この記事をまとめると
■電動車はもちろん、最近はスーパーカーもその多くがATを採用するようになった■とはいえMTが消えたわけではなく、スポーツカーを中心に一部車両に用意されている
■MTは燃費や効率で用意されるのではなくスポーツカーの象徴として戦略的に残されている
最近はMTを用意するクルマの存在感が目立つ
日本の運転免許制度に「AT限定」という条件が生まれたのが1991年だ。施行当時は、ごく少数のMT(マニュアルトランスミッション)の運転が苦手な層のみがAT限定を選んでいた印象もあるが、いまや新規で運転免許を取得する人の7割程度がAT限定を選ぶほどになっている。
実際、ハイブリッドカーやEVなどの電動車のほとんどはATであり、速さのパフォーマンスを追求したスーパーカーも2ペダルが当たり前となっている。
しかし、MTのスポーツカーが消えてしまったわけではない。当初はATだけの設定だったトヨタのGRスープラには、6気筒エンジン搭載車に6速MTが追加設定されることが発表された。

また、2021年にフルモデルチェンジしたホンダ・シビックの1.5リッターターボ車には6速MTモデルが設定されている。さらに、2022年9月に発売予定のシビックタイプRも2リッターターボエンジンと6速MTを組み合わせたパワートレインとなることがアナウンスされている。
GRスープラの6速MT車のメーカー希望小売価格は731万3000円となっているし、シビックの1.5リッターターボ車は、メーカー希望小売価格が319万円~353万9800円だ。

また、シビックタイプRにしてもスープラよりは安価な価格設定となることが予想されている。さらにいえば、日産もフェアレディZに6速MTを用意している。

こちらのスターティングプライスは524万1500円となっているし、日本を代表するスポーツカーであるマツダ・ロードスターにも6速MTは設定され、そのエントリーグレードは262万3500円とリーズナブルな価格となっている。
スポーツカーの象徴として残されているMT
特定の一社だけでなく国産メーカー各社が、手頃というには語弊があるかもしれないが、手が届く価格帯にMTのスポーツモデルを用意しているのは事実だ。その背景には、何があるのだろうか。
結論からいえば、市場が求めているからにほかならない。
ひと昔前は商用車といえばローコストで効率にも有利なMTという印象もあったが、いまや商用車の多くが2ペダル車になっている。商用1BOXの象徴的なモデルであるトヨタ・ハイエースの現行ラインアップでは、全グレードが6速AT仕様となっており、MTの設定は消滅しているほどなのだ。

その理由も、単純にユーザーがMTよりもATを求めるからといえる。ATと比べるとMTは渋滞での疲労が大きいのは否めない。また、MTは運転手のスキルによって燃費がよくも悪くも変わりやすいという傾向にあるのも、商用車でもATが増えている理由のひとつだ。
このように、商用車ではユーザーニーズによってATが主流となっている。これは乗用車の98%がATといわれるのと、ほぼ同じ理由といえるだろう。つまり、国産メーカーの多くは、ATが主流となることで燃費がよくなっている。
実際、GRスープラでみると、同じ3リッターターボエンジンで8速AT車の燃費は12.1km/Lなのに対して、6速MT車は11.0km/Lと一割程度悪化している。その背景にはWLTC測定モードの影響があることは否めないが、けっしてMTのほうが高効率というわけではない。MTはATより軽くて伝達効率に優れているとは言い切れない。

つまり、スポーツモデルにおいてMTが求められるのは、燃費や効率という点ではなく、「せっかくスポーツカーに乗るのであればMTに乗ってみたい」という趣味的マインドが強いといえるだろう。
MTを選ぶということは、自らの手でシフトレバーを動かし、足でクラッチペダルを操作する必要がある。そうした行為そのものがスポーツドライビングを体現しているという見方もあるだろう。手足をフルに活用するMTは、ドライビングという行為にスポーツ性を見出すにはわかりやすいメカニズムでもある。

販売の主力はATだとしても、MTを用意していることがスポーツカーのブランディングになるともいえる。当初はATだけの設定だったGRスープラがMTを追加設定したのには、ユーザーの声に応えたというのもあるだろうが、MTを設定していることがブランディングを高めることを期待しているという部分もあるだろう。