もし今年も60年前と同様の現象が起こり生まれてくる赤ちゃんの数が減るなら、日本社会にとっては致命的な打撃となるおそれがある。
本記事では、計量社会学者・吉川徹教授(大阪大学)の著書『ひのえうま 江戸から令和の迷信と日本社会』(2025年、光文社新書)から、「妊活の時代」におとずれた令和のひのえうまにおける出生数について考察した箇所を抜粋して紹介する。(本文:吉川徹)
毎年がひのえうま
2026年は「令和のひのえうま」です。いったいどうなるのでしょうか?『ひのえうま 江戸から令和の迷信と日本社会』で明らかにしてきた事実を総合して、現代日本社会を分析しましょう。まず、昨今の出生行動について基本的な事実を確認します。
今わたしたちは少子化の只中にいます。年間出生数は右肩下がりの減少傾向にあり、足元では一段の深刻化の兆しをみせています。2021(令和3)年に約81万人であった出生数は、2022(令和4)年には大きく減って約77万人、2023(令和5)年の出生数は、人口動態統計をとり始めてから最も少ない72万7288人となりました。
60年前の昭和のひのえうまのとき1・58で大騒ぎになった合計特殊出生率は、なんと1・20にまで落ち込んでいます。
この状況は、おりから進行していた少子化に、2020~23年のいわゆるコロナ禍がさらなる打撃を加えたために生じているものです。医療体制への不安から、赤ちゃんを授かることを考えていた夫婦が妊娠をためらったことと、直接の接触や出会いの機会が失われたため、新たに結ばれるカップルが減ったことがその要因であるとされています。
コロナ禍の余波は依然として残っているようで、2023(令和5)年の婚姻件数は、50万組を超えていた前年から約6%落ち込み、48万9281組でした。
そのため第一子の出生が前年よりも減る可能性が指摘されており、2024(令和6)年の出生数は、厚生労働省公表の速報値から、約68万7000人と推定されています(執筆時)。
編集部注:2025年12月、日本総研が「2025年の出生数は前年比3.0%減の66.5万人に、婚姻数は前年比横ばいの48.5万組になる見通し」と発表
歴史を顧(かえり)みると、天明のひのえうま(1786年)は、幼い子どもの命を守れないほどの大飢饉の最中であり、明治のひのえうまは、国を挙げて成人男性を動員した日露戦役の影響下にあったため、ともに出生減は小規模にとどまりました。
対して昭和のひのえうまは、ゆるやかな出生増の途上の出来事であり、前後の年に振り分けの山を作りつつ、その年に限って妊娠が回避されたという現象でした。
令和のひのえうまは、明らかに前者に似た状況、すなわちすでに抑制の力がかかっている状態で迎えるひのえうまだとみることができます。川柳にするならば、「毎年が ひのえうまかな 令和の世」となるところです。
少子化の主因は「母集団」の縮小
現代日本の少子化の要因として考えうることは、整理すると二つあります。第一は、子どもをもつライフステージにある男女が実際に授かる子ども数です。欧米などとは異なり、東アジアでは出生のほとんどが既婚の夫婦間に生じます。そこで、既婚夫婦が生涯にもつ子どもの数(完結出生児数)をみると、ほぼ2人前後で、確かに60年前の2・65人(1967年出生動向調査)と比べると少ないですが、ここ20年ほどは横ばいの状態を保っています。
有配偶出生率(15~49歳の有配偶女性1000人に対する出生数)をみても、過去40年ほど、数値は大きく変化していません。これらの数字は、個々の世帯の子どもの数が少なくなったことが、昨今の少子化をもたらしているわけではないことを示しています。
第二は、子どもをもうけるライフステージにある男女の数そのものの減少です。研究者が一様に指摘している、現代日本の少子化の根源的課題はこちらのほうです。
ひとつは若年人口の総数が減少しているという、いわば「産む世代の少子化」です。もうひとつは、その世代で未婚化・晩婚化が進んでいるために、既婚夫婦の数が少なくなっているということです。
産む世代の人口減は、少子化がいわれ始めた初期のころの赤ちゃんたちが、親となる年ごろに至ったために生じていることです。昭和のひのえうまの合計特殊出生率の低さを参照して「1・57ショック」といわれたのは平成初年でしたが、さらにその後に生まれた男女が、現在すでに30代に至って、出生数のカギを握っているのです。
