日本の社会保障制度には、数多くの綻(ほころ)びがある。その綻びは、憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を営めない状況、すなわち、肉体的には死んでいないけれども、何らかの意味で「生きていけない」人々のいる状況を生み出す。

2014年に設立された「つくろい東京ファンド」は、現在、「制度のはざまにある日本人・外国人の住まいと健康を支えたい!」というテーマでクラウドファンディングを行っている。制度の穴を、どのように繕(つくろ)おうとしているのだろうか。(みわよしこ)

合言葉は「住まいは人権」

つくろい東京ファンドは、2014年に設立された。当初の活動は、「住居を基本的人権として最優先に保障すべき」という“ハウジングファースト”の理念に基づき、住居を喪失している生活困窮者に、落ち着ける一時居住の場を提供することであった。
快適でプライバシーの保たれる個室シェルターを提供し、賃貸アパートでの生活への移行を無理なく支援する活動は、当時としては画期的だった。
その活動は現在も継続されているが、2020年のコロナ禍以後、支援ニーズは拡大する一方だ。そして、既存のセーフティネットの想定外や対象外となる多数の人々の苦境が表面化してきた。
生活保護のような公的制度を利用できない人々の生存を支えるには、生活・住居・教育・医療などを幅広く支える費用が必要である。公費を利用できない以上、民間団体が資金を調達するしかない。今回のクラウドファンディングも、そのような背景のもとで開始された。
クラウドファンディングページ「制度のはざまにある日本人・外国人の住まいと健康を支えたい!」に掲載されている事例から、制度の綻びと背景を検証してみよう。

失業から「死ぬかも」までの短すぎる距離

1番目の事例は、持病で働けなくなって路上生活をしていた70歳代男性だ。男性は長らく建築現場で働いてきたが、持病と関連して仕事を失った。さらに、妻に先立たれて独りになり、路上生活をしていた。

幸い、つくろい東京ファンドの運営する個室シェルターに入居することができた。その直後に生命の危機となる症状があらわれたものの、早期発見によって命を失わずに済んだという。
無年金・低年金によって高齢期にも就労を継続せざるを得ない人々が就労できなくなった場合、傷病手当金と失業給付を使い切ると、生存の手段は生活保護一択になる。職場が「社保完」でない場合は、いきなり生活保護一択だが、「失業したから、生活保護を申請しよう」と躊躇(ちゅうちょ)なく踏み切れる人は少ない。
このため、失業して収入を喪失することが、住居の喪失にもつながりやすい。家族を失って独りになるという不幸が重なれば、住居を維持する意欲を失うこともある。路上生活となると、国民健康保険料の納付を求める督促状は届かなくなる。そのままでは無保険状態となり、医療を受けることが困難になる。持病があれば悪化するであろう。
最低所得・住居・医療が保障されていれば、すべてを失う前に支援できるはずである。

生きることが「綱渡り」になるギグワーク

2つ目の事例は、フードデリバリーの仕事で負傷した20歳代男性である。
男性はネットカフェで生活しながら非正規雇用で働き続けていたが、ある日、フードデリバリーの仕事で負傷して収入を断たれ、さらに感染症で高熱を発した。かろうじて入ったネットカフェから、つくろい東京ファンドに「お金も食べ物もありません」と助けを求め、個室シェルターに入居することができた。

業務上の災害の場合は労災保険が適用されるはずであるが、フードデリバリーのようなギグワークは「個人事業主」の扱いであることが多く、労災保険の対象とはならない。業務上の災害であっても何の保障もない「日銭」の就労形態でのネットカフェ生活は、負傷や病気で就労できなくなると路上生活しか選択肢がなくなる。
ネットカフェに1泊する資金があったことから、通信ができるうちに助けを求められたのは、不幸中の幸いだったというべきだろう。
1番目の事例と同様に、最低所得・医療・住居が保障されていないことが問題である。さらに、助けを求めるコミュニケーション手段の保障も必要だ。

「DV地獄に戻れ」という公的“支援”でよいのか?

