この記事をまとめると
■トヨタがポータブル水素カートリッジを開発し、実用化を目指している■しかし、水素を燃料として利用するにはさまざまな課題が残っている
■原理原則を見極めた科学的視点がなければ水素の燃料利用は徒労に終わるかもしれない
交換式の水素カートリッジで持ち運びも可能に
水素の将来的な活用に熱心な自動車メーカーであるトヨタは、ポータブル水素カートリッジを開発したとする。手軽に水素を持ち運び、生活圏の幅広い用途で使用することを目指し、ウーヴンシティをはじめ、さまざまな場所で実証を重ねて実用化を目指すとのことだ。
水素に対する期待や憧れは、世界的にもたれている。
そもそも水素はもっとも小さく軽い元素であり、ほかの元素で作られた容器の分子構造の隙間を抜けていく可能性がある。一時的な保存ができても、長期的に容量を維持するのが難しい。そうした燃料を、生活圏で持ち運びし、使うことが本当に安全なのだろうか?
水素を気体で使うのであれば、高い圧力で用いなければ十分なエネルギーを手に入れにくい。もし、液体で使うなら-253℃という超低温で保存しなければならない。かつて、BMWが液体水素を保温容器で車載し、水素エンジン車を走らせた。だが、保温容器とはいえ低温を維持できるわけではないので次第にガス化し、1週間保存できるかどうかで、なくなってしまうとした。
印象は好ましくても、取り扱いの難しい水素を保管し、なおかつ暮らしの中で利用するとなると、高度な技術を活用した容器となるはずであり、水素自体の価格も定まらぬなか、実証実験はできても実用化への道のりは長そうだ。はたして適正価格で広範に利用できるのか、原理原則を見極めた検証が必要だろう。
次に、既存の水素は、化石燃料から作られるため、脱二酸化炭素においてCO2排出の課題が残るが、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーを使う電力で水の電気分解を行えば、脱二酸化炭素の目的にかなった水素を入手できるとの説がある。
携帯性以外にもまだまだ多くの問題を抱える水素燃料
ところで、その水は、どういう水を使うのだろう?
再生可能エネルギーの利用は欧州で進んでおり、ドイツのボッシュは2020年代半ばまでに、水の電気分解を行うスタックを開発すると発表した。そこで、水は何を使うかを問い合わせたところ、ドイツ本社に確認した回答によれば、使う水に関しては水電解装置のメーカーへ問い合わせてほしいとのことだった。
以上のことから、日本のみならず、世界的に脱二酸化炭素にのみ焦点を当てた水素への期待があるだけで、基になる水はどのように入手するかの問いに答えていない。
一方で、気候変動はすでに世界各地で起きており、欧州ではアフリカ大陸からの熱波で気温が40℃に迫り、バングラデシュでは3日間で2000ミリを超える雨が降った。ウクライナでの戦闘も含め、食料が行き渡らない状況が現実であるなか、きれいな水を飲めない人が世界に22億人いるとされる。
もし、水の電気分解に飲み水を使うなら、それより先に安全で綺麗な水を飲めない人々へ供給することが命を守るうえで優先されるべきだろう。それに対する回答を、水素社会を推進しようとする人や企業は、誰も持っていない。これでは脱二酸化炭素はできても、持続可能な社会を目指すSDGsに反する取り組みになる。
この先、暮らしの鍵を握るのは、食料と飲料水と電力の3つだ。
既存の軽水炉に替わる、より安全な最新の原子力発電活用を含め、食料(作物など)や飲料水をエネルギー(電力)に転用してしまわない電力による社会の構築こそ、21世紀の未来を創っていくのだと思う。
原理原則を見極めた科学的視点がなければ、挑戦の志も徒労に終わるかもしれない。

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