「長生きできない」「貯金が目減り」75歳以上高齢者の“医療費負担”配慮措置が今月末で終了 全日本民医連が実態調査
75歳以上の医療費窓口負担の「2割化」が2022年10月に開始されてから3年、また、その負担軽減のための「配慮措置」が今月末で終了するのを前に、全日本民主医療機関連合会(民医連、約1700の医療機関・事業所が加盟)は、2割負担となった全国の75歳以上の高齢者に対しアンケートを実施。
都内で9月26日、会見を開き、医療費の「2割負担」が高齢者の生活、さらには受療権(憲法25条が保障する良質な医療を受ける権利)に悪影響をもたらしているとして、高齢者が置かれた厳しい経済的状況を伝えるとともに、「2割化」実施前の1割の負担割合に戻すことなどを国に求めた。
(ライター・榎園哲哉)

約1万6000件の回答が寄せられる

民医連によるアンケートは、措置開始翌年の2023年3月に行ったのに続いて2度目。
今回は今年1月から3月にかけて、「75歳以上で医療費2割負担となった高齢者(一部1割・3割負担者等含む)」を対象に実施。42都道府県から約1万6000件の回答が寄せられた。
2022年10月の措置開始から3年間実施され9月末で終了する「配慮措置(※)」に関することなど、設問数は全9問、自由回答も受け付けた。
※1か月の外来医療の負担増加額を3000円までに抑えた。たとえば、外来医療費5万円で窓口負担2割(1万円)の場合、1割(5000円)であったときからの負担増5000円を3000円までに抑え、その差額2000円を払い戻していた。

高齢者の窓口負担、なぜ一部で1割→2割に?

窓口負担の「2割化」には、どのような背景があったのか。
厚労省の発表資料によると、①2022年度以降、団塊の世代が75歳以上となり始め医療費の増大が見込まれる、②後期高齢者(75歳以上)の医療費のうち、窓口負担を除く約4割は現役世代の負担となっており、今後も拡大していく見通しとなっている――ことから、「現役世代の負担を抑え、国民皆保険を未来につないでいく」ために、負担割合を見直した。
「2割化」の対象は75歳以上等(一部65~74歳も含む)のうち一定以上の所得(※)がある高齢者で、後期高齢者医療の被保険者全体の約2割(約310万人)にあたる。1人あたりの年間の平均引き上げ額はおよそ9000円と推計されている。
※課税所得が28万円以上、かつ年金収入(遺族年金、障害年金は含まない)とその他の合計所得金額が単身世帯の場合200万円以上、複数世帯の場合計320万円以上
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後期高齢者医療被保険者の約20%が「2割化」の対象に(厚労省HPから)

一方で、前述したように対象者に対しては、「配慮措置」も設けられていた。

1割が「受診をためらうようになった」

「2割化」の対象となる後期高齢者は被保険者全体の約20%、所得でいえば上位に含まれる人であり、この数字だけ見ると、経済的に「恵まれた」階層に属するようにも見える。
しかし、民医連の岸本啓介事務局長は、この認識には誤解があり、実際には、約20%に属する高齢者の生活実態が非常に厳しいことを指摘する。
「アンケートから高齢者が医療にアクセス(通院等)するために、食費や生活費を削りながら生活している状況が顕著に表れた」
同・山本淑子事務局次長は、アンケートの数値等を基に個々の状況を詳しく説明した。
「医療費(負担)が2割になってからの負担感」についての問いには、「とても重い」「重い」と回答した人が合わせて59.9%と約6割に上った。

「医療費が増えたことで当てはまるものは(複数回答)」の問いでは、「今まで通り受診している」が74%と多数を占めたが、一方で「預金を切り崩している」(20.1%)、「食費を削った」(12.9%)、さらには「受診をためらうようになった」(10.6%)の回答も少なからず集まった。
配慮措置も十分に“機能”していないことが明らかになった。同措置は各家庭に郵送などで知らされ、厚労省HPでも情報を公開していたが、十分に周知・理解されていなかった。
同措置の手続きについて聞いたところ(複数回答)、「手続きをしなかった」「手続きの仕方が分からなかった」が合わせて57.8%に上った。
高齢となり医療機関等を利用する機会が増えるにもかかわらず、医療費負担も重くなる。そうした現状に対し、自由回答でも「2割負担はとてもきつく、子どもたちの支援が必要となる」「90歳になりました。今になって医療費が上がるようでは長生きしなくてもいいと考えさせられます。年寄りは早くあの世に行けというのでしょうか」「貯金が目減りするなか、食品価格が怖いくらい上昇し、不安で仕方ない」など、切実な“声”が寄せられた。

「すべての世代で医療を受ける権利の保障を」

石川県金沢市からオンラインで会見に参加した民医連副会長の柳沢深志医師は、「(高齢者にとっては)窓口負担が非常に重いと思われる。かなり多くの方が受診や検査をあきらめる、ためらう、医療行為を減らすということを選択せざるを得ないような状況にある」として、受診控えが健康に及ぼす懸念を語った。
また、山本事務局次長は、「(厚労省は)高齢者に負担能力があるのか、負担増が可能なのか、しっかりと調査し、生活実態に寄り添った施策をぜひ検討していただきたい」と述べた。
さらに、現役世代が支える後期高齢者医療制度について、「高齢者と現役世代の対立をあおるのではなく、すべての世代の生活の安定と医療を受ける権利の保障を実現してほしい」とも訴えた。

民医連は石破茂首相、福岡資麿厚労相に対し、①配慮措置について2025年10月以降も継続すること、②配慮措置の手続きを簡略化し、対象者が漏れなく手続きできるようにすること、③2022年実施前の一部負担割合に戻し、一部負担金の徴収をやめること――を求めた要望書も提出した。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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