時代経過を顧みると、このときの少子化は、人口が多い団塊ジュニア世代が出産する年齢に至っているにもかかわらず、人口ピラミッドに3波目のエコーブーマーが現れなかったという現象でした。【図】の人口ピラミッドを見ると、30歳前後のところがごくわずかに膨らんでいるだけだということがわかるはずです。
【図】日本の人口ピラミッド(『ひのえうま 江戸から令和の迷信と日本社会』から転載)
説明がややこしくなりましたが、親のほう、つまり団塊ジュニア世代は、社会に出る際にバブル後の就職氷河期に直面した人びとです。同年人口が多く、高等教育進学率も高まり、大学新卒者の人数が多くなっていたにもかかわらず、おり悪しく不況期にかかったため、新卒求人が少なかったのです。
さらにその後の「失われた10年」などといわれた停滞期においては、非正規職就業が続いたり、転職が多かったりしました。そのため、社会に出てからも安定した生活状況に至らない若年層(当時)が多くいました。
こうした状況から、若年雇用についてニート、フリーターという言葉が用いられるようになり、30代になっても親に経済的に依存したままの状態にとどまっている、パラサイト・シングルが少なからずいることも指摘されました(山田昌弘『パラサイト・シングルの時代』、1999年、筑摩書房)。
女性については、そのような恵まれない社会経済的状況のなかで、20代後半の正規雇用率が増大するなど、就業参加が一段と進みました。このことも、若年期に結婚して子どもをもつことを回避する一因になったと考えられます。
そのためこの生年世代では、結婚が遅れたり未婚のままであったりする人の比率が高くなり、結婚している夫婦でも、子ども数がそれ以前よりもやや少なく抑えられました。3波目のエコーブーマーが現れなかったのはそういう事情なのです。これは四半世紀以上前の後戻りできない出来事であり、今さら対策を講じることはできません。
結果として、今赤ちゃんを産み育てる「主力」と目される20代前半から30代中盤の男女の総数は、おおよそ1900万人前後しかいないのです。昭和のひのえうまのときは、これが約2600万人だったのですから、日本社会全体の子どもを産む潜在能力は、60年間でおおよそ7割に縮小しているのです。
加えて、このカギを握る世代が、またしても未婚化・晩婚化傾向にあるのです。
昭和のひのえうまは、女性の未婚率が2%ほどの皆婚社会といわれる状況における現象でした。ところが今、結婚している女性の比率(有配偶率)は、20代後半で30%、30代前半で50%ほどです。男性の未婚化・晩婚化はさらに深刻です。そういうわけで、少子化に対して策を講じうる課題は、ひとえにこの若年層の未婚化・晩婚化だということになるのです。
現状では、20代中盤から30代中盤の既婚女性の数、つまり実質的に妊娠を考えうる人の数は、約300万人であり、60年前のほぼ半数です。まさに「母集団」が少なくなっているのです。
昭和のひのえうまは、周辺年の年間出生数が170万人前後の水準にあったときに、約50万人規模の出生数の一時的な減少があったという出来事でした。これに対して、令和のひのえうまでは、そもそも「母集団」が少ないために、前後の年の出生数が半数以下の約70万人になっているというわけです。
ここで万一、昭和のひのえうまと同じ規模の出生減が生じれば、年間出生数は約25万人になってしまうわけですが、それはありえないことです。事実上は、2026(令和8)年に10万人程度の出生減があれば、人口ピラミッドに切り欠きが残ることになるでしょう。
妊活の時代
以上から、令和のひのえうまで一時的な出生減が生じるかどうかは、子どもをもうけるライフステージにある夫婦の動向次第であり、出生減の規模は、もし本当に生じるとしても5~10万人ほどだと予想されます。そして、突き詰めるとこれは、若年の既婚夫婦が妊娠・出産を、どれほど抑制するかがカギとなっているということができます。
この年の出産が回避されるというとき、その手段については、昭和のひのえうまのときにすらほとんど生じなかった結婚延期、妊娠中絶、出生日の届出変更を考える必要は、もはやありません。現代日本の新生児出生の実質的な焦点は、ひとえに受胎調節なのです(※)。