3番目の事例は、夫によるDVから逃げてきたのに公的支援を得られなかった女性だ。知人の助けにより住居を確保することはできたが、家賃も光熱費も払えず、持病の治療も中断せざるを得なかった。
行政に相談すると、「夫に援助してもらいなさい」と言われたという。家賃滞納により路上生活しかなくなる寸前で、つくろい東京ファンドの個室シェルターに入居することができた。
家族のDVや虐待から逃れてきた人々に対し、行政が「家族のもとに帰りなさい」と対応する状況は、残念ながら珍しくない。特に生活保護では、いわゆる「水際作戦」の手段として多用される。その一言に、申請の意欲どころか生き続ける意欲を粉々にするインパクトがあることを熟知しているからであろう。
しかし、逃げてきた家族に居所を知られると、連れ戻されて暴力の日々が待っているかもしれない。
その恐れから転居先に住民登録せずにいると、健康保険は事実上利用できない。手持ち金が乏しいと、医療費の自費負担分を支払えない。
このような状況は、最低所得・住居・医療に関する保障が不十分であることに加え、女性に対する人権意識の欠如によって引き起こされている。

国籍国で生きていけなくなったら死ぬしかない?

4番目の事例は、日本国籍ではない路上生活者たちである。国籍国で生きていけない状況となったため日本に逃れてきたが、難民申請を認められず、就労することもできない。高い教育を受けてキャリアを積んでいても、その能力や経験を活かす場がない。健康を害しても、治療を受けることができない。妊娠しても、出産支援は例外的にしか認められない。
子どもであっても、「日本国籍がない」という理由で公的支援の対象外となる。日本で生まれても、父母のいずれかが日本国籍者でなければ、子どもは日本国籍にならない。
難民申請中は生活保護と同等の制度による公的支援(難民申請者等支援給付)を受けられることとなっているが、実際には「日本国籍者と同等」には程遠く、待機期間が長い。就労資格はあるが、日本に逃れてきたばかりの状況で仕事に就くことは難しい。
現実は、「日本の社会保障目当てでやってくる偽装難民が、難民申請を繰り返す」という俗説とは全く異なる。
初回の難民申請中でも、社会保障の対象になる前に、容易に路上生活となりうる。
難民申請を却下されると、さらに事態は深刻になる。就労は全く認められない。住民登録ができないため、国民健康保険を利用することができない。もちろん、生活保護を申請することもできない。国籍国に戻れば生きていけるというのなら、そもそも日本に来る必要はなかったはずだ。
このような状況は、難民条約をはじめ、日本が締結している国連の諸条約に違反している。つくろい東京ファンドをはじめとする民間団体は、脱法的行為を支援しているわけではない。むしろ、日本が自ら遵守を約束した国際条約に沿った行動を取ることができるように支援し、本来の意味での「国益」を実現しようとしていると見るべきだろう。

あまりにも「想定外」「対象外」が多すぎる

日本の社会保障制度の「想定外」となりやすい状況は、意外に多い。生活困窮状態とはみなされにくい例として、「高収入の夫・子どもとともに暮らしている専業主婦であるが、夫が非常に少ない生活費しか渡さないため、子どもと自分は衣食に困っている」「大学生で奨学金を受給しているが、その奨学金は親に使い込まれており、生活困窮状態に」などのケースがある。
生活保護の利用資格のある生活困窮状態であっても、制度の想定していない状況が何かあると、その部分で生活が困難になる。
さらに困難な状況に陥っているのが、日本の社会保障の「対象外」、具体的には日本国籍ではない人々だ。
特に、「最後のセーフティネット」である生活保護の利用は、例外的にしか認められていない。「日本に来る(いる)のが悪い」という意見も数多く見られるが、日本国籍の両親のもとに日本で生まれた子どもでも、無国籍になる場合はある。
「想定外」「対象外」は、公的支援の綻びにつながる。言い換えれば、誰かが落ちる落とし穴だ。日本国籍で日本に住民登録している人々が「落とし穴に落ちたくない」と望むのなら、日本の制度から「想定外」「対象外」をなくすのが近道だろう。実現した時に救われるのは、生活困窮状態にある人々や外国籍の人々だけではない。日本にいる人々全員だ。

