
千葉県鎌ケ谷市長を5期19年務め、その日常を赤裸々につづった『市長たじたじ日記』(三五館シンシャ発行)の著者でもある清水聖士氏は、市長経験者として2人の今後を予想。両極端といえる見立てで、それぞれに待ち受けるこの先の市長としての試練を展望した。
伊東市長は「普通の神経でない」
「普通の神経ではない市長だ」清水氏はあきれたように言い放った。その矛先は19日の市議選で惨敗を喫した伊東市長の田久保氏だ。清水氏は市議選について、いわゆる田久保派の擁立は難しく、辞職回避となる7人の当選は現実的でないと見通していた。
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「7人の田久保派を当選させる戦略があって議会を解散したのならまだわかりますが、どうもそういう戦略がまったくないまま議会を解散したようだ。これでは本当になんの意味もなく、6300万円の市民の血税をドブに捨てただけの話」
清水氏は、そもそも田久保市長が辞職せず市議会解散を選んだことを「暴挙」としていただけに、その市議選で無策のまま敗れ去ったようにみえた結果に、市長経験者として信じがたい無責任さを感じたようだ。
なぜ市長にしがみつくのか
こうなると辞めない理由は単に延命のため、との見方をされても仕方のない気もするところ。「不信任案の再議決は不可避な状況なのに、田久保市長がこの期に及んで自ら辞職しない理由として合理的に考えられるのは、ただ単に1日分でも多く報酬を得たいからということ以外、思い当たりません。
私も経験しましたが、市長の月給は在任期間に基づいた日割りです。12月のボーナスは12月1日に在職していれば満額もらえます。私も市長退任は6月10日でしたが、夏のボーナスは満額でした。
また、退職金は在任の月数に基づき、各月の1日に在職していればその月の分はもらえます。
今のところ、10月31日に臨時議会が開かれると報じられていますが、地方自治法101条によれば、市長は議会から議会招集の請求があれば請求の日から20日以内に議会を招集しなければならない、となっています。
もし、田久保市長があの手この手で議会の開会を遅らせようとすれば、その理由は、12月1日まで粘ってボーナスを受け取るためと解釈するほかないでしょう」
もしこの予想が現実になれば伊東市民にとっては悪夢だろう。一度は支持した市民がいるにせよ、現在はその多くが失望しているとみられ、一日も早い市長交代を望んでいるはず。ところが、その逆のシナリオを市長が画策しているのだ。
出馬の場合、田久保氏の市長選のVあるのか
清水氏はさらに田久保市長の今後について、「まさかの展開」も予想する。辞職後の市長選への出馬の可能性もあるなか、当選する可能性もゼロではないというのだ。「田久保市長はこのまま失職の公算が高いですが、その後の市長選に出るようです。市議選で市民の審判は下りましたが、私は当選する可能性はゼロではないと思っています。
まず、いまや田久保氏の知名度は圧倒的ですから、もし、反田久保側が複数に割れた場合は当選の可能性が出てきます。
また、兵庫県知事選のように、もしもSNS戦略が功を奏した場合は、兵庫県の再現もあるかもしれません。
反田久保側は、結果を出すには有力候補を一本化することが肝要ですが、これだけ騒がれた伊東市ですから、市内居住用件のない市長選挙には、全国からいろいろな候補者が出馬して、混沌とする可能性もあります。その場合、票が分散すると結果的に田久保氏当選の可能性が若干高まることになるでしょう」
あらゆる行動が、市民から見ればプラスには働いていないものの、良くも悪くも我が道を突き進む田久保市長。
前橋市長は「辞めなくていいのでは」の根拠
「辞めなくていいのでは」との理由は?(前橋市ホームページより)
一方、前橋市の小川市長は17日に、辞職はせず、自身の報酬50%カットを表明した。これらの行動も踏まえ、清水氏は小川市長について「辞めなくていいのではと思っていた。あとは、議会がどういう対応に出てくるかを見守りたいと思います」とした。
「ここ最近の経緯を見ていて思ったのは、『男女の関係はない』というのはウソではない可能性があるということ。
相手の男性職員の事情説明文書を読んで、『当該ホテルでは女子会等も行われているので、そのホテルで相談を行っても問題ないと思ってしまった』という点は、極めて稚拙な判断だとは思うものの、そういうおかしい判断をしてしまった『過失』ではあっても、男女間の『不倫』ではないという解釈も一応は成り立ち得ます。
小川市長の側も、過失はあっても、故意の不倫はしてない、と言いたのではないでしょうか。そうであれば、市長を辞めるほどの大きな判断ミスではない、と小川市長は考えているのでは、と推測します。
また、『過失はあっても不倫の事実はない』という主張を議会側が物的証拠をもって覆すことは事実上困難なので、辞めなくてもいい、と考えたのではないでしょうか」
相手の配偶者が「許した」ことの影響
ネット世論の大勢は、相談名目ながら複数回のラブホ通いで「男女関係なし」は無理筋としているが、清水氏は辞めるほどの判断ミスではないかもしれないという。「小川市長は明らかにすべきことを明らかにしてないという指摘もありますが、『男女関係がない』ことをこれ以上調査しても覆しようがないので、このまま職にとどまる可能性があると思います。
当該男性職員の配偶者の方がコメントを発表したのも大きなインパクトがありました。『主人の発表した内容は事実であると受け止めている』ということですから、『男女の関係はなかった』と信じているということです。
また、『小川市長に対して今回の件に関し快く思わない面もあります』が、『小川市長を訴えることは考えていませんし、謝罪も望んでおりません』と言うのですから小川市長を許す、ということです。今回の件で一番の被害者はこの配偶者の方ですから、彼女が許すとなれば、市民や議会の受け止め方も厳しさが減るのではないでしょうか。
コメントを発表した弁護士を通じて、もしかすると小川市長側から配偶者の方に慰謝料や示談金などを支払うとの合意がなされているという説がネットでも流れていますが、そうであっても、当人が小川市長を許すと表明した事実は大きいと思います」
続投表明の小川市長の今後
逆風はややおさまりつつあるものの、いまだバッシングは絶えない。そうした中、小川市長の今後について清水氏は次のように展望する。「今後は前橋市議会の出方次第になりますが、不信任決議が出される可能性は幾分減ったかと思います。当該職員やその配偶者の方の言い分も踏まえるでしょうし、『ホテルに行ったのは過失であり、不倫の事実はない』とする市長の主張を覆す証拠は出せないからです。
一つのシナリオとして、市長から出される報酬50%カットの条例案に対し、場合によってはその削減率を増やし、それを可決しつつも、議決の際の付帯決議として『今後、市民の信頼を失うような軽率な行動は厳に慎むこと』などという文言を付す可能性もあるかと思います。
ただ、それが可決されてしまえば、『みそぎ』は済んで、あとは小川市長の仕事ぶりを見守るということになるかと思います。市長の公務には徐々に復帰すると思います。
とはいえ、まだ市議会各会派の対応は決まってないようですから、不信任決議案が出される可能性はあります。それが出されて可決される可能性があると小川市長が判断すれば、辞職して再選挙に臨むでしょう。一方で、市議会も、伊東市の議会解散ケースがあるので、不信任決議案を出すのは若干躊躇すると思います」
市長経験者としての清水氏の見立ては、田久保市長、小川市長で両極端といえる内容となった。果たして2人のお騒がせ市長の騒動は市民が納得する形で決着を迎えることができるのか…。
<清水聖士(しみず・きよし)>
1960年、広島県生まれ。