参考記事:「昭和のひのえうま「史上最大の出生減」の原因は“意識高い系”の「産み控え」? 真相は…
受胎調節の方法と知識の普及にかんしては、この60年間で状況が大きく変わりました。まず、昭和のひのえうまの出生減の隠れた立役者であった組織的な受胎調節実地指導は、すでに遠い過去のものとなっています。
若い世代の人たちは、学校での性教育で生殖についての基本的な知識を身に付けており、男女を問わず、赤ちゃんを妊娠しないようにするには、どうすればよいかを知らない人はほとんどいない状態になっているのです。
ちなみに、昭和のひのえうま前夜の雑誌報道をみると、大人たちに対して、まことしやかに男女の産み分け方が解説されていたりします。それが今では、小学生がDNAという言葉を使う時代になっているのです。
さらに現在、妊娠回避には、経口避妊薬(ピル)の常用や、緊急避妊薬の事後服用(アフターピル)という、容易で確実性の高い方法が用いられ始めています。産む主体である女性による受胎のコントロールが可能になっているのです。
そんな今、妊活という言葉があります。
10年ほど前から耳にするようになった言葉で、多くの情報を得て周到に準備をする動きを意味する「〇活」のひとつです。
カップル(既婚夫婦・事実婚夫婦、あるいは同棲中の男女)が子どもを授かろうと考えたとき、なすがままに任せるわけではなく、さまざまな生活上、身体上のタイミングを考慮し、ときに生殖医療技術にも頼りつつ、法的・倫理的制限も視野に入れて、積極的に「活動」することを指しているのです。
今、母親になろうとする女性は、自身の出産年齢はもちろん、職業キャリアの状況に合わせて、出産(産休・育休)のタイミングを考えなければなりません。
父親となる男性もまた、育休のタイミングを考慮する必要があります。そして、少子化対策で取り組まれているとおり、経済的な理由や育児負担の大きさから、子どもをもたない、あるいは子ども数を抑制するということも多くなっています。
具体的にいえば、次のような例が考えられるでしょう。
30代既婚女性で、2歳の第一子がいるというケースで、第二子の出産を考える場合、昇進や配属部署の異動などの自分の職業キャリア上のタイミングと、産休・育休のタイミングを考慮する必要があります。
そうすると、「今年の暮れに産んで、来年4月に職場復帰するしかない」、などというように10ヵ月以上前から熟考し、自分の月経周期を考えて、ワンチャンスの受胎のタイミングを計ることになるのです。それ以外のタイミングで赤ちゃんを授かってしまうと、大なり小なり不都合が生じてしまうからです。
20代前半の既婚女性が、第一子の出産を考え始める場合であっても、現在の世帯の経済状況、将来の子どもの学費、家族の状況など、考慮すべき要因はやはり複数あります。晩婚で40代の夫婦が、子どもを授かりたいというときにも、もちろんさまざまな条件を検討するでしょう。
あるいは「生まれ月が遅いと、小学校低学年時の学習適応で不利だという教育経済学の研究結果があるので、4月生まれか5月生まれが望ましい」というような子育て戦略を熟考した周到な出産計画も、この局面で考えられることです。
忘れてはならないのは、子どもが欲しくても授からないという夫婦、あるいは単身女性で、不妊治療をはじめとする様々な方法を試みて、赤ちゃんを得ることを切に願っている人たちもいるということです。
いずれにせよ、いつ赤ちゃんを産むかは、当事者においては、すでに十分すぎるほど考慮されていることなのです。昭和のひのえうまの時代に、次子の出生間隔を空けたり、多子を避けたりすることの必要性と方法が、助産婦(受胎調節実地指導員)たちによって啓蒙されていたのとは、まさに隔世(かくせい)の感があります。
産まないようにするにせよ、タイミングを計って産むにせよ、その事実上の内実は受胎調節です。産まないほうにコントロールすれば避妊となるのですが、これを産む方へとコントロールするのが妊活なのです。
ここからは次のことが推察されます。
若い既婚夫婦が「妊活をしていない」というとき、それは、不用意に子どもをもうけないように心掛けていることを意味します。
