昨今、「健康に良い」と謳(うた)われるさまざまな水商品が市場にあふれている。アルカリイオン水、水素水、シリカ水など、その種類は多岐にわたり、高額な価格で販売される商品も少なくないが、これらの商品には科学的な根拠が乏しいものも多いという。

一方で、私たちの生活にもっとも身近な存在である水道水は、その安全性やおいしさについて誤解されている面もある。
本記事では、東京大学非常勤講師、元法政大学生命科学部環境応用化学科教授の左巻健男氏が、「ニセ科学」的な水商品に共通する特徴を解説し、消費者が騙されやすいからくりを明らかにする。
また、水道水を含めた「おいしい水」「安全な水」とは一体どのようなものなのか、科学的な観点からその条件を紐解いていく。
なお、科学的な事実に基づかない言説は、時として社会に混乱をもたらす。特にSNS時代の今、安易な発信や拡散は法的リスクをともなう可能性もあり、注意が必要だ。
※ この記事は、左巻健男氏による著作『陰謀論とニセ科学 - あなたもだまされている -』(ワニブックス【PLUS】新書、2022年)より一部抜粋・構成しています。

ニセ科学的「水商品」──3つの特徴

私が考えるニセ科学的な水ビジネス商品には、アルカリイオン水、π(パイ)ウォーター、磁石を使って磁化処理した磁化水、電気石による創生水、波動水、酸素水、水素水、シリカ水、宝石水、電子水、酵素ジュース、微生物の発酵生成物から成分を抽出した水などがあります。
水そのものや水に入れる物質を販売する場合もあれば、整水器、活水器などの製造器を売る場合、「波動カウンセリング」と称することをして波動共鳴水を売りつける場合など多種多様です。
それぞれの水商品のニセ科学性には濃淡の違いこそありますが、これらには共通して次のような特徴があると考えています。
①「水を飲む選択肢」以外に、十分な根拠のある効果効能を有したものがない
②中身のほとんど大部分は水道水や地下水なので、ほかの健康食品・サプリメントと比べるとずっと副作用が少ない(だから問題になりにくい)
③原価は非常に低いが販売価格を高額にしやすい
これらの中で②の「副作用が少ない」は、問題になりにくいということです。
健康食品・サプリメントには時に健康障害を起こすものも多々あります。私が見るところ、多くのニセ科学的水商品は水道水を飲んでいるのと変わりません。ただ購入者からは、次から次へとお金が失われていきます。

多くはもっとも認定が緩い「機能性表示食品」にもなっていない、単なる清涼飲料水です。「薬機法」や「景品表示法」にぎりぎり違反しない範囲で、曖昧に効能らしきことを述べるだけです。

「おいしい水」「安全な水」の条件

井戸水や湧き水がおいしい第1の要因はそれらが冷たいからです。水の温度は、水のおいしさにとって大事な条件なのです。少しまずい水でも冷やしてしまえば、まずさはかなり減ってしまいます。
1960年代後半から、水道水のかび臭や塩素臭などの問題がクローズアップされて、水道水がまずくなったという苦情が各地で発生したため、厚生省(当時)は「おいしい水研究会」をつくりました。
その「おいしい水研究会」が1985年4月に「おいしい水の条件」を発表しました。その研究結果から、温度が「おいしい水の条件」の第1番目にあげられています。適温は10~15℃くらいです。
また、おいしい水は、味を良くする成分を含んでいて、味を悪くする成分を含まない水です。味を良くするのは、とくに「カルシウム、マグネシウムをはじめ、ナトリウムやカリウムなどのミネラルです。多すぎても少なすぎてもダメで、1リットル中に30~200ミリグラムがちょうどいい。
なかでも100ミリグラムぐらいのミネラルを含む水がまろやかな味になる」ようです。
さらには「カルシウムとマグネシウムの硬度合計量の適量は1リットル中10~100ミリグラムぐらいで、なかでも50ミリグラム前後が多くの人に好まれる」、そして「二酸化炭素が十分に溶けていると水に新鮮でさわやかな味を与える」とのことです。
結局、おいしい水の3条件は「水温、ミネラル量、二酸化炭素」ということになります。水道水も適温の10~15℃の場合、いわゆるミネラルウォーターと味が変わらないものが増えてきました。
とくに東京・大阪などの大都会でオゾンなどを使った「高度浄水処理方式」に切り替えたものとか、旧来の方式でも水道水の原水がきれいなら味が良いです。
かつて、大都会の水道水はまずかったです。家庭排水などがたくさん流れ込んだ下流の川の水を原水にして、塩素を使って汚れを分解する「急速ろ過方式」でした。そのときに汚れの成分と塩素が結びついた、独特な臭い物質が含まれていました。そこで塩素ではなく、オゾンを使って汚れを分解する高度浄水処理方式に変更したのです。
健康に良いとする水の販売業者は、水道水の危険性を強調します。ところが飲み水でもっとも安全性がきちんと確認されているのは水道水なのです。いわゆるミネラルウォーターというボトル水は、水道水に比べると調査される成分数はずっと少なく、調べられている成分の基準も水道水と同程度もしくは緩いです。

基本的には飲んで害がなければよいというだけです。ようするに「水道水は毎日飲むものに対してボトル水はたまに飲むもの」ということで基準が異なるのです。
もしも水道水の原水の水質が悪く、急速ろ過方式による水道水の味に不満があれば、浄水器を設置するとよいでしょう。


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