小さな一歩だから、柔軟に制度に働きかけていけるはず

今回のクラウドファンディングの目標金額は、300万円である。決して、小さな金額ではない。しかし、予定されている用途を見ると、個室シェルターの維持(90万円)・家賃支援(100万円(5万円×20世帯))・エアコン/暖房関連支援(60万円(10万円×6世帯))・医療相談会の運営費補助(50万円)となっている。
できることも支援できる対象者も、多くはない。支援の手を届かせられない人々の多さに、溜め息が出る。「焼け石に水」なのかもしれない。

しかし、熱い石に水を掛け続けていれば、いずれは冷えるだろう。その後も水を掛け続けていれば、「雨垂れ、石をも穿(うが)つ」となるだろう。社会も制度も、少しずつ好ましい方向に変わることができるはずだ。
今回のクラウドファンディングに向ける関心は、間違いなく、水の一滴になる。もしも心が動いたら、支援も検討していただきたい。支援メニューは、3000円から用意されている。

外国人の生活保護「適正化」の流れの後ろにある“官製ヘイト”

つくろい東京ファンド事務局長の大澤優真氏から、以下のコメントが届いた。
【つくろい東京ファンドでは国籍を問わず、生活に困窮する方、住まいを失った方、制度のはざまで困っている方々の支援を行ってきました。
現場で出会う方と話をしていて「またしても」という感覚を覚えることが度々あります。人はただただ生活していても理不尽な目に合うことがあります。
社会的立場が弱い人はそれがさらに強く、連鎖的にあらわれます。逃げ出そうとしても逃げ出せない蟻地獄かのようです。そうした人に「それはあなたのせいでしょう」といった言葉が投げかけられることも珍しくありません。
自己責任だという言葉が投げかけられる理由は様々ですが、そのひとつに問題の背景が知られていないということがあると考えています。私たちは、なかには生きていけないほど生活に困窮している人がこの日本にいること、その背景事情について、地域や社会の皆様にお伝えしてきました。このクラウドファンディングもそのひとつです。
その一方で、自己責任論は強まっているようにも感じます。最近では、デマや不確かな情報をもとに外国籍の方への不安や憎悪を煽る場面を多く見聞きするようになりました。
それはSNSだけではなく、昨年7月の参院選や今年2月の衆院選での候補者演説であったり、1月に発表された政府文書「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」の中にもミスリードを誘うような文言が記載され、「官製ヘイト」だと指摘されることもあります。
不安や憎悪が醸成されるなかで、実際に外国籍の方への対応を「適正化」しようという流れもあります。生活保護では「適正化」をする根拠が政府から示されないまま見直しが進められることになっています。
2012年に生活保護費引き下げの大きな要因となり、国会議員が関わった生活保護バッシングがありました。後にこの引き下げは違法だと最高裁で判断されることになりますが、この時期のことが私の頭の中に流れ続けています。自己責任論の矛先が変わっただけなのです。
制度のはざまにある人は見えなくされがちです。それだけではなく攻撃の対象にもなります。何もしなければそのままです。取り残されている人がいるんだよということを引き続きお伝えしていきます】(大澤氏)
■みわ よしこ
フリーランスライター。博士(学術)。著書は『生活保護制度の政策決定 「自立支援」に翻弄されるセーフティネット』(日本評論社、2023年)、『いちばんやさしいアルゴリズムの本』(永島孝との共著、技術評論社、2013年)など。
東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了。立命館大学大学院博士課程修了。ICT技術者・企業内研究者などを経験した後、2000年より、著述業にほぼ専念。その後、中途障害者となったことから、社会問題、教育、科学、技術など、幅広い関心対象を持つようになった。
2014年、貧困ジャーナリズム大賞を受賞。2023年、生活保護制度の政策決定に関する研究で博士の学位を授与され、現在は災害被災地の復興における社会保障給付の役割を研究。また2014年より、国連等での国際人権活動を継続している。
日本科学技術ジャーナリスト会議理事、立命館大学客員協力研究員。約40年にわたり、保護猫と暮らし続ける愛猫家。


編集部おすすめ