「免除が終われば病院へ行けない」「早く死にたい」――。能登半島地震被災者の悲痛な訴えが、アンケート調査で明らかになった。

アンケートを実施したのは全国の医師・歯科医師約10万6000人からなる全国保険医団体連合会(保団連)の加盟組織、石川県保険医協会。同協会によると、患者・介護サービス利用者、医療機関、介護事業所からそれぞれ5156件、112件、308件の回答が得られたという。
※ 調査の実施期間は5月8日~6月30日(ただし、患者・介護サービス利用者アンケートは8月3日まで実施された)

同じ被災地でも“格差”生じる

昨年1月に発生した能登半島地震後、半壊以上等の被害を受けた被災者には医療費の窓口負担や介護サービスの利用料が免除される特例が適用されている。
免除をいつまで実施するかは保険者が決定しており、石川県と同じく、震災によって被害を受けた富山県福井県の国民健康保険(国保)・後期高齢者医療では、7月以降も免除が継続されている。
一方で、石川県内の国保と石川県後期高齢者医療広域連合は、財政負担などを理由に6月末で免除を終了した。

「国は能登を見放したのですね」

患者・利用者を対象にしたアンケート調査では、医療費の免除終了で85.4%が「通院に影響がある」と回答。
具体的な影響としてもっとも多かった回答は「生活費を切り詰めて医療費に回す」が63.6%であり、「受診回数を減らす」(43.9%)、「受診せず我慢する」(27.8%)が続く。
「乳がんステージ4です。治療に費用がかかります。交通費と宿泊にも費用がかかるため毎月高額な出費です」
「老後資金を使い果たし、お先『まっくら』」
「家もなくなり、仕事もなくなり生活が苦しいです。国は能登を見放したのですね」
「震災後、3週間に1回の抗がん剤治療の回数を減らすこともできず、家は全壊。家賃を払うほど余裕なし。死を待つだけです」
自由記述には、このような切実な声が相次ぎ、なかには「早く死にたい」との記述も12件確認されたという。

医師が警鐘「災害関連死が現実に」

医療機関を対象としたアンケート調査の結果では、98.2%が免除対象患者を受け入れていると回答。免除終了後の患者の診療については74.5%が「影響がある」とし、特に地震による被害が甚大であった奥能登4市町(輪島市・珠洲市・穴水町・能登町)では88.5%にもなっている。

また、患者側のアンケートで「受診回数を減らす」「受診せず我慢する」といった回答が上位を占めていたのと同様、医療機関側へのアンケートでも「通院回数が減少する・受診控え」(32件)、「診療を中断する」(30件)と、受診抑制が起こるとの回答が最も多い結果となった。
加えて「必要な診療(投薬・検査)の拒否」との回答も14件に上っており「重症アトピーにもかかわらず、経済的理由で生物学的製剤を中止する」などの具体例も寄せられているという。
一方、被災したことや、仮設住宅・避難先での今までと異なる生活環境に対するストレス等により、健康状態が悪化する患者が増加し、平時より一層、医療ニーズは高まっている。
それでも、免除の終了に伴う「診療の中断・診療回数の減少」によって、患者が重症化する可能性があり、医療機関から次のような危機感が示された。
「被災後、当院では糖尿病や高血圧症などの生活習慣病の患者が震災前よりも増加している。これは被災者の食事やストレスが影響していると考えられるが、医療費の一部負担金免除によって受診しようと思ったからということも大きい。
免除の打ち切りによって、現状生活に支障の出ない疾病を抱えている患者さんが受診を控えるようになると推測され、重症化の恐れがある」
「受診や在宅ケアへの費用が住民にとって、特に仮設住宅での生活を余儀なくされている方は必要と分かっていても削減せざるを得ない出費となり、ひいては災害関連死増加につながりかねない状況です」

要介護者の身体機能低下につながる恐れも

介護事業所308件の調査では、66.6%が免除対象者の利用があると回答。今後考えられる影響としては「利用を減らす」63件、「利用を中止する」32件が上位を占めた。
また、利用減や中止によって、避難先で外出機会が減っている要介護者が、さらに閉じこもりがちになり、ADL(※)や体力の低下を懸念する声も上がっている。
※ Activities of Daily Living(日常生活動作)の略。食事や入浴など日常生活を送るために必要な活動

「8対860」延長望む声が大多数占める

先述した患者・利用者を対象にしたアンケート調査では、免除を「終了してもよい」という声はわずか8件にとどまった。
一方、物価高騰などの影響で、生活再建のためにかかる負担が増加していることや、震災を原因とした、通院に必要な移動コスト(時間・費用)増などから免除延長を求める声は860件に上った。
免除の復活には全額国負担の財政措置の復活や、財政措置の延長が必要となるが、石川県保険医協会は「東日本大震災においても、宮城県では震災から約2年後に国保と後期高齢者医療において医療費の窓口負担の免除が終了しました。
しかしその後、被災者の声により免除が復活しています」として免除の再開を要求。
保団連の担当者も以下のようにコメントした。
「今回、免除が打ち切りになった最大の原因は、国が昨年12月末、免除を行う保険者への、財政措置の一部(特例補助)を打ち切ったことで、被災自治体が持ち出しで対応しなければならなくなり、負担が増加したことにあります。
加えて、現在続いている、国による財政措置の期限も9月末までとなっています。
ですので、9月末までの財政措置を延長するとともに、その費用を全額国が負担するよう保団連としても訴えかけていきたいです」


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