伝播する。LEXUSブランド30年の歴史の意味するもの、LEXUSをカーブランドからラグジュアリーライフスタイルブランドへ昇華させる、CRAFTEDのフィロソフィ。

新たなライフスタイルブランドLEXUSのICONへのチャレンジだ。アバンギャルドなLEXUSデザインの船体を実現化したのは米ウイスコンシン州のMarquis Yachts社。インテリアはマリンシーンをリードするイタリアのスーパーヨットデザイナーNuvolari Lenardとのコラボレーションと言う決断。さらにLY650はドライブユニットにVolvo Penta IPSシステムを選択した英断。

Volvo Penta D13- IPS1350は直6 OHC24バルブ、12.8リッターディーゼルターボ。デュアルステージターボ+ツインインタークラー。クランクシャフト出力1000馬力/2400rpm。トヨタグループ以外からのエンジン+ドライブユニットの選択、話題は豊富だ。
それはレクサスのスピリットが宿る海上のファーストクラス
スイミングプラットフォームから乗り込む。シートイガレージ両脇から4ステップでアフトデッキに至る。後端にテーブルを挟むデザイン化されたコの字ソファが置かれる。左舷にはBBQグリルとウエットバー、製氷機、冷蔵庫のキャビネット。左舷と右舷のキャビンCピラー下部にはジョイスティックが離接岸のサポートヘルムとして隠されている。

アフトデッキはもちろんのことオープンエリアはチークが貼り巡らされる。右舷のフライブリッジ(二階デッキ部分)ラダーの下部が電動で開き、床下クルールームへのエントランスが潜む。
スライドドアを開けメインサロンへ。

その先にサロンとヘルムステーションが広がる。左舷にはテーブルと真っ白なL字ソファ、対面する右舷にはI字ソファ。アッシュなフロアもウッドモード仕上げ。フロアにはLEXUSのLをモチーフのオーナメント、テーブルの支柱にもLが潜んでいる。ゆったりとしたサロン、オレンジのアンビエントライト、なんともリキュスな世界が広がる。

右舷前方にメインヘルム(主操船席)、2脚の革製シートの前にはカーボン製コンソールにGARMINの17インチマルチディスプレイが3面並び、革巻きホワイトのステアリングホイール右にIPSコントローラ―とジョイスティックが位置する。

ヘルム背後には49インチのTVモニター、ブルーレイプレーヤが潜み、Mark Levinsonの豊かなサウンドとともにAV環境を仕上げている。さらにはボートコネクティッド技術「LY-Link」を搭載しエマージェンシーにもスマホ対応を可能にしてくれる。左舷にはパンタグラフ式サイドドアがありキャットウエイへのイージーアクセスが可能。バウデッキにはサンタンベッドにソファ&テーブルのオープンテラスラウンジが展開している。

コンパニオンウエイのステップを降りて3ステートルームを持つロアデッキへ。踊り場にはコーヒーメーカーとワインクーラー、降りたミジップのオーナーズスイートのドア脇にウオッシュ&ドライが用意され、ロングクル―ジングのスタンバイに抜かりはない。

ビーム(船体幅)いっぱいに広がるオーナーズスイート、両舷に広がるシービューウインドウからの豊かな採光、ユーカリのウッドウオール、コクーンのようなキングサイズベッド、ふくよかなラウンジソファ。シートの縫製、家具の仕上げ、熟練した職人のクラフトマンシップがほとばしる。バウには専用のパウダールームを持つVIPルーム、デザインホテルのアートフルなステートルームのあでやかさで展開する。

少し妖しい。

初冬の淡いブルーの空、西から天気は崩れる予報。北風6m、気温16度。昼下がりの横浜ベイサイドマリーナ。
全長19.94m全幅5.76m。暖機を終え、フライブリッジのヘルムで係留バースを離岸する。VOLVO Penta IPS1350-1000馬力エンジン×2基はデジタルレブカウンターの指針で稼働確認するほど静寂だ。600rpm6ノット燃費11L/hでマリーナ内を抜け八景沖へ。1000rpm10ノット、1250rpm12ノット。ピッチの長いうねりと重なる東京湾特有のチョッピーな波がある。

1500rpm14ノット燃費144L/h。1800rpm21ノット。直進性の良さを感じている。2000rpm25ノット燃費254L/h。フェアウエイライドでソフトな乗り心地に満たされている。まるでクルマ感覚のステアリングを切りこんでいく、軽いインサイドバンクを伴いながら回頭が始まる。ARGジャイロスタビライザーを搭載するが回頭の邪魔をすることもなくリニアな動きでイメージどおりのトレースを続けていく。うねりのあるはぐれ波に突っ込んでみる。遠くで波を切り叩き落すがスプレーは上がらない。スラロームを試みる。スムースな切り返し、しなやかな動き。トランサムデッドライズ(後部船底傾斜角度)17度、ニュートラルでスポーティなマニューバビリティが痛快感を伴ってくる。ライトウエイトな軽快感に満たされていく。

船底の構造材はCFRPカーボン繊維強化プラスティック、ハルはGFRPバキュームインフュージョン、軽く強靭なハルが安定した走行性能を保証している。2200rpm30ノット、小気味よい加速が続く。スロットルを全開にする。2400rpm34ノット燃費325L/h、MAX2440rpm35.1ノット。向かい風5m、5名乗船。堂々たる成果だ。

フライブリッジでの操船はLC500コンバーチブルでオープンエアドライビングする感覚にクロスオーバーする。スポーティでエレガント。至福のオープンエアクルージングに酔いしれる。このまま東京セブンアイランド、伊豆七島をアイランドホッピングするクルージングに出かけたくなる。黒潮カレントをもビロードの海に変えるLEXUSライドの魔法にはまり込む。

下船し、ふと振り返る。西日を受けたLY650のシルエットが浮かびあがり燦然と輝いて見えた。孤高な気高さが麗しい。