すなわち、現代日本は、放っておいたら若い夫婦には赤ちゃんができてしまうという状態にあるわけではなく、「妊活していない」というデフォルト状態では、大半の若い既婚夫婦は、さまざまな手段による避妊にせよ、セックスレスにせよ、意図的に妊娠を避けているという、バースコントロールが徹底した状態にあるとみることができるわけです。
ですから、身もふたもない現実として、少子化対策とは、既婚夫婦に避妊をやめてもらえる社会環境を整えることだということができるでしょう。
令和のひのえうまで、その逆の動きである出生減が起きるとすれば、「若い既婚夫婦が、避妊をやめるのをやめる」ケースが、何らかの共通の動機を「引き金」として、数万件という規模で生じるというのが唯一の筋書きとなります。
赤ちゃんの数はすぐには動かせない
新生児の出生に至るまでには、この妊活をするための日数に加えて、約280日の妊娠期間が必要です。これは短縮することができません。ひのえうまの年に子どもを産むにしても、産まないにしても、1~2年前から「準備期間」を見込まなければならないのです。現状では、限られた数の若い既婚夫婦が、さまざまな動かしがたい事情と時間的制約をふまえて、やっとのことで妊娠出産に至っているのですから、少子化対策によって赤ちゃんの数を速やかに増やすにせよ、ひのえうま忌避で一定期間の出産を抑制するにせよ、即効性の対応策はありません。
ただし、第一子出生については、「授かり婚」、「おめでた婚」といわれる、妊娠を見極めてから入籍するケースがあることに目を配っておかなければなりません。これは「でき婚」(できちゃった婚)などといわれ、一時期さかんに注目されたのですが、その数が最も多かったのは20年ほど前で、現在は徐々に減っています。
それでも2019(令和元)年人口動態調査によれば、第一子出生の18・4%ほどが、入籍後9ヵ月以内の出産となっています。
「授かり婚」は、潜在的な既婚夫婦である未婚カップル、もしくは事実婚カップルにおける第一子出産です。既婚夫婦の数に含まれていないところから生じるケースですから、もしこの数が大きく動けば、土壇場で令和のひのえうまの出生減が起きる可能性が考えられなくはありません。
けれども、ことがらの性質を考慮すると、ひのえうま出産を避ける意図で、周到に「授かり婚」の前倒しや先送り、あるいは「授かり婚」回避をするというのは考えにくいでしょう。関係が長期に安定していて、そこまでの計画性をもっているカップルならば、まず入籍するはずだからです。
よって、「授かり婚」、すなわち現在未入籍のカップルからの新生児出生数は、前後の年とおおよそ同じ数で推移するものと予想されます。令和のひのえうまにおいて、その増減がこの年だけの人口ピラミッドの「彫琢」に関わることはないと考えてもよいでしょう。
というわけで、わたしたちは現時点ですでに令和のひのえうま現象の入り口に立っているといえます。「どうなる?」と冒頭で問いましたが、もはやわたしたちは限られた数の若い既婚夫婦の動向を静観するほかはなく、あとは2027(令和9)年に確定数が公表される、当該年の人口動態調査の「開票速報」をみるだけなのです。
■吉川徹(きっかわ とおる)
1966年生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了。計量社会学を専攻。現在、大阪大学大学院人間科学研究科教授。同大学行動経済学研究センター教授(併任)。主な著書に『日本の分断~切り離される非大卒若者たち~』(光文社)、学歴と格差・不平等』(東京大学出版会)、『階層化する社会意識』(頸草書房)、『学歴社会のローカル・トラック』(世界思想社)、『階層・教育と社会意識の形成』(ミネルヴァ書房)。

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)
![[コロンブス] キレイな状態をキープ 長時間撥水 アメダス 防水・防汚スプレー420mL](https://m.media-amazon.com/images/I/31RInZEF7ZL._SL500_.jpg)







![名探偵コナン 106 絵コンテカードセット付き特装版 ([特装版コミック])](https://m.media-amazon.com/images/I/01MKUOLsA5L._SL500_.